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若木大地(30)、転生したら若木だった件  作者: サトウススム
第一章 若木大地と森の仲間たち

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第5話 若木大地の知らぬ事情 その1

 「……ふうっ。このままでは、本当にどうにもならないな……何とかしないと……」


 部屋の中で一人、ため息を吐く女性。


 神授の森の南に位置する、都市国家ボスコリア。


 この国が位置する大陸南東部では、いくつかの都市国家が集まって、ひとつの都市国家連合を形成しており、それぞれが独立した統治機構を持っている。


 ここボスコリアは都市国家連合の中でも最北端、神授の森と呼ばれる世界最大の森に接する位置にあり、国の中心部には、城壁に囲まれた、かなり古い歴史を持つボスコリアの街がある。


 しかし、その位置のせいで、交易が盛んではなく、また森の魔物の脅威に常にさらされる事もあり、街としての発展がほとんどないまま、むしろ過疎化が緩やかに進んでいる。



 冒険者の依頼斡旋や情報収集を担う冒険者ギルドは、この世界の様々な国・地域に支部を置いている。


 ここボスコリアにあるギルド支部は、この街の大きさ、人口からすると、その中でもかなり大きい部類だと言える。


 それは、この国が神授の森に近い事で、魔物討伐や素材集めなどの依頼が多く、自然と冒険者が訪れる機会が多くなったからだ。


 その支部長室のドアがノックされ、男が一人、入室する。


 「支部長、今月の依頼による手数料収益はこちらになります」


 ギルドの事務員である男から渡された書類を、ため息交じりに眺めている支部長と呼ばれた女性は、ここボスコリアを治める領主、ボスカル公爵家の長女セルマだ。


 公爵家は、その歴史こそ古いが、都市国家連合の前身であるグランレガリア王国の分裂以降、この辺境の地で細々と生きながらえてきた、いわば貧乏貴族だ。


 「しかし、何とかならないものか。これだけの依頼料があるのに、我がボスコリアにも利益になる方法がないと、いずれ立ち行かなくなるな……」


 目の前の収益結果を記した紙には、かなりの利益が記載されているが、これはほぼ全てギルド本部に送金される事になっていて、国にはたった5%ほどの、ギルド支部設置手数料が納められるだけだ。


 「あの……支部長なら、この数字を少し変える事ぐらい―――いえ、も、申し訳ありません。」


 事務員の男が、他の支部では普通に行われているような事を提案しようとするが、セルマの一瞥によって慌てて黙り込んだ。


 「―――まあいい、今のは聞かなかった事にしよう。それではいつも通り―――」


 「支部長! 水晶球が!」


 ドタバタと階段を駆け上がる音が聞こえたかと思うと、支部長室のドアが勢いよく開けられ、息せき切って、若い女性が飛び込んできた。


 「おい、ピナ。何度も言ってるだろう、支部長室に入る時はノックをしろと―――どうした? そんな血相を変えて」


 いつもの見慣れた光景だが、支部長という立場上、一応は注意せざるを得ない。


 しかし、いつもより慌てた様子のピナを見て、セルマは眉をひそめた。


 「あ、はい、すみません! でででも、あの、水晶球が見た事ないくらい輝き出して……!」


 ピナと呼ばれた受付嬢が知らせて来たのは、各ギルドに設置されている、水晶球の異常反応だ。


 この水晶球は、その純度や大きさなどにより範囲や精度は異なるが、周囲の魔力異常などを感知し、反応する仕組みになっている。


 周囲に強力な魔物が発生した場合や、魔力災害などが起こった場合、ギルドがいち早く対応することができる。


 ピナからの知らせを受けたセルマは、急いで事務室に設置している水晶球の元に向かった。


 「またピナの見間違いだろうが、B級程度の魔物なら、いつ出てもおかしくないからな、この森は」


 実際、自分がこのギルドの支部長に就任した三年前から、何度かこの水晶球は反応してきた。


 いずれもC級からB級の魔物の出現反応で、このギルドに所属する冒険者のみでも十分対処可能な魔物だった。


 しかし、なにせこの神授の森は広大で、人間にとっては未知、かつ不可侵領域だ。


 A級クラスの魔物が出現することも、絶対にない事ではない。


 そうなると、この支部だけでは厳しいかもしれないな、などと考えながら、水晶球の前に到着する。


 「―――な、なんだこの反応は……!!!!」


 水晶球の輝きを目にしたセルマは、驚きのあまりその場に一瞬固まってしまった。


 「ね、ね!? 言った通りでしょう!? すごい光なんですぅ~! 綺麗~♪」


 なぜかピナが満足げな表情をしているが、今はそんな事に構っている場合ではない。


 「こ、これは……セルマ様! どういう事でしょうか!?」


 後ろから付いてきていた事務員の男も、その光の強さを見て慌てている。


 硬直から回復したセルマが、ポツリと一言を漏らす。


 「この反応、A、いやまさか―――S級……?」


 あまりに現実離れした水晶球の輝きに、ピナ以外のその場の誰もが言葉を失っていた。



◇◇



 ―――ガィイイン! ガィイイン!


 規則正しく、景気のいい金属を叩く音が響く鍛冶場で、一人の男が黙々と剣を鍛えている。


 鍛えた剣を水に浸し、引き上げたそれを目の前にかざして観察する。


 熟練の職人を思わせる、鋭い視線だ。


 「チッ。こんなもんじゃダメだな。ったく、最近の鉱石ってもんは、質が悪くていけねぇ」


 納得のできる仕上りではなかったのだろう。男は打ったばかりの剣を、無造作に机の上に置いて、一息ついた。


 「かぁ~~、こんな日は酒でも飲まねぇとやってられねぇぜ!」


 「親方~、酒はいつも飲んでるじゃないですかい」


 そんな親方の様子を見ていたもう一人の男が、呆れ気味に答える。


 「ちげぇねぇ、ワハハハ!!」


 鍛冶場にいた周囲の男達からドッと笑いが起こる。


 親方と呼ばれた男は、このドワーフの地下都市、アンヴィルガルドの長でありながらも、この街一番の現役の鍛冶師、グロムだ。


 その腕を盗もうと、彼が鍛冶場で作業をするときには、たくさんのドワーフたちが集まって来る。


 そして、いつの間にか酒盛りが始まるのも、お決まりの事だ。


 周囲の弟子達と、いつものように酒盛りをしていると、ふとグロムは、強い魔力の波動をどこかから感じたような気がした。


 そこまで深くないとはいえ、神授の森南西の山中にあるこの地下都市、アンヴィルガルドまで届くような力の持ち主が、ただ者であるはずがない。


 ここからさらに南西の山脈にいるドラゴンですら、そこまで強力な個体がそうそういるとは思えない。


 それに、この波動。


 なんだか覚えがあるような気がする。


 (……ひょっとして、あのオオカミが動き出したのか?)


 もしそうだとしたら、面倒なことこの上ない。


 「……ん~~? なんだぁ? ったく、人が気持ちよく飲んでるってのによぉ……」


 しかし、周囲の弟子達の様子を見ても、誰もそれに気づいた様子はない。


 「かぁ~、なっさけねぇなぁ~! お前らは! そんなんじゃ、いつまでたっても半人前だぜ!」


 「なんですかい、オレたちゃまだまだ飲めますぜい! 親方こそ、もうへばったんですかい? うわははは!」


 もう酔いが回ってしまったと勘違いした弟子のひとりに煽られ、酒焼けの赤ら顔を、さらに真っ赤にするグロム。


 「なんだとてめぇ! このオレより飲めるヤツが、この街にいるってのか! 勝負だこのヤロウ!」


 また周囲がドッと沸いて、ますますヒートアップする酒宴。


 もう、先ほど感じた魔力の事など、グロムの頭の中には欠片も残っていなかった。



◇◇



 ラルクは、急いでいた。


 (いつか、来るとは思っていた。ただ、実際こういう事態になると、父上はさぞかし―――いや、言っても仕方のない事か)


 深い森の中を、木から木へ、かなりのスピードで飛び移って移動する影。


 全身を青黒い装束で包まれた、その男の特徴を一言で表すなら―――忍び。


 (しかし、あのオオカミ。もしやとは思っていたが、あれが伝承にある『白銀の神狼』だったとは。アレが動いたとなると……)


 これから巻き起こるであろう出来事を思うと、自然と顔に笑みが浮かぶ。


 めったに表情を変えることのないこの男にしては、珍しい事だった。


 「オレも、妹のことをとやかく言えないな」


 思い浮かぶのは、里にいる一族、特に妹のことだ。


 彼女は事あるごとに、いつか自分達が主の元に集う時が来ると、その日をどれだけ楽しみにしているかを語っていた。


 それを聴くたびに、苦虫を噛み潰したような表情を見せる父も、ニコニコと笑顔で頷く祖父も、本当に実現するとは、思っていなかったのかもしれない。


 この日のためにと、幼いころから自分と妹は鍛えられてきた。


 里の長ということで何かと忙しい父に代わり、主に母、そして祖父から手ほどきを受けることがほとんどだった。


 自分は忍びとして、そして妹は―――


 考え事をしながら里に向かって走っていたラルクは、目の前に懐かしい光景が現れた事に気付き、忍びらしく、音もたてずにその場に停止した。


 神授の森の中央付近、深い森の中にあるこの里は、ラタトスクと呼ばれる種族の者達が住む集落だ。


 主に大樹の幹の中ほどに居を構え、それぞれを木材や縄で編んだ橋で結んでいる。


 ラタトスクの暮らしは、地上よりも樹上にある。


 「そういえば、ここに戻るのも何年振りか…皆は元気だろうか」


 見分を広めるため、武者修行のため、そして何より、伝承の真実を見極めるため、ラルクは五年ほど前に、里を出たのだ。


 といっても、もう戻らないつもりで出たわけではなく、いずれ里に戻った時に、自分の知識と経験が役に立てば、という気持ちがあった。


 息子のそんな気持ちを知っていた父ガルムは、ただ一言「死ぬなよ」とだけ言って送り出してくれた。


 そんな無骨な父の顔を思い起こしながら、里の入り口に向かって歩き出す。


 「止まれ、何者だ!」


 里の入り口が近づいてきたところで、見張り役の者達に誰何された。


 しかし、その内の一人が、ラルクの顔を見て、怪訝な表情に変わる。


 「も、もしかして……ラルク様!?」


 ラルクにも見覚えのある顔の者が、驚いた様子でこちらに駆けてくる。


 「久しいな、あーーー…………お前も、息災そうでなにより。通してもらうが、いいか?」


 名前を呼ぼうとして、覚えていなかったことを誤魔化す。


 (――確か、妹の友達の……兄だったか? いや弟だったか……)


 「はい、もちろんです! おかえりなさい!ラルク様!」


 「どうぞ、お通りください!」


 もう一人の見張りの者も、相手がラルクであるとわかり、道をあけて直立不動に構えている。


 「妹たちも喜びます! こりゃあ、みんなに知らせに行かないと! おい、ちょっとここを頼む!」


 (……兄だったか)


 ラルクの帰還を里の皆に報せに行った男の背中を見ながら、数年ぶりの故郷に足を踏み入れた。


 深呼吸をして、懐かしい空気を胸いっぱいに吸い込む。


 心なしか、彼の誕生以降、森の空気が少し変わったような気がする。


 いや、気がする、ではない。確かに変わった。


 何というか、彼を中心に、波紋が広がるように森が色づき、生命力に満ち溢れているのだ。


 「……待たせたな、クララ。この兄が、お前が待ち望んでいた報せを、持って帰って来たぞ」


 話を聞いた時の妹の反応を想像すると、ラルクの表情から思わず笑みがこぼれたのであった。




お読みいただき、ありがとうございます。


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