天国?
―ここは死後の世界じゃあないのか。
そう、それは俺も考えたことだった。
電車の事故か何かに巻き込まれたとして、それがどんな事故であったとしても、目が覚める場所としては電車内か、意識を失っている間に乗せられた救急車内、あるいは搬送先の病院内にあってしかるべきで、当然この色のない世界は該当しない。
しかし、もしも先に挙げた場所の中で、命を失ってしまっていたとしたら? 「死後の世界」なんてものは信じていなかったが、それでもそういう話を聞いたことがないわけではない。
いわゆるベタなイメージとしての「あの世」、あるいは「天国」や「地獄」に色が無いという例は聞いたことがなかったが、そもそも俺自身は経験のない世界だし、こんなものだと言われればそうなのかもしれない。ただ。
「俺も最初ちょっとそう思ったんだけど・・・なんか違う気がする」
「なんで?だってこんな真っ白なとこ、日本にある?」
ない。日本どころか、地球上にないだろう。特殊なセットだとしても、突拍子すぎるし、見渡す限りの色のない自然物。そんなものを用意して俺たちを寝てるあいだにそこに連れてくる意味が分からない。「この世のものではない」と思うのが当然だ。
しかし、「あの世」だとしたら、なんで「あんなもの」がいたのか。
「ドラゴンっているだろ」
「ドラゴン?ゲームとかに出てくる火ぃ出すヤツ?」
なんで急にそんなことを聞いてくるのか、といった表情を浮かべながらも、女が応える。
「そのドラゴンに、俺、さっき襲われたんだ」
「は?」
女は一瞬、あっけにとられた表情をして、すぐに「あ、冗談か」と一瞬ゆるんだ。が、俺の表情は変わらない。そんな俺を見て彼女も眉間にしわを寄せた。
「マジで?え、ドラゴンってほんとにいるんだっけ」
「いや、いないと思ってたんだけど・・・天国ってドラゴンがいるもんなのか?俺はそんな話聞いたことない」
「え、なにそれヤバくない?どんくらいの大きさなの、ドラゴンって。つーかマジでいたの?」
「・・・見たほうが早いんじゃないかな」
俺はさっき逃げた先、ドラゴンのいる方向を指差す。
「このまま、下ってったら倒れてるから」
「え、うそヤバいじゃん・・・マジかぁ・・・」
言いつつ立ち上がると、キョロキョロと色のない世界を眺めながら確かめるように歩みを進める。俺も後を追う。ただし途中までだ。彼女には悪いが、あまり近くに行く気はない。その姿が見えてきたところで「あそこ」と指さす。