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ライトニング・ウォーカー  作者: 魔桜
Chapter03:役者は舞台に出揃う
21/28

‐20‐ 二戦目

 ハンスマンは、本拠地としているサーカス小屋にいた。

 大戦時代に愛用していた特注の浮上艇は所々錆びてはいるが、今でも空を駆け回ることができる。

 ハンスマンは戦争によって刻まれた傷だらけの床をなぞる。その一つ一つの傷跡には歴史があり、過去を回想するには苦労しない。元々サーカス団の団員たちは大勢いた。時には喧嘩をしながらも、笑い合っていた。

 当時、団長だった人間は、ハンスマンにとっては恩人で、例え血が繋がっていなくとも本当の父親以上の存在だった。その恩人は人格者であり、戦争で親を亡くし、自分の国にすら見捨てられ、居場所をなくした子どもたちを拾っていた。

 そんな恩人は、ある日突拍子もない試みを団員達に提案した。

 それは、紛争地帯において、サーカスを決行するという試みだった。

 あまりにも無謀な計画に、その場にいた団員の誰もが首を振った。だが、恩人は頑として譲らなかった。首を振ると、彼はこう言った。

『こんな時にサーカスだなんて言う人たちもいる。だけど、俯いて悲しみにくれる人々に笑いを届けよう。それができるのは、きっと私達ぐらいなものじゃないか』

 恩人の想いは力強くて、真っ直ぐで、なにより優しかった。

 いつだって、思いやりを、この世で最も大切なものを忘れない。そんな素晴らしい恩人だった。

 だが、今はもういない。

 国家間の戦火に巻き込まれ、その尊い命を散らした。ハンスマン以外の団員も同じ道を辿った。だからハンスマンは、戦争を引き起こした王国の人間に復讐を誓った。

 国の上層階級の人間は、自分の懐が豊かになることしか考えていないような人間だった。だが、団長は、この世界の人間のために、その身を削って生きていた。国民のことを一心に考えていたのは、他ならぬ団長だった。

 そんな恩人の想いを踏みにじった国々を、許すわけにはいかなかった。この手で壊すことだけを生きがいにしてきた。どんな修羅に落ちようとも、必ず団長の無念を晴らすために、この世界に知らしめてやる。自分たちの犯した罪がどれほど重いことなのかを。

 だが、ハンスマンにも良心というものがある。人間を駒とするのは、あまりに卑劣だ。そんなことをするのは、憎き国々の王の行いと同等だ。

 だから考えた。

 人形を操って、未だに起こっている戦争を終わらせればいい。

 ある者に器を造らせ、そしてハンスマンが命を宿らせた。

 クロエのような失敗作は生まれてしまったが、他の団員はハンスマンに従順だ。《纏神装器》さえ手に入ることができれば、クロエを処分しなければならないかもしれない。だが、クロエの魔法を失うのは、あまりに惜しい。だからこそ即席の首輪を用意した。

 《ライトニング・ウォーカー》という便利な首輪だ。

 それでもまた、クロエが反旗を翻すというのなら、その時は仕方がない。また他の人形を補給すればいい。最初から傀儡人形は増やすつもりでいた。だが、こんなに早く国の人間の命を奪う好機が訪れるとは思っていなかったので、準備不足だった。

 だが、大戦時代に見かけた一騎当千であった神霊の腰巾着のお蔭で、こうして事を起こせることができる。それだけは感謝してやってもよかった。

「……ハンスマン様。どういたしましょうか」

 製造させたばかりである人形が、暗がりからのそりと現れる。

 感情のない瞳をしている。

 今度の人形は、今までの人形と比較して細部に至るまで調整したお蔭で、とびきり有能だ。ハンスマンの命令を疑問なく遵守するところなど大いに気に入っている。扱う魔法も特異であり、扱うのは難しいだろうが、そこは経験を積ませればいいだけだ。全てはこれからだ。これから、実力を磨けばいい。多くの屍の山を越えて、強さを手に入れればいい。

「……そうだな。そろそろ闇の空へと踊りだそう。そして、天壌より、この私が舞い降り、天罰を下そう。この世の平穏の始まりという祝砲もかねてな」

「かしこまりました」

 人形は動力室へと急ぐ。

 他の団員達はどうなったのだろうか。ゴーゴンやジェラート達は一体どうなったのだろうか。補給する人数が増えるのは手間だ。それにしても、相当な実力を誇る魔操士を葬ったというのだろうか。あの、すっかり牙を無くし、腑抜けてしまっ――

 

 ドオオオオオオン!! という爆音のような破壊音が、鼓膜を震わす。


 浮上艇の上から見下ろす。

 壊れた扉から、白煙が霧のように漂う。

 軍の人間に嗅ぎつけられたのか。だが、それにしてはおかしい。攻めてくる確証があるのならば、もっと砲弾の一つや二つを放ってきても不思議ではない。それか、鉄砲を担いだ軍隊が押し寄せてくるかのどちらかだ。

 だが、巻き上がる白煙に映る人影は、たったの一人きり。

 ハンスマンの思惑を知っている人間には心当たりがある。だが、ハンスマンの実力差はその身で、芯まで味わったはず。目の前でクロエを奪われ、心は折れたはず。あれから日も立っておらず、そいつは確実に満身創痍。そして、勝機は万に一つもない。

 だが、濃煙から這い出してきた男を観ると、想像していた人間だったので驚嘆する。姿を現した男を見下ろしながら、視界に入っていながらも、それでも自分の目を疑った。

「命を捨てに来たのか。――《ライトニング・ウォーカー》」

 フッ、とライオネルは微笑すると、

「違うよ。取り返しに来たんだ。――僕の……大切なものをね」

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