第8話 死角とシェル構造
次話は3/31(火) 18時に投稿予定です。
――――ドゴォォオオオオン!
バリバリ―――メキメキ!!!
(なっ、なんだぁぁあああ!!??)
「ぴっ、ぴぴぃぃいいい!!??」
―――突然の轟音に、オレは飛び起きた。
ここは―――そうだった、昨日急造で作った丸太小屋だ。
隣ではアカネが、気持ちよさそうに寝ている。
今の音で起きないとか、コイツ大丈夫か?
音の元凶を探るべく、周囲を見渡した。
あれ、そういえば、マリーがいない。
オレたちに寄り添うようにして眠っていたはずだ。
どこか、朝の散歩にでも行ったのだろうか。
それにしても、今の音は―――
―――ドゴォォオオオン!!!!
(うおおおおっ!?)
「きゃああっ!! な、なに!?」
再び、壁に何か硬くて重いものがぶつかったような衝撃音。
注意して周囲を伺うと、それ以外にも、ズン…ズン……と地面を揺らす振動が伝わってくる。
何か巨大なモノが、小屋の外で動いているような―――そんな気配がする。
一回目の音で起きなかったアカネが、二回目でようやく目を覚ました。
サポート役なのに呑気だな!?
ふと、大震災の時も目を覚まさず、揺れが収まってから起き出してきた弟を思い出したわ。
っと、オレもそんな事を考えている場合ではなかった。
壁を見ると、二度の衝撃で、丸太が割り裂かれていて、もう今にも折れて崩壊してしまいそうだ。
どうしようか迷っている間に、木片がバラバラと落下し、メリメリとイヤな音が聞こえてくる。
このまま、中にいると危ない!
(アカネ、起きたか!? とにかく、外に出るぞ!)
「えっ? は、ハイ!!」
まだ入り口付近は無事だったので、二人で慌てて飛び出した。
一体、何がぶつかってたんだ?
どこかから、岩でも飛んできたのか?
小屋から出て、サッと周囲を見てみるが、やはりマリーの姿はない。
いったい、どこに――――
「ギィィィエエエエ!!」
頭上から、何かが振り下ろされる……!
とっさに右に飛び込んで躱す。
(くっ……!!)
ズドォォオン……!
間一髪で躱したそれが、地面に突き刺さる。
これは―――岩じゃない、攻撃だ……!
地面に突き刺さった巨大な尾、そしてその本体をようやく視界にとらえた。
(な、なんじゃこりゃあ!?―――で、でかいサソリ……!?)
「ひっ―――!?」
体高2メートル以上もありそうな、デカいサソリを目にして、一瞬固まるアカネ。
そういえば、前に「虫系が苦手」って言ってたな、あれは柏木だけど。
「イヤーー、キモすぎぃい!!! ムシはいやぁあああぁぁぁぁ……」
と泣きわめきながら、ぴゅーっとオレの陰に隠れた。
といっても、アバターのオレじゃなく、本体の大樹の方に駆け込んでるんだけど。
……あいつ、オレを置いて逃げやがった。
あと、サソリは虫じゃないと思うんだが。
それに、見ようによっちゃ、今のアイツ自身が羽虫みたいに見えなくもないぞ。
言ったら二度と口をきいてくれなくなりそうだから、言わないけど。
(お、おい、アカネ! オレはどうしたらいいんだよ!?)
一応サポート役なんだろ!?
今こそアドバイスが必要な場面だろ!
すると、樹の陰からチラっと顔をのぞかせるアカネ。
「が、がんばって倒してくださいよ! 私はここで応援してますから! 信じてますよ、センパイ!」
(な、なにぃ………!?)
倒すって、オレがか!?
マリーがいない以上、オレしかいないのはわかるが、こんなのどうすりゃいいんだよ!?
「そ、ソイツはジャイアントフォレストスコーピオンって魔物です! 大きなハサミと、死角から飛んでくる毒尾に注意!」
(お、おう!……………それで!?)
しかし、それ以上の事は答えずに、サッと身を隠すアカネ。
(ってオイぃぃ! それだけかよ~!? そんなの見りゃわかるんだよ!)
もっと、倒し方とか、敵の弱点とか、そういうの待ってるんですが!?
アカネとお互いに不毛な言い争いをしている間に、大サソリがドスン、ドスンと地面を揺らしながら近づいて来る。
その恐ろしい目で、しっかりとオレを見据えている。
全身が黒緑の甲殻に覆われていて、言うまでもないが、いかにも硬そうだ。
どうして襲ってきてるんですか、と問いかけたい所だけど、ムダだろう。
見るからに凶悪な両腕のハサミを、ガチンガチンと鳴らしながら、さらにじりじりとオレに近づいて来る。
デカい。
今の自分が5歳児程度だから、余計にそう感じるというのもある。
それに、この危険な気配。
この世界に生まれてから、感じられるようになったものだ。
オーラとか魔力とか、そういうものかもしれない。
この世界には、こんな危険な生物が、そこら辺にウヨウヨしてるのか?
ジャイアントフォレストスコーピオンは、明らかに、目の前の生き物を捕食対象として見ている。
チラリと先ほどまで寝ていた小屋を見ると、無残に破壊されていて、その破壊力に背筋がゾッとする。
あんなもの食らったら、オレなんてひとたまりもないぞ!?
(マリー!! どこ行ったんだよ!? 今こそ、オレを守護る時だぞ!!)
こちらも、相手の動きを見逃さないように注意しながら、チラチラと周りを伺うが、やはりマリーはいない。
そしてアカネは頼りにならない。
これはもう、覚悟を決めるしかなさそうだ。
突然の出来事にかなり動揺してしまっていたが、こうなると、逆に落ち着いて来る。
昔から、オレはこういう性格だ。
人生、なるようにしかならないし、すでに人生ですらない。
フウッ―――と、一つ小さく深呼吸をして、気持ちのスイッチを入れ替えた。
(よし、オッケーだ)
覚悟を決めたら、後は実行あるのみ。
―――さて。
今のオレに出来る事で、戦闘に使えそうな能力と言えば―――
(【操樹】か……正直、小屋を建てるぐらいしか、役に立たないかと思ったけど……)
神授の森に由来する植生を、自分の意思のままに操る事ができるスキル。
これを上手く利用すれば―――
(考えようによっちゃ、意外となんとかなるかもな……)
使えそうなモノがないか、周囲を探るために、チラッと、ヤツから視線をそらした。
―――その瞬間。
獲物のスキは逃さないとばかりに、
「ギィィイイ!」
ジャイアントフォレストスコーピオンが、左のハサミを素早く伸ばし、オレを切り裂こうと動いた。
このままでは、この愛らしい緑のアバターちゃんが――真っ二つに!
(まずっ! 【操樹】―――!!!)
とっさに、オレは組んであった小屋の丸太をこちらに引き寄せようと、手をそちらに向けて、能力を解放する。
すると、丸太が、まるで自らの意思を持つかのように、滑るように動き出し―――さらに加速!
オレから見て左、ヤツからしたら右前方から、丸太が猛スピードで飛んでくる。
そして、迫りくるハサミに、正面から叩きつける。
次の瞬間、鈍い衝撃音が響き―――
ガイィィイイイン!
(―――ん? この音……?)
丸太をぶつけられて、ハサミを弾き飛ばされたジャイアントフォレストスコーピオンは、大きく体勢を崩している。
ぶつかった衝撃音に、少し違和感を覚えたが、それは後で考えることにする。
(よし、今だ―――!)
チャンスとばかりに、今度はこちらから攻めようと構えるが―――
ふと、視界の端にキラリと光るなにかが見えた気がして、慌てて後ろに飛び退る。
―――ズゴォオオオ!
間一髪、先っぽが凶悪に尖った毒尾が、目の前を猛烈な勢いで、空気を切り裂きながら、地面に突き刺さった。
(――――っぶな! 死角からの尾の一撃、確かにやっかいだ!)
せっかくハサミの攻撃を躱しても、むやみに突っ込もうとすると、手痛い反撃を喰らうわけだ。
しかも、掠っただけで毒にやられる。
これでは、こちらから、近づいて攻撃する事も出来ない。
こいつ、意外とスキのない攻撃をしてくるぞ。
……さて、どうする?
(……って、待てよ?)
死角からの……?
(そういえば、オレって、今は……)
◇
目の前の獲物が、考え事をしながら、あさっての方向を向いている。
ここぞとばかりに、ジャイアントフォレストスコーピオンは、今度は右のハサミで、獲物を引き裂こうと、腕を横から薙いだ。
ビュォオオオ!
うなりを上げて、標的に迫る巨大なハサミ。
獲物はハサミに気付いていないのか、まだよそ見をしたままだ。
「センパイ、あぶないっ!」
樹の陰に隠れた羽虫のような生き物が、なにか叫んでいるが、もう遅い。
捉えたと思った瞬間―――
―――ヒョイ!
こちらを見ないまま、まるでこちらの動きが見えているかのように、危なげなく躱された。
「……グォォ?」
自らの必殺の攻撃が躱され、訝しむような声を上げるジャイアントフォレストスコーピオン。
「ぴっぴっぴ……」
こちらに向き直り、不敵な笑みを浮かべる獲物を前に、じりっと一歩後ずさる。
◇
(ふっふっふ……)
「ぴっぴっぴ……」
内心冷や汗を流しながらも、余裕の態度を敵に見せつける。
闘いには、ハッタリも必要だ。
(大丈夫だとは思ってたけど、危険なのには変わりないし、怖かった~!)
よそ見をしながら、ハサミの攻撃を躱せたカラクリ、それは―――
視界に、巨大なサソリと―――オレが映る。
そう、みんな覚えているかわからないが、オレの本体はあくまで大樹なんだ。
アバターの身体で、家の中で眠れる幸せに、すっかり忘れていたが。
そこ、お前が忘れるなよって言葉は口にしないように。
で、本体とアバター、両方の視界が見えている以上、オレに死角はほぼ存在しない、と言ってもいいだろう。
アバターの後ろから攻撃されたって、バッチリ本体から見えちゃってるのである。
自分に知覚できないような速度の攻撃とかは、さすがに躱せないが、このサソリの攻撃ぐらいなら、なんとか躱すことができる。
一撃を躱されたサソリが、今度は躱されまいと、連続攻撃をしかけてくる。
左、右、そして尾の三段攻撃。
普通なら、躱すことは難しいだろうが、今のオレは余裕を持って躱すことができる。
まるで格闘ゲームでキャラを操作しているようだ。
その後も、サソリの攻撃を全て躱すか、体勢が厳しい時には【操樹】で飛ばした丸太で防いだ。
もはや、ヤツには決定的な攻撃方法がなくなったようだ。
これで、オレが有利な立場に立ったぞ。
こちらにまったく攻撃が通じなくなり、身の危険を感じたのか、ジャイアントフォレストスコーピオンの動きが、目に見えて鈍った。
そのまま、じりじりと後ずさる。
(もしかして、逃げるつもりか?)
逃げるなら、逃がしてしまってもいいような気もするが、いつまた寝込みを襲われるか、わかったものじゃない。
倒せるなら、確実に倒すべきだ。
(今度は、こっちの番だ! 悪いが、覚悟してもらうぞ!)
敵の攻撃を躱しながら、考えていたことを、実行に移す。
(【操樹】―――!)
オレがサソリに向かって手をかざすと、周囲の地面から、ザザザ…と何本ものツルが伸びてくる。
そうだ。
なにも、操れるのは木だけとは限らない。
この森に生まれた植生全てが対象となる。
スルスルと、ツルが現実味のないスピードで伸びてきて、ジャイアントフォレストスコーピオンの身体に絡みついた。
むかし理科の授業で見た、植物の成長記録映像をさらに早送りしたみたいだ。
うにうにと、次々とツルが伸びてくる。
……うん、ちょっと気持ち悪いと思った人いるよね?
正直オレもちょっと思ったから、責められないわ。
サソリは、絡みつくツルから逃れようと、ハサミでツルを切ろうとするのだが、なかなか思うように切れない。
ただのツルではないのだ。
操っている感覚でわかったが、どうも自分の神霊力とやらがツルに作用して、普通ではありえない強度を持つようになっているようだ。
次々と伸びてくるツルに絡み取られ、必死にもがくジャイアントフォレストスコーピオン。
すでに身動きが取れなくなっている。
これで、完全に敵の動きを封じ込めた。
ただ、それだけで、勝ったとは言えない。
ただ動けなくしただけだ。
ここで、切れ味の鋭い剣とか、武器を持っていたら、それで攻撃するところだが、残念ながら、武器は一切持っていない。
……まあ、たとえ持っていたとしても、今のオレ程度の技量と力では、あの硬い甲殻には、傷をつける事も出来なかっただろうが。
では、オレにはこれ以上、どうする事も出来ないか?
いや、これがそうでもないんだよな。
まあ見ててくれ。
オレはアバターの手を、ツルに巻き取られたサソリにスッと向けた。
そして、精神を集中し、
(はぁああああ!!)
「ぴぃぃいいい!!」
ありったけの神霊力を、ツルに向かってさらに流し込む。
すると―――
………ビキ……
固いものに、ヒビが入ったような乾いた音がした。
ビキ…ビキビキ………
そして、それは段々と拡がって行く。
ビキビキビキ……!!
それはすぐに、目に見えるほど、はっきりとしたひび割れが、全身の甲殻に発生していった。
(―――よし、思った通り!)
”シェル構造”という物をご存じだろうか。
一番身近な例でいうと、卵だ。
卵は、外部環境から身を守る為に、外からの衝撃には強い。
しかし、ヒナは内側から簡単に殻を割って、外に出ることが出来る。
サソリの甲殻も、同じシェル構造。
ということは―――
(内側からの攻撃には、弱いはずだ!)
オレは、絡ませると同時に、甲殻の隙間から内部に、ツルを侵入させていたのだ。
大量にツルを侵入させ、膨張させていった事により、その圧力に殻の内側が耐えられなくなったのだ。
(お次は、こうだ―――!)
内側からツルを引かせると、今度は甲殻の表面に這わせていき、全身を締め上げていく。
ギリ………ギリギリギリ………
すると――――
グシャァッ!!!
決定的な破滅の音がして―――
ジャイアントフォレストスコーピオンは、その四肢をバラバラに破壊された。
ちょっと、いやかなりグロい。
思わず目を逸らしたくなるほどに、割れた甲殻や、ちぎれた肉片が辺りに飛び散っている。
そんな中―――
「ぴっぴぃぃいいいい!!!」
まだ早朝の冷えた森に、呑気な勝利の雄たけびがこだました。
お読みいただき、ありがとうございます。
評価、ブックマークなど頂けたら、とても嬉しいです(#^^#)
執筆の励みにもなりますので、よろしければお願いします。




