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ライトニング・ウォーカー  作者: 魔桜
Chapter02:傀儡人形は真実を知る
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‐11‐ 沈黙の村

「村だ。……こんなところに?」

 急な斜面の丘を上っていくと、眼下に広がったのは精々多くて五十数人程度が暮らしているような村だった。

 こんな中途半端な場所にある村だけあって、静けさが漂う。

 ミラの町の方がよっぽど栄えている。

 ライオネルは丘を下って行こうとすると、追従してくる足音が聞こえてこない。

 訝しげな表情で後ろを振り返ってみると、クロエが立ち止まってジッと町に視線を投射していた。表情に翳りがあり、長時間の徒歩に疲れが表面化してきたのだろうかとも思ったが、どうもそれだけじゃなさそうだった。

「……クロエ?」

「……あっ……。……ど、どうしたの?」

「なんかぼーってしてたよ。どうかしたの?」

「ううん。何でもないの」

「なんでもって……」

「ほんとに、なんでもないって」

「……そう? だったらいいんだけど」

 見るからに辛そうな顔をしていたが、ここで埒外な言葉の応酬をしている訳にもいかない。疲れが溜まっているというのなら、なおのこと休憩のとれる町に急いだ方がいい。

 どことなく不安の残ったまま、町を目指す。クロエの進む足は先ほどより遅く、ライオネルの半歩ほど後ろについて歩くといった感じになった。

 頼りにされているようで、それはそれで嬉しかったのだが、やはり精神的な問題が大きいのかも知れないと思った。

 ここまでよく持ったほうだ。クロエの盗んだ《纏神装器》を取り返そうと、いつ追っ手が駆けつけてくるのかも分からないのだ。

「だけど、クロエのサーカスの……ジェラート……だったかな? ずいぶんと無茶をする人だったね。まさか列車に爆弾を仕掛けるなんて」

「……う、うん」

 ピクン、とクロエは耳を動かす。

 何故か冷や汗がだらだらと流れ出し始めた。

「いくらクロエを連れて帰るためだったとしても、乗客を巻き込むようなものを使うなんて……」

「そ、そう……だね」

「もしかして、やっぱり体調悪い?」

「そ、そうじゃなくて…………実は…………の…………」

 何故か歯切れが悪くなるクロエ。

 きょろきょろと忙しなく目を動かし、しどろもどろになっている。

「ごめん、聞こえなかったんだけど……」

 ライオネルは聞き返す。

 モジモジしていたのだったが、やがてクロエは、意を決したように、

「……だから、その……爆弾をセットしたの、実は……私でした」

「……え?」

「ち、違うの。あれはあくまで奥の手で、使うつもりなんてなかったんだけど。何故か仕掛けていた爆弾が勝手に爆発して――」

「あー。多分、大丈夫。僕の所のスカーレットが爆発させたものだと思うから」

 なんとなくあの爆弾騒ぎの全貌が分かってしまい、あの列車で巻き込んでしまった乗員には謝罪したくなった。暴走したスカーレットが、爆弾を引火させたのだろう。そのぐらいやってのけても何の不思議もなかった。

「スカーレット?」

「うん。実は僕とそのスカーレットと、それからエアリーっていう妖精の三人で、ミラに『妖精の隠れ家』っていうパンを売る店をやっているんだ。何もかもが落ち着いて解決したら、クロエも僕の店に来るといいよ。ちょっと乱暴なところはあるけど、スカーレットの作るパンは絶品だから、ぜひ一度食べて欲しいな」

「その、スカーレット……さんって、もしかして女の人?」

「そうだよ。……あれ? スカーレットのこと昨日のうちに話したかな?」

「ううん。なんとなくそう思っただけ」

 硬質になった声のまま、少しばかり早歩きになったクロエを見て、少し安心した。どうやら話している内に元気を取り戻したようだった。

 そうこうしている内に、村に到着した。

 だが、やはり様子が変だった。あまりにも閑散としている。時間帯や地理的な問題も考慮できたが、いくらなんでも村の外に誰もいないというのは変だ。それに、一切の物音がしない。人の気配というものが感じられない。

「……静かだね」

「いいや、これは静か過ぎる。ちょっと、下がっていて」

 万が一のことを考え、クロエを下がらせると、近くの家の扉をノックする。一応、家の上がる旨を言って、数秒待ってはみたが、なんの反応も返ってこない。一応家の中から何ができても戦えるよう、深呼吸を数度とって胸騒ぎを収めると、ガチャと、勢いよく扉を開ける。

 だが、中は無人。

 人が生活していた様子はあるのだが、部屋の隅には蜘蛛の巣が張っていたり、ベッドが埃かぶっていたりしていた。

 こういう小さな村ならば、外からやって来た人間を警戒して家から出てこないことも多い。何故なら、金品や食料欲しさに、警備の整っていない小さな村を襲うということは珍しくないからだ。それだけ、戦争による飢餓や貧困は未だにこの世界に蔓延している。

 だからこそ、武装した村人達が、家の中に立て籠っているのだと思ったのだが、そうではないらしい。他の家の様子も、クロエに手伝ってもらってくまなく伺い回ったのだが、誰ひとりとして見つからなかった。

「誰も、いない。……どういうことなんだ」

 ライオネルは表情を曇らせ、小さく呟きながら、考えを頭の中で巡らす。

 モンスターの異常発生や盗賊の襲撃を考えたが、それだと疑問が残る。

 何故、家の中が荒らされていない。

 どの家も、ある程度人間が住んでいないせいで、老朽化している家もあったが、ほとんどが綺麗そのものだ。まるで、生活していた村人達が、突然いなくなったようだ。食糧不足による団体移動も考えたが、温暖な地域にあるこの村でそれはありえない。

 他に考えられるとしたら、集団誘拐といった線だが、村の人間全員を有無を言わせず連れいくなんてことは現実味がない。協力な魔操士が数人いれば、不可能ではないが、そんなことをしてもそいつが得するとも思えない。

 一体どういうことなのかと、ぐるぐる頭の中を回転させていると、ドサッと後ろで何か音がする。何があったんだと振り返ると、クロエが地面に倒れ附していた。

「クロエ?……おい、クロエ、クロエ……!」

 ぐったりとしていたクロエに駆け寄って額に手を当ててみると、高熱を発している。

 疲れとかいった生易しい症状じゃない。ハァハァと喘ぎ苦しみながら、過呼吸気味になっていて、尋常でないほどの発汗をしている。何度声をかけてもろくに返事も返ってこない。

 それから徐々に目蓋を閉じていき、やがて意識を喪ったクロエは頬だけでなく、全身は熱を帯びているかのように赤く染まっていた。

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