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勇者の俺、魔王とパパ友になりました

作者: 鱈場蟹
掲載日:2026/04/09

ここ最近、魔王軍の攻撃はまったくなかった。


街も市場も、戦いの緊張感は薄れている。勇者として警戒してきた俺は、少しだけほっとした。しかし、なぜ平和なのかは分からない。


「……まさか、何かの罠か?」


考えすぎかもしれない。しかし、魔王を倒すなら今しかない。俺は決意を胸に、魔王城へ向かった。


城の門を蹴破ったとき、俺は世界を救う覚悟だった。仲間と出会い、別れ、雪山で凍え、砂漠で干からびかけた。何度も死にかけ、それでも進んできたのは、最後にいる“魔王”を倒すため――のはずだった。


「よく来たな、勇者よ」


玉座に座る魔王は威厳に満ちていた。黒いマント、鋭い角、赤い瞳――ここまでは完璧だ。


だが、その隣にちょこんと座る小さな影が、すべてを台無しにしていた。


「ぱぱー、このひとだれー?」


……子ども?


俺は剣を構えたまま固まった。


「うむ、紹介しよう。我が娘だ」


「いやいやいや!」


思わず素でツッコむ。魔王は眉をひそめる。


「なんだ、勇者ともあろう者が礼儀を知らぬのか」


「礼儀以前に状況がおかしいだろ! なんで魔王に娘がいるんだよ!」


「いるだろう、普通に」


普通とは何。俺の中の魔王像が音を立てて崩れていく。


娘はててて、と俺の前まで来てじっと見上げた。


「おにーさん、あそぶ?」


「いや、俺は遊びに来たんじゃなくて――」


「すまんな。今日は保育所が休みでな」


「魔王に保育所事情あるの!?」


「共働きだからな」


「誰とだよ!」


「妻だ」


「いるの!?」


完全にペースを持っていかれた。気づけば剣を下ろしていた。


「おやつの時間だぞ」


「やったー!」


娘が走っていく。魔王は慣れた手つきで菓子を並べる。


「……食うか?」


敵の本拠地でクッキーを渡される勇者がどこにいる。だが、結局俺は座ってそれをかじっていた。うまい。


「で、勇者よ。今日はどういう用件だ」


「それ聞くか普通」


「忘れたのか?」


忘れてはいない。しかし隣で楽しそうに笑う子どもを見ると、言葉が重くなる。


「……魔王を、倒しに来た」


「そうか」


あっさり頷く魔王。


「だが今は無理だな」


「即答かよ」


「育児中だ」


「理由が現実的すぎる!」


魔王は真顔で言った。


「夜泣きがな、なかなか手強い」


「知らねえよ!」


娘がジュースをこぼす。魔王が無言で拭く。その光景を見て、俺は剣を握る理由が分からなくなった。


「……相談がある」


「今度はなんだ」


「人間界の公園に行きたい」


「急にスケール下がったな」


「娘が行きたがっている」


袖を引かれる。断れなかった。


「一回だけだぞ」


「助かる」


その日から、奇妙な関係が始まった。


ーー三日後、俺は魔王と娘を連れて人間の公園にいた。魔王はフードで角を隠しているが、正直バレそうだ。


「ここが……公園か」


「変な感動するな」


娘は滑り台に一直線だった。その背中を、俺と魔王は並んで見ていた。


「平和だな」


魔王がぽつりと言う。


「こういうの守るのが勇者の仕事だからな」


「では俺は、壊す側か」


その言葉には、わずかに重さがあった。しかし魔王は肩をすくめる。


「少なくとも今は、その気はない」


娘が笑っている。その横顔は、どこからどう見ても“ただの友達”だった。


「……次も来るか?」


気づけばそう言っていた。


魔王は少し驚いてから笑った。


「ふむ……勇者、将来お前に子どもができたら、それなら本当にパパ友殿だな」


俺は固まる。


「まだ俺パパじゃねえぞ!」


魔王はくすくす笑うだけだった。


戦いは、なぜか始まらなかった。


ーーそして数年後。


俺は同じ公園にいた。腕の中には、小さな命がある。


「……マジで大変だなこれ」


泣き止まない。あのとき魔王が言っていた意味を、ようやく理解した。


「待たせたな、勇者よ」


振り返ると、いつもの二人がいた。


「おにーさん!」


少し大きくなった娘が駆け寄る。


「そのこ、だれ?」


「俺の子だ」


二人そろって固まった。


「勇者……いつの間に」


「普通に結婚しただけだよ!」


娘は興味津々で赤ん坊を覗き込む。


「さわっていい?」


「優しくな」


小さな手が触れた瞬間、赤ん坊がぴたりと泣き止んだ。


「え」


「なかよくなるの、とくい!」


得意げな顔。魔王が苦笑する。


「なるほど……これなら本当にパパ友殿だな」


娘は赤ん坊の手を引こうとする。


「ほら、あそぼ!」


「まだ無理だろ」


「すぐできるようになる」


魔王が静かに言う。その言葉に、妙な実感がこもる。


「……そうだな」


きっと、そうなる。この子も、走って、転んで、笑う。その隣に、あの子がいるかもしれない。


「勇者よ」


「なんだ」


「いずれ、我らが戦う日が来るかもしれん」


「だろうな」


否定はできない。


「そのときは」


「そのとき考えりゃいいだろ」


俺は言い切った。


魔王は一瞬黙って、それから小さく笑った。


「……やはりお前は勇者だ」


「そりゃどうも」


娘が笑う。俺の子も、つられて笑う。それを見て、俺たちは同時に目を逸らした。直視するといけない気がした。


「なあ」


「なんだ」


「次、うちの近く来るか?」


少しの間。魔王はゆっくりとうなずいた。


「ああ。それもいいな」


娘が振り返る。


「あしたもあそぶ?」


俺と魔王は顔を見合わせ、同時に答えた。


「それは無理だ」


少し遅れて笑う。


勇者と魔王。本来なら交わるはずのない関係。それでも、この公園にいる間だけは、俺たちはただのパパ友だった。


ーー数年後、魔王城と王都の間には、かつてないほど平和な空気が流れていた。


魔王が人間界との会談に臨むのも、子どもたちの笑顔を守るためだ。


「……魔王殿、あなたが突然攻めてくることはもうないのですね?」


「当然だ。人間界を攻めるより、娘の笑顔を見る方が大事だからな」


代表は驚きつつも、少しずつ表情を和らげた。


市場では魔族の作る特産品が並び、子どもたちは一緒に遊び、時には人間と魔族で運動会まで開かれるようになった。


夕暮れ、公園で砂場遊びを終えた子どもたちが手をつないで走る。


「……見ろ、人間も魔族も、こうやって仲良くできるんだ」


「ほんとな」


俺と魔王は互いに目を合わせ、うなずいた。


かつて剣を交わした敵と、今は肩を並べる仲間。世界を救う勇者も、かつての敵も、子どもたちの笑顔の前では同じように微笑むだけだった。


勇者と魔王。かつては敵同士だった二人が、今では本当に、ただのパパ友として肩を並べていた。

どうも、鱈場蟹です!

読んでいただき、ありがとうございました!

今回は勇者と魔王という、元々は敵同士の二人が「パパ友」になるという、ちょっと変わった日常を描いてみました。

剣を交える戦いも、世界を救う冒険ももちろん楽しいですが、たまにはこういう、ほのぼのした世界もいいかなと思って書きました。


勇者も魔王も、子どもと一緒にいると少しだけ“普通の人”になってしまう――そんなギャップを楽しんでもらえたら嬉しいです!

皆さんの反応を励みに、またゆるっと楽しい短編を書けたらと思います!


それでは、また物語の世界でお会いしましょう。

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