遭遇
振り向くと、予想に反してそこにはポツンと2つ、色があった。人間だ。女が一人、男が一人。伏しているのは、気絶しているのか死んでいるのか。見たとこ昼寝をしているわけではなさそうだ。色があるのは彼らだけで、景色はやはり白黒だ。そして、どうやらあの二人の格好には見覚えがある。あの時、電車の中にいた女と酔っ払いだ。
そんな中、視界の中に動くものがあった。白黒の一部が歪む。白黒の世界に浮かんだ色に気を取られたせいで一瞬気づかなかった、馬を一回り大きくしたようなサイズの「それ」は、本来なら一番に目に飛び込んでくるはずの異形だった。
恐竜のような身体。尖った角、鋭い爪、ワニのような歯。コウモリのような形をした大きな翼。周りの風景と同じように白黒のそれは、空想上の生物「ドラゴン」そのものだった。
「のわぁっ」
俺は声にならない声で叫んで、そいつから少しでも離れようとする。しかし、思うように体が動かない。
ドラゴン。なんでこんなところにドラゴンが?何故?どうして?疑問ばかりが浮かび、答えは出ない。代わりに投げかけられるのは、現実。ドラゴンの口元にはヨダレが垂れている。餌でも見つけたのか?まさか、その餌って・・・。
「俺かよぉおお!」
ここにきてやっと、体が動く。全力疾走だ。
「グラゥウゥルゥウウウウッ・・・」
後ろを見なくても声で分かる。エキサイトしている。俺を追ってきている。狩りが始まったのだ。あとはもう何も考えられない。相変わらず「何故?」という疑問だけを脳内で叫びながら、俺は走った。
そして――1分と走らないうちに、転んだ。