たどり着いた場所
ベチャリ。
顔いっぱいに広がる不快感は、俺の意識を強引に呼び起こしてくれた。「うぇっ」と思わず声を出す。ザラザラした肉の塊を顔面に擦り付けられたような、タチの悪い目覚ましだ。
「んぐっ・・・おぇ・・・」
しかも臭い。逃れようと必死に手で押しのけようとするが、思ったよりも抵抗力が強い。同時に体をひねったが、どうやらこちらの方が正解だったようで何とか正体不明の塊からは解放される。しかし、それと同時にもう一つの不快感に気づく。顔にべったりと粘液のようなモノがこびり付いている。そのまま目を開けるのが躊躇われ、思わず顔を手で拭う。
何度も目の周りを指でこすり、ようやく開いた目に飛び込んできたものは、これまでに見たこともない景色-―いや、それでは表現しきれない。言うならば、そう「これまでに体験したことのない景色」だ。
体の下にある芝生。少し離れたところに点々と生える木々。
なだらかな傾斜の先に見える、海(湖かもしれない)。そして、空。
それら目の前に広がる景色の全てが、「白」と「黒」で構成されていた。
「なんだこれ・・・」
目の前に広がるのは、白と黒で構成された世界。黒い輪郭のみで景色が作られている様子は、まるでコミック漫画の中にでも飛び込んだようだ。
「う・・・っ」
き、気持ち悪い。俺はその異常な景色を見続けることが出来ずに、せっかく開いた目を閉じた。長く見ていると酔ってきそうだ。徐々に慣らしたほうが賢明だろう。折角というのも変だが、目を閉じたついでに、心を落ち着けて考えてみる。
そもそも何故いま自分がここに居るのか?
混濁した記憶を辿る。サークルの連中と飲んだ居酒屋の光景が浮かんだ。二次会が終わって、三次会のカラオケに行く連中と別れて俺は一人帰路についた。電車に乗って、そして・・・そうだ、電車内で変な音が鳴って・・・収まったと思ったら、とんでもない衝撃で身体ごと投げ飛ばされて・・・・・・。あれはなんだったのか。電車の事故か?それとも大地震でも起きたのか?もしそうだとしたら、つまりこの場所は・・・。
意を決した俺はもう一度、目を開く。目を開けば、いつもと変わらない世界が広がっていて・・・なんて事をかすかに期待したが、やはり目の前の景色はモノクロだった。
前がそうなら、後ろもそうだろう。期待せずに後ろを振り向く。