第7話 アバター(ぴっぴぃ)
明日の8話以降は、三日に1話程度の更新となります。
よろしくお願いします。
「ぴ、ぴっぴぃいいいい!!」
ジタバタ。
「ぴっぴぴ、ぴぴぃ?」
アタフタ。
……たのむ、そんな目で見ないでくれ。
オレは真面目なんだ。決して遊んでるわけじゃない。
(お、おいどういう事だよアカネ!)
「ぴ、ぴっぴぴぴ!」
さっきから、ピィピィ鳴きながらもがくオレの姿を、じーっと見つめている。
そして、サッと顔を背けるアカネ。
「す、すいませ―――ぷぷっ、だって、あまりにも嬉しそうにしてるし、それを台無しにするような話をするのも、なんだか―――ふふっ、忍びないなって」
完全に面白がってるよね、お前。
ちくしょう、またこんな展開かよ!
せっかく身動きできない境遇から、自由に動ける身体を手に入れたと思ったらコレだ。
(はぁ……)
「ぴぃ……」
アバターに意識を移した直後は、マリーと会話できていると思っていたが、あれはアカネの言葉を聞いて、オレとの会話を推測していただけなんだな。
すると、言葉は通じないものの、オレの慌てぶりを見て何か感じたのか、マリーが助け舟を出してくれた。
「……?? 大丈夫です、大地様。たとえ今はそのお姿でお話が出来なくとも、本体に戻られれば、これまで通り、私とお話できますわ」
―――はっ…!?
そ、そうだった!
さすがマリー、頼りになるぅ!
(お、おいアカネ! どうやって戻るんだ!?)
「ぴ、ぴっぴぴ!ぴぴっぴぴ!?」
「どうやっても何も、センパイが戻りたいと思ったら戻れるんじゃないですか?」
な、なるほど、そういうもんか?
よ、よーし、戻れ、戻れ戻れ!
目を瞑って意識を集中させると、また先ほどの様に、意識が何かに吸い込まれるような感覚がした。
「―――はっ!?」
気がつくと、また元の大樹にオレの意識は戻っていた。
なるほど、これは便利だ!
自由に出たり入ったりできるんだな。
「マリー、今度は聞こえる?」
「はい、もちろんです。大地様の美しいお声が、バッチリ聞こえておりますわ」
「そうか、よかったー。まあちょっと不便だけど、戻ったら話せるんなら、大きな問題ではない、かな?」
しかし、アバターになると言葉が話せない問題は、いずれなんとかしたいもんだなぁ。
「………」
……あ。
「……? どうしたんですか、センパイ、急に黙ったりして?」
「大地様?」
訝しむ二人。
「大地、行きまーーーす!」
そう叫んで、また意識を集中して、アバターを作成し、一気に射出する!
ブォオオオン………! シュババババ!ドォォォオオオンンン!!!
重厚な効果音(脳内)と共に、弾丸のようなスピード(妄想)で、勢いよく射出されるオレ。
(うははは……! こういうの一度やってみたかったんだよなぁ! かなり状況は違うけど、まあいいだろ!)
「……なにやってるんですか……はぁ。いい歳して……」
アカネの視線が冷たいが、気にしたら負けだ。
(いいだろ別に! こうなったらもう歳とか関係ないんだよ)
「ぴぴぃっ! ぴぴっぴぴぴっぴ」
そうやって遊びながら、何度かアバター生成を繰り返していくうちに慣れてきて、意識を集中させたりすることなく、自由自在に出たり戻ったり出来るようになった。
(よーし次は、どこまで遠くに行けるか、実験だ!)
ぴゅーーっと、本体が見えなくなるくらい遠くまで行ってみる。
すると―――
(あ、あれっ?)
動けるには動けるが、なんか…
(感覚が少し、おかしい…?)
本体との繋がりみたいなものが、薄くなってきたような気がする。
すぐ横に付いてきているアカネが、注意を促す。
「あー、あんまり離れると、たぶん接続切れちゃいますよ」
……Wi-Fiかよ。
(ふぅむ……確かに接続が弱まってるが、この身体で動き回るだけなら、問題はなさそうだな)
アバターの動きを確認してみるが、思い通りに動かせる。
(ちなみに、接続が切れたらどうなるんだ?)
「センパイには今、この神授の森から、膨大な神霊力が集まって来てるんですよね。で、その力をアバターで使うことで、能力を発揮できるんです」
ほほぅ、神霊力とな……イイじゃないか、厨二全開な名前!
「だから、その接続が切れちゃったら、アバターの能力が制限されちゃいますね、当たり前だけど」
なんだ、そんなことか。
じゃあ……
(離れなければどうという事はない!キリッ!)
なんちゃって。ぷぷぷ!
「どうでもいいですけど、私以外にはただぴーぴー鳴いてるだけですからね?」
うるさいな、放っておいてくれ。
◇◇
ひとしきりその辺で遊んだあと、アカネと二人で、本体まで戻ってきた。
マリーがずっとそこで待っていてくれたようだ。
本体に戻って、アバターを解除する。
「あれ、マリーはここで待っててくれたんだ? 一緒に付いてきてくれてもよかったのに」
「ええ、ですが、そういう訳にもいきませんわ。だって―――」
「センパイ、わかってないかもしれませんが、アバターはともかく、その若木本体って、今はかなり無防備なんですよ?」
「なに? ……言われてみれば、確かにそうだな」
転生初日に、ゴブリンに伐採されそうになったんだった。
あれから何もなかったから、忘れてた。
本体には反撃手段がない。
逃げる事も出来ない。
ああ……だからマリーはオレの傍でずっと守ってくれてるのか。
これまでの数年間ずっと。
「ありがとう、マリー。本当に助かるよ」
オレは心からの感謝を、彼女に伝えた。
するとマリーは目を大きく見開き、口を覆った手が、少し震えている。
「礼を言うのは、私の方ですわ。大地様、この世界に生まれて来て下さって……本当に…っ」
目じりに涙を堪え、オレを一心に見つめている。
その真剣で切実な目に吸い込まれるように、オレも彼女を見つめる―――
「マリー……」
「大地様……」
……
………
「………ウォッホォォン!」
アカネのワザとらしい咳払いで、妙な空気が一掃された。
「あ、いや、まぁあの……そんな風に言ってくれて、うれしいよ。何でこの世界に生まれて来たんだろって、ずっと思ってたからさ」
ずーっと立ってるだけだし、ついネガティブな思考をしてしまう時も、さすがにあった。
でも―――
「そんなに喜んでくれる人がいるなら、それが理由なのかなって、ちょっと思ったよ」
今までの時間が、報われたような、そんな気がした。
「大地様……」
「マリー……」
「―――それはもうええっちゅうねん!」
アカネが鼻から息を荒げていた。なぜだ。
◇◇
「さて。それでは二人に、これからのオレの方針を伝えようと思う」
落ち着いたタイミングで、オレは二人に切り出した。
ちなみに、今は本体に意識があるが、アバターも出したままである。
要するに、視点が二つある状態だ。
あくまでオレ自身の意識は一つしかないが、本体が見ている光景と、アバターの目線、両方が視えている状態だ。
前世の人間ではありえない状態なので、言葉で説明するのは難しいが、とにかく両方の視界を持っている。
うーん、例えれば、某国民的サバイバルゲームの三人称と一人称視点を同時に見てるみたいな感じかなぁ。
しかも、その三人称視点が、ほぼ360度の視界を持ってるんだよ。
でもそれって、考えてみたら死角がないって事じゃん。強くね?
ゾンビさんだって、物陰に隠れて背後から脅かしてくれてたのに、それもう通じないよ! ちょっと工夫してくんないと、つまんなくなるよ!
「方針ですか? いいんじゃないですか、いつまでも、ここでこうしてる訳にもいきませんからね」
バカな事を考えてないで、二人にちゃんと伝えておかないとな。
「オレがこの森でやりたい事、それは―――環境整備だ!」
「「環境整備??」」
二人の声がハモる。
「普通なら、どこかの街とか村とか、そういう所に落ち着いて、暮らしていくことになるだろ?」
「まあ、普通はそうよね。私やマリーが街で暮らせるかは置いといて」
……それもそうだな。
「しかーし! 本体がここにある以上、オレはここから動くことができない。ということは―――」
「なるほどねー、それで環境整備なんですね」
最後まで言わせろよ……まあいいけど。
「というわけで、まずは、何はともあれ、家を作ろうと思う」
また何か言いたげにしているアカネを遮って、オレは話を続ける。
「いや待て、言いたいことはわかる。今のオレに家が必要なのかって、言いたいんだろ?」
家を建てたところで、人間らしい生活など、ほとんど何一つできないのだ。
だが、しかし!
若木になったとはいえ、意識はあくまで人間。
本体にいる時はともかく、今はだいたいアバターとして動き回ってる以上、野ざらしのままでは、落ち着かないし、安らげない。
「やはり、衣・食・住は生活の基本。これらを充実させていく事が、すなわちここで生きていくと言うこと!」
「素晴らしいお考えです!」と手を叩くマリーに向かって、サッと手を挙げて応える。
「まあ、わからなくはありませんが……でもなぁ」
いまいち納得がいかない様子のアカネ。
「ん? なんだよ、言いたい事があるならハッキリ言ったらどうだ」
先ほどはアカネを遮ったクセに、偉そうにその先を促す。
「住はまあいいとして、衣と食なんて、今のところ必要ないのでは?」
「…………」
なかなか、痛いところを突いてくるではないか。
そこは、あえて考えていなかったというのに!
「どうでもいいですけど、センパイらしくない、可愛らしい姿ですよねぇ」
あっ、そこも、あえて考えていなかったのに!
どうでもいいなら、わざわざ言わなくてもいいんじゃないですかね?
しっかり思い出させてくれるんだな!
実は、本体からアバターを見た時に、思わず「うわぁ」というため息交じりの声を上げてしまった。
幼児体形のずんぐりむっくりで、緑の半透明なのはもうわかっていたんだが、なんと頭の両サイドには、葉っぱが垂れ下がっていて、それが大きな垂れ耳のように見えるんだ。
いわゆる”ロップイヤー”を持つ、ちょっとデカいウサギみたいな感じ。
そんな可愛らしい生き物の中に、オレがいるんだぜ。シュールだ。
「こんなに可愛らしいんですもの。森の皆にもきっと愛されますわ」
全肯定マリーありがとう。
「あれ、でもオレとアカネはともかく、マリーは家とかあるの?」
そう問いかけると、少し寂し気な笑みを浮かべるマリー。
「そうですね、以前は、たくさんの仲間たちと過ごした家が、ありました」
ありました、という事は、今はもう……ってことだよな。
「そ、そうか、余計な事を聞いたな、悪い」
「気になさらないでください。今は、大地様、アカネさんとご一緒できて、こんなに嬉しい事はありません」
これ以上突っ込んでも藪蛇にしかならないので、話題を変えよう。
「とにかく! オレが言いたいのは、これからこの森で、三人で楽しく、幸せに暮らしていきましょう!ってことなんだよ」
それは二人共賛成だろ?という気持ちを込めて二人に視線を送る。
ウンウンと頷くマリーの横で、下を向いてブツブツ呟いてるアカネ。
「幸せに……一緒に……?」
なんだか顔が赤い様な気がするが、どうしたんだ? バグでも出たのか? 森だけに。
◇◇
精神を集中させ、アバターの手を前方に向けて、頭に描いたイメージを念じる。
すると、地面に横たわっていた丸太が、ふらふらと宙に浮かぶ。
そのままスーッと移動させていき、すでにいくつか組み上がっている丸太の上に、載せていく。
これは、神授の森で生まれた植物なら、自在に操ることが出来るという、木造建築にはこれ以上ない便利な能力だ。
名前がないと不便だという事で、勝手に名前を付けてみた。
(このスキルの名前は、【操樹】だ!)
まるで木を操縦してるから、みたいなダジャレじゃないよ、偶然だよ、ホントだよ。
とにかく、家づくり、街づくりのためにあると言っても過言ではないくらい、今のオレにとっては、なくてはならないスキルだ。
数年間立ち続けたオレへの、ご褒美に違いない。
家づくり以外の何に役立つのか、まったくわからないが。
もしかして、街づくりの神様とかの役割を持って生まれたんかな。
(それとも、意外とこの世界ではみんな持ってる能力なのか?)
せっせと丸太小屋を作りながら、とりとめのない事を考える。
あ、ちなみにお気づきかと思うが、アバターの発する言葉はすべて「ぴぃ」となっているのでよろしく頼む。
いちいち説明すると野暮なので、脳内変換をしておいて欲しい。
「こんな能力、センパイ以外、持ってるわけないんだけど……」
(そうなのか? そんなレアなものをいただいたとは、なんだか気が引けるが……まあ、便利なものは使わないと損だよな!)
そう言って、近くに集めた手ごろな丸太を、次々に【操樹】を使用して操り、簡単な小屋を組んで行く。
ちなみに、【操樹】などの能力は、アバターの姿でないと使う事ができなかった。
本体からの神霊力の供給を受けて、アバターでその力を行使する、というイメージだ。
そして、今その力を使って組んでいるのは、生木で作った応急措置的な丸太小屋だ。
本当なら、こんな小屋はまず組まない。
丸太加工してないし、基礎も丸太。
おまけに屋根も丸太。
これだとすぐ劣化するし、重くて長期間持たない。
ただ、今日はもう時間がないんだ。
アカネに教えてもらった能力をもっと上手く使えたら、色々やりようはあるんだろうが、昨日の今日どころか、今日の今日では、なかなか難しい。
本格的なのは、明日以降、チャレンジしていこうと思う。
それに、今日はとにかく濃い一日で、この世界に転生してから、一番目まぐるしい時間を過ごした。
白銀のオオカミが突然マリーになったかと思うと、今度は柏木にそっくりなアカネまで出て来て、色々と話を聞いたり、スキルの確認などをしていたもんだから、すっかり辺りが薄暗くなってきている。
そうなんだよ、これ全部今日の出来事だったんだよな。
数年間、のんびりと立っているだけのオレにとっては、目眩がしそうなほど忙しい日だった。
おっと、いかん。
森の昼は短い。
余計な事を考えてないで、今は早く小屋を組まないと。
オレは急いで、とにかく今日明日と、雨露をしのげる小屋を建てていった。
(―――っとっと、これ……で………完成!っと)
屋根の最後の丸太を載せて、1時間急造丸太小屋が完成した。
文字通り、ただ丸太を組んだだけなので、雨も風も、隙間からいくらでも侵入してきてしまう。
でも、これだって【操樹】がなければ、本来なら何倍もの時間がかかるところなんだから、贅沢は言えない。
完成した小屋の中に入ってみると、やはり元人間、建物の中にいるという安心感に包まれる。
これは、当たり前だった元の世界では、あまり感じた事がない感情だ。
オレに続いて、アカネとマリーも小屋に入ってきた。
「へぇ~、さすが元建材商社の社員、いい仕事―――とは言えないまでも、まぁまぁの出来じゃない?」
お前も元社員だ。
あ、いや違うのか。ややこしい。
「大地様は、このような建物を建てることが出来るんですのね! 驚きましたわ」
手放しで賞賛してくれるマリー。
(本当はもっと、いいモノが作れるんだけどね。それは明日以降のお楽しみって事で!)
「ぴぴっぴ、ぴっぴぴぴっぴ、ぴぴぃいいっぴ!」
……そうだった、今は100%アバターに意識を移してるから、しゃべれないんだった。
適当に枯草を敷いて、本日の寝床を作る。
そこに横になったオレとアカネのすぐ側に、人化を解いたオオカミの姿で、マリーが横たわった。
美しく、柔らかな毛並みに包まれて、とても温かい。
「あたたかい……」
アカネも、その温かさに、眠気がやってきたらしい。
……ノルンも寝るんだな。
丸太の天井を見上げながら、そんなとりとめのない事を考えている内に、オレもウトウトしてきた。
これから……ここで……みんな…で……たのし……く…………
「おやすみなさいませ、大地様、アカネさん。願わくばこのまま、安らかな眠りを」
入口から差し込む月明かりに照らされたマリーの顔は、穏やかでありながら、言葉にならない願いが込められているように見えた。
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