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若木大地(30)、転生したら若木だった件  作者: サトウススム
第一章 若木大地と森の仲間たち

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第6話 若木大地、大地に立つ。

 視線の先には、それはそれは見事な、どこぞのご神体に祀り上げられるような、大樹がそこにあった。


 瑞々しく、力強く、生命力に満ち溢れている。


 葉は青々と生い茂り、そこから光の粒子をまき散らして、周囲をキラキラと黄金に輝き照らしている。


 一言で表現するなら、まさに”神々しい”という表現がぴったりだ。


 「うわぁ……すごい樹だなぁ……」


 昔、学生時代にゼミの友人と屋久島に行ったことがあるけれど、そこでみたヤクスギに匹敵するぐらいの大きさだ。


 ただ、こんなに大きいのに、表面がつるつるで若々しいのが、なんとも面白い。


 感心して目の前の大樹を眺めていると、呆れたようにアカネがつぶやく。


 「自画自賛って、中々できる事じゃないですよね、さすがセンパイ」


 ……は?


 自画自賛ってどういう意味だ。


 「いいえ、アカネさん。大地様は、それはもう見事な若木ですわ。ね、大地様?」


 オレと同じように大樹を見上げて、感嘆の吐息を漏らすマリー。


 いつの間にか、オレのすぐそばで寄り添うように立っている。


 アカネの言葉の意味を考えながら、ふと真横を見た。


 視界には、スリットから覗いている、マリーの美しいおみ足が迫っている。


 つーーっと視線を上げていき、マリーの顔を見上げる。


 優しい微笑みだ。


 ……アレ?


 ()()()()


 なんでオレがマリーを見上げているんだ?


 いきなり巨大化して、大樹のオレよりさらにデカくなった?


 いや一部が元々ご立派なのは知ってるけれども。


 ってそうじゃなくて……


 (―――は? え?)


 さっきまで、どちらかというとオレの方が、二人を見下ろしていたはずだ。


 しかし、今は二人に見下ろされている。


 ということは―――?


 オレは慌てて周囲を見渡すと、この数年間で見て来た光景との違いに、今更ながら気づいた。


 この森に生まれて以来、周囲の木々をどんどんと追い越して、この辺りでいちばん大きな樹となっていたオレ。


 ―――なのに。


 視界には、遥か見上げる巨木が立ち並んでいた。



 (……これは、まさか……?)



 周りが大きくなったのではなく、オレが小さくなった……?


 ということは、もしかして―――目の前に見えている大樹は、まさか―――



 (……これ、もしかして、オレェェエエ!?)



 目の前の大樹、これがここで数年間立ち続けたオレなんだとしたら、今のオレは?


 (も、もしかして、人間に戻れたのか!?)


 慌てて、下を向いて、自分の身体を確かめる。


 これは―――手だ。


 オレは今、自分の掌を見ている。


 なんだか小さいし、人間にしては色がおかしいが、とにかく手だ。


 試しに、手を握ってみる。


 今度は、開いてみる。


 自分の、意思で、動く。


 ぐーぱーぐーぱー。


 (…………)


 そして足だ。


 オレは今、自分の足で大地に立っている。


 ずっと大地に立ち続けていただろ、とかいう皮肉が聞こえる気がするが無視だ。


 これはどう見ても、根っこではない。


 これまた小さいし、色がおかしいが、二本の足が見える。一本の巨木じゃないぞ。


 動かない根っこではなく、普通に地面を踏みしめる足で、この大地に立っているんだ!


 (………マジか………や、やった……)


 段々と、自分の身体を動かしているという実感が湧いてきた。


 (や、やっほーーい!!)


 オレは夢中で手を叩いて、足をドンドンと踏みしめ、自分の身体と大地の感触を確かめる。


 (……夢じゃない、夢じゃないぞ! オレは今、大地に立っているんだぁあああ!!!)


 この世界に転生して以来、ずっと渇望してきた事がついに実現したんだ!


 オレは思わず、アルカトラズ島から発煙筒を焚いて脱出する、かの有名な映画のワンシーンのように、膝をついて、両の拳を天に突き出した。


 ……ちょっと涙出て来ちゃったよ!


 オレの気持ち、わかってくれる!?


 さすがに、植物になった事がある人はいないと思うが、何となく想像つくでしょ!?


 「ようやく気付きましたか。まあとりあえず、おめでとうございます、センパイ。これで動けるようになりましたね―――って、何してるんですか、お遊戯ですか?」


 呆れたような表情を見せるアカネ。


 「おめでとうございます」とパチパチ手を叩くマリー。


 対照的な二人の様子を見て、少し正気を取り戻してきた。


 嬉しいのは嬉しいが、色々と、何か違和感もあるので、喜んでばかりもいられない。


 「あ、いや、ん……オホン!」


 咳払いで誤魔化し、改めて自分の状態を確認してみる。


 まず、目線の高さだ。


 思った通り、やはり低い。


 これだと、5歳児程度の背丈しかない感じだ。


 そして、肝心の身体だが、人間ではありえない色をしている。


 全身が半透明の緑色をしていて、全体的に丸っこい。


 いかにも植物っぽい。


 (な、なんでこんな身体に…? 若木(植物)から若木(人間)に戻れたわけじゃないのか…!?)


 頭と胴体、そして手足があるという点では、人に近いが……。


 「少しは落ち着きましたか、センパイ」


 オレが落ち着くまでしばらく様子を見ていたアカネが、オレの側にスーッと飛んできた。


 「まあ、何にも説明しないで、センパイをアバターに送ったらどうなるかなって、ちょっと思っちゃった私が悪いんですけども」


 あはは、と笑うアカネ。


 「まあまあ、アカネさんたら。大地様が困ってらしてよ?」


 ふふふと、微笑むマリー。


 ……なにこの人たちコワイんですけど!?


 「まあ、おふざけはこれくらいにして、ちゃんとサポート役としての役目を果たしますね」


 頼むから、ぜひそうしてくれ。


 「今のセンパイは、本体である大樹から、アバターと呼ばれる化身体に意識を移した状態ですね」


 (あ、アバター? あの映画とかゲームでよく見るヤツか…!)


 「そういう知識が豊富だから、日本人の転生者は説明が楽だし、わりとすんなり状況を受け入れてくれるんですよね、いや助かる~!」


 ではこのままどんどん説明していきますね、と言って、早口で長々とまくし立てられたが、正直情報量が多すぎてわからん。


 先輩の意地として「なるほどね、うんうん」という顔で聞いてはいるが、半分も理解できていない。


 とはいえ、わかった部分だけ、みんなにも共有しようと思う。



 要するに、やはりオレは、日本で死んでこの世界に転生したということだ。


 なぜ植物なのかというオレの切実な問いは、華麗にスルーされたが。


 そして数年間放置されたのは、アカネを生み出すリソースが貯まるまで、成長しなければならなかったらしい。


 今、ようやくそれが貯まって、このタイミングで出てこられたと。


 (で、結局お前はいったい何なんだ? 幽霊じゃなきゃ、精霊とかそういうヤツか?)


 背中に羽が生えてるしな。いかにも精霊っぽい。


 「お、適当に言ってるわりには意外と近いところ突きますね。まあ、精霊と言っていいかなぁ。ノルンっていう種族みたいですね」


 えらく他人事だな。自分の事じゃないのか?


 「まあ、センパイに貯まってた力が少なすぎて、なんか中途半端なカタチで出て来ちゃったんです。というわけで、記憶とか能力とか、かなり欠落しちゃってるみたい?」


 そうだったのか、それは悪い事をしたな―――などとはちっとも思わないが、アカネにもわからない事がたくさんある、という現状はちょっと不安だが、仕方がないな。


 たしかノルンと言えば、運命を司る精霊とか女神とかなんとか、その程度の知識しかオレにはない。


 しかしかなり希少な存在、そして特殊な存在だろうという事は、何となくわかる。


 これからこの世界で生きていくのなら、色々と助けてくれる存在がいるというのは心強い。


 それに、口が裂けても言わないが、コピーとはいえ、見知った顔がいるというのは、正直ありがたい。


 「アカネさんは、大地様にとっては、なくてはならない存在。きっと、お役に立つと思いますわ」


 ここで、どういう風に? と聞いても、どうせマリーはニコニコしているだけなので、もう訊かないことにしている。


 (はあ、そうなんです―――そうなんだ。だってよ、アカネ?)


 まだ慣れないので、敬語で話しそうになるな。


 「わかってますよ、それくらい。今の私は生まれたばかりで、朱音さんに引っ張られてこんな感じですけど、時が経てば、しっかり役に立つと思いますよ?」


 アカネとして、朱音とは違う、独自の自我に成長していくという事だろうか。


 その際は、もう少しだけでもオレに優しくしてくれると助かるな。


 ただ―――


 (……それはそれで、ちょっと寂しいかな……)



 アカネの事については、とりあえず、今聞いておきたい事は聞いた。


 次はマリーだ。


 (なあマリー、この世界の事、よかったら色々教えてくれないか)


 これからこの世界で生きていくには、色々と知っておきたいことがたくさんある。


 とりあえず、簡単な地理や歴史、それから魔物の事なんかを聞いておきたいところだ。


 (…………?)


 あれ?


 オレの声が聞こえてないのか?


 マリーはニコニコしているだけで、オレの質問には一切の反応がない。


 (あれ? マリー? 聞こえるか?)


 すぐ隣にいるのだが、聞こえなかっただろうか。


 もう一度、今度は少し大きな声で話しかけてみる。


 「あら、どうかしましたか、大地様?」


 やはり聞こえていないのか?


 さらには、身振り手振りも交えて、一生懸命に話しかけてみた。


 「あらあら、うふふ、楽しそうな大地様」


 何だか、その優し気な視線がなぜか痛い。



 ……と、ここで、衝撃の事実が、アカネの口から語られた。


 「センパイ。残念なお知らせがあるんですが―――」


 (なんだよ?)

 「ぴっ?」


 「言おう言おうと思ったけど、中々タイミングがなくて……だって一人で興奮してるし、その後は、こっちも伝えなきゃいけない事がたくさんあって、すっかり忘れてました」


 (だから何が?)

 「ぴぴっ?」


 「センパイはいま、私以外の人と会話が出来ません」


 (なに―――?)

 「ぴ―――?」


 「他の人からしたら、ぴっぴ、ぴっぴ言ってるだけです。だから、マリーには聞こえてませんよ、センパイの言葉」


 (な、なんだとぉおおおお!?)

 「ぴ、ぴぴぃいいいい!?」


 こうしてオレは、自由な身体と、不自由な言葉を手に入れた。



お読みいただき、ありがとうございます。


評価、ブックマークなど頂けたら、とても嬉しいです(#^^#)


執筆の励みにもなりますので、よろしければお願いします。

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