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ライトニング・ウォーカー  作者: 魔桜
Chapter02:傀儡人形は真実を知る
10/28

‐9.5‐ 砲弾

 水中モンスターだ。

 ぬちゃあとねばつく粘液を分泌しながら、川から這い出てくる。

 容姿的には巨大な蛙に類似している。ギョロギョロと眼球を動かしながら、パチパチと数秒に何度も瞬きをする。特徴的な声音を響かせると、その音を聞きつけてやってきたモンスターの仲間が次々と川辺からやってくる。

「こ、れは……」

 クロエが戦慄している。それもそのはずだ。モンスターなど、平凡な日常生活を送っていれば滅多のことがなければ目撃することなどない。まず、人が住んでいるような街などに出現することはありえない。

 だが、このような更地同然の場所は、モンスターの住処となっている。

 なにより、ここは水という資源がある。繁殖するにはもってこいの場所。だが、ここ最近モンスターの目撃情報が耳に入ってこないので、拠点場所を移動しなくてもいいとタカをくくっていた。

「クロエ。悪いけど、この敵は僕独りじゃ手に余る。できれば一緒に戦って欲しい」

「う、うん。でも……」

「今は水中モンスター達の繁殖期なんだ。だから、《マチュラ》もせっかく見つけた食料を逃す気なんてないよ。――人間の肉をね」

「…………ッ」

 怯えているように、クロエは足を竦ませる。

 モンスターの中には名称をつけられていない方が多い。だが、《マチュラ》と名を与えられているということは、そこそこ脅威であるという証だ。

 体中から絞り出すようにして出される体液に触れると、体が痺れて動けなくなる。

 《マチュラ》は爪や牙などといった武器は一切もたない。だが、その代わりに長い舌が脅威となっている。平常時は口の中に舌を丸めて収納しているため、出した時には舌が伸びるかのように視える。そして、距離感を間違えた獲物を捕えると、鉄をも一瞬で溶解する唾液を垂らす。

 そうして、骨となった生物を、ゴクリと人呑みしてしまうのだ。

「クロエ、なるべく近づかないようにして……。《マチュラ》の舌に気をつけて、離れたところから攻撃すればいい」

 コクン、と首肯する。

 ライオネルとて、一人で片付けておきたいところだが、どうにも相性が悪い。即効性のある粘液を絶えず体から発している《マチュラ》に対して、ライオネルのできることといえば拳による一撃。必ず、敵の皮に触れなければならない。そんなことをすれば、自ずと結果は見えているというものだ。

 一匹とならば、どうってことはないが、黒夜の中を凝視して観ると、その数は二十に達しようとしていた。

 リーダー格のやつだろうか。先頭を陣取っている、一際大きめの《マチュラ》が、ガバッと口を開ききる。舌が絡みついてくる、と警告の叫びをする前に、ライオネルに向かって唾液の弾が《マチュラ》の口内から発射される。

「――くっそ」

 悪態をつきながら、瞬時に魔法術式を構築、展開すると避ける。頭が割れそうな痛みに蝕まれるが、そんなものはまだマシだと言える。ジュウウと地面が灼け爛れたような音をさせている地面を見れば、誰だって……。

「前!」

 クロエの忠告を耳にすると、視線を移動させる手間を省き、横っ飛びに跳ねる。またもや、シャボン玉のような半透明な液が破裂すると、地面に窪みをつける。

「こんな攻撃をする《マチュラ》観たことがない……」

 取りあえず、距離を取る。白骨死体になるのは勘弁だ。

「クロエ、遠距離から《マチュラ》を一掃できるような武器はある?」

「……あ、あるよ」

「よし。だったらまずは、影を薄く《マチュラ》全てを呑み込むように影を伸ばして」

 《マチュラ》の群れが一斉に口を開く。

 肉体を焼き切る唾液の弾幕を掻い潜りながら、クロエに激として指示を出す。説明しようにもその余裕はない。クロエは半信半疑といったところだが、素直に言うことを聞いてくれた。

 ゴウッ、と寒気のするような深い影を落とすと、それを広範囲に渡って拡げる。

 すると、やはりと言うべきか。ズブリ、と沼のような性質を持った影に、《マチュラ》達は足元を掬われる。そのまま影の中に呑み込めることができれば最善。だが、《マチュラ》は水辺のある場所ならば、例え沼だろうが生息できるモンスター。当惑しながらも、すぐに絡みつく影から抜け出そうと奮闘する。

 だが、ライオネルのしたかったことは、《マチュラ》の攻撃を一瞬でも停止させるということ。それから、あの厄介な投石器のような攻撃をできなくさせること。あれは足場のしっかりしていない影では、どこへ飛ぶのか分からない。

 一度の魔法で、二つの行動を一気に制限させられた。クロエだけでは、武器の引き出し程度しか思いつかなかった魔法は、工夫次第でいくらでも今までに見つけられなかった効力を発揮する。

「いまだ、クロ……エ?」

 攻撃の合図を出す。だが、クロエは既に複数の砲台を影から出現させていた。まるで、艦隊そのものの武器の保有数だ。導火線のように影を縄の形状にすると、光源としていた火の元に近づける。そして、一気に炎が影を迸ると、大量の大砲が火を噴いた。

 耳を聾するほどの砲撃音。

 情け容赦のない攻撃。煙が晴れると、そこには《マチュラ》の肉片が飛び散っていて、地面は大幅に抉れていた。

「……やった!」

 無邪気にはしゃいでいるクロエと裏腹に、ライオネルの唇の端はヒクついていた。

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