第2話 白銀のオオカミ
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よろしくお願いします。
――やあみなさん、こんにちは!
オレの名前は若木大地、三十歳独身サラリーマンだ。
……ちょっと前まではね。
今はほら、上から見ても下から見ても立派な若木だ。
若木(人間)じゃないよ、若木(植物)だよ。
もうみんな知ってるよね?
ややこしいとか言わないでくれる? しょうがないじゃん、こんな名前で生まれてきたんだからさ。
いやオレもさ、小学5年生の時に聞いてみたんだよ、母親に。
「なんでオレの名前って、こんなバカみたいな名前なの? ギャグマンガかよって、友達にバカにされるんだけど」ってさ。
いや言葉が強いのは許してくれよ、なにせ小学生なんだし。
で、母親から帰って来た言葉がさ―――
え?
興味ない?
……あ、そ、そうだよな、こんな話どうでもいいよな。
それよりも大事な話をしよう。
そう、現在のオレの話だ。
わけがわからないまま、どうやら植物に転生してしまい、生来の名前からくるギャグ要素が、植物になる事でついに完成を見た。
そして、転生初日にゴブリンさんに色んな意味で刈られそうになった所を、間一髪オオカミさんっぽいヒトに助けられた。
あ、いや別に助けてくれた訳じゃなくて、たまたまゴブリンを狩っていただけっぽいが。
その後、そういった危機的状況に晒されることもなく、ただの1株の森の木として、おかげさまで平穏無事な生活を送らせてもらっている。
むしろ、平穏無事すぎてツラいまである。
だって何もやることが無く、ただひたすらそこに立ち続けているだけ。
もし、せめて手足のある動物にでも生まれてたらさ、この森の木材使って、小屋建てたり、畑作ったりくらいはしてるところだな。
んで、なんか魔法のチカラみたいなので、チート建材とか開発したりして、森の中に突如現れる、謎の最先端都市なんか、作ったりしちゃうんだよな!うははは!
これこそ、”夢の転生生活”ってヤツでしょ!?
いや~、夢があるね!
……動けさえしたらね!
転生してから、いったいどれだけの時間が経過したのか、もはや時計もスマホも持っていない身ではわからないが、少なくとも1年や2年ではないはずだ。
……え?
びっくりした?
だよなぁ、もう数年たったのかよ、早すぎんだろ!って、自分でも思うわ。
でもさ、なんていうか、人間じゃなくなって植物になってしまってから、時間感覚というか、そういうモノの感じ方が違う気がするんだよな。
だって考えても見てくれ。
普通の人間がさ、ただそこに2年立っていてください、意識があり、目と耳は機能しますが体は動きません、とか言われたら精神おかしくなると思うんだよ。
やる事といったら、こうやってとりとめのない事を考えては、話しかけるだけだ。いや誰もいないんだけど。
ボッチに慣れたアラサーオタクなめんなよ。
こちとら妄想の人物と会話する事なんて、朝飯前、いや光合成前なんだよ。意味わからんけど。
などとウマいこと言ったって、誰も座布団持ってきてくんないけどね。
……そこまで上手くない? 放っておいてくれ。オレのセンスなんてこの程度なんだよ。
なんていうか、説明が難しいんだけど、ぼーっとしてても苦痛にならないっていうか、意識はあるんだけども半分寝てるような感覚、が一番近い表現だろうか。
意識をはっきり持つ時と、半覚醒状態を自由に切り替えられるっていうか、そんな感じだ。
だからヒマではあるが、精神がおかしくなるとか、そういう事はない。
◇◇
ふとした拍子に思い出すのは、やはり柏木の事だ。
あれから、柏木はどうしただろう。
意識がはっきりしない中でも、柏木は木材の崩落に巻き込まれず、目立ったケガもなかったように記憶しているが。
今も、無事に何事もなく、過ごせているだろうか。
ただ、サラリーマンとしては考えたくもないが、恐らくオレが死んだことによる後処理はそれはもう大変なことになってしまったはずだ。
関わっていたプロジェクトはもちろん、柏木と二人で温めてきた新規取引先も、もうすぐクロージングって段階だったはずだ。
すまんな、柏木。命が助かった代償だと思って、これからも頑張って生きてくれ。
いつか元の世界に戻れたら、オレのことどう思っ―――いや、忘れてくれ。なんでもないんだ。
そうやっていつものように、とりとめのない事を考えながら立っていると、ふと、足元――というか根本に、くすぐったいような感覚がある。
見てみると、小さなシマリスっぽい生き物が、オレの身体――というか幹を駆け上ってくる。
いやもう、めんどくさいから、自分の身体を人間の部位として表現するのを許してほしい……
あ、そうだ。
ついでに今のオレの状態も、話しておこうと思う。
……誰に話してるんだかわからんが。
どうですか? 誰か聞いてます?
昔観たあの映画の様に、実はこの森が大掛かりなセットで、そこかしこに隠しカメラが仕込まれてて、誰か観てるんじゃないだろうか。
みんな一度はそんな事考えた事あるよな?
普段ならフッと軽く笑い飛ばす所だが、今のオレの状況では、そんな事も半ば本気で考えてしまいたくなる。
しかし、ここには監視カメラもなければ、セットの中でもなさそうだ。
だってこんな、ただ立ってるだけの樹を数年間写した動画なんて、いったい誰が観るんだよ。
まあいい。
バカな事を考えてないで、今のオレの話だったな。
許してくれ。だってここではバカな事を考えるぐらいしか、楽しみがないんだよ。
また脱線してしまいそうになるが、本題に戻ろう。
転生直後はそれこそ、頼りないほっそい若木だったんだが、この数年でみるみる内に成長してしまい、今や樹齢数十年は経ってそうな大木になってるんだよね、これが。
そんなに植物に関して詳しいわけではないが、これは元の世界の自然からしたら、かなりおかしい成長速度なんじゃないかと思う。
だって数年で、幹の太さが数倍、下手したら十倍以上になってるんですよ、ええ、これが。さすがにこれはありえない速度じゃないか?
それに、なんだか自分の周りが、やけにキラキラ輝いてる気がするんだよな。
この場所は深い森の中でもちょうど開けていて、日当たりがいいとはいえ、夜までキラキラしてるのはおかしいよな?
まあ、明かりも何もない夜でも、周囲が少し見えるっていうのは、正直助かるんだけども。
どうですか、オレ一人、いや一木いれば、イルミネーションがこんなにキレイに出来ますよ! って営業かけたいね。
――いや、それにしても月明かりだけで、見える視界にしては、このキラキラがあったとしても見えすぎな気がする……植物になって、夜目が利くようになったのかもなぁ、変な話。
それに、転生直後はただ雑草が生えてただけの自分の周囲に、今では色とりどりの花が咲き乱れているんだよな。
……なぜだ。
まるでどこかの植物園さながらの美しい花壇みたいになってきている。
まあ、管理する人がいないから雑然とはしているんだけども。
いや、言いたいことはわかるよ?うん。
色々と明らかにおかしいけど、もうこういった不思議現象にいちいち突っ込むのも面倒なんで、読者諸君もさらっと流してくれると助かる。
その内なんでかわかるだろ、たぶん……きっと……だといいなぁ……
というか、お願いだからいい加減、誰か説明してくんないかなぁ?
なんでオレがここでずーーーーーーーーーっと立ってなきゃいけないのとか、なんで植物なのとか諸々をさ。
当初はそういうの待ってたけど、もう今や半ば諦めたわ。
何で宇宙が存在するのとか、もうそういうレベルなんだろ、きっと。
何でオレが植物なのか?
理由なんてないんだよ。植物だからしょうがない。そんなこと考えたってしょうがない、しょうがない、しょうもない……
じゃあ逆に聞くけど、なんでキミは人間なの? なんで地球で生まれたの? なんでその時代に生きてるの? 説明できる? 理由ある? ないでしょ? ないだろ!? あるはずねぇよ!!!!
―――フーーーーッ!フーーーーッ!!!
……いや失敬、あまりの理不尽さに、ちょっと興奮してしまったよ。
なんて一人で勝手に興奮して、誰もいないのに八つ当たりしてる間に、絶賛オレの身体をぴゅーーっと走り登ってきているこのシマリスちゃんは、オレがこの森でひたすら立ち続ける罰ゲームを受けている間に出来た、お友達の一匹だ。
なんで自分の命を犠牲にしてまで、人類の宝である超絶美人の命を救ったのに、ご褒美じゃなくて罰ゲームを受けているのかは謎だが、いやいやそもそも死んでない時点でご褒美ともいえる、微妙な状況ではある。
ここで数年立ち尽くしている間に、実は他にも色々なお友達が出来たんだよね。いずれ皆さんにもご紹介できる時が来るとは思うが、ここでは割愛させて頂こう。
彼らが友達かどうかという議論はさておき、この深い森の中で静かに立つだけのオレ、若木大地にとっては、彼らとの交流は数少ない、心和む瞬間であるのは確かだ。
小さなお友達が、オレの身体をちょこちょこ走り回っているのを微笑ましく眺めていると、また別の生き物の気配を感じ、すぐに落ち葉を踏んでこちらに近づいてくる足音が聞こえてくる。
「グルルル…………」
っと、また来た。
彼は、オレの命の恩人であり、お友達の一頭だ。
この世界に丁度生まれたばかりで、いたいけな若木だったオレをオノで狩ろうとしてくれちゃったゴブリンを、すんでのところで留めてくれた、あのでっかいオオカミだ。
いやオオカミかどうかわからないけども、元の世界の分類を当てはめるならば、オオカミと言えるだろうから、もうオレの中ではオオカミと呼んでいる。
大きさといい、白銀に輝く美しい毛並みといい、あきらかに只者じゃない感がハンパないけれども。この森の主とかなんだろうか。
もしかしたら、生贄としてよこされた人間の女の子を育てて、娘としているかもしれないな。あれは犬だったか。
なぜかあれ以来、ちょくちょくここに顔を出しては、オレの足元に座ったり寝そべったりして、くつろいでいる姿を見かけるようになった。
―――なんでって?
聞くなよ、オレに。
むしろあちらさんにお伺いして、こっそりオレに教えてくんない?
まあ、たぶん……この辺では日当たりがいい場所にオレが立っているし、昼寝に丁度良かったんじゃねぇかな。
だってそれ以外思いつかないって。
でも時折、オレの方をジッと見つめていたり、そうかと思うとオレの周りをぐるぐる回ったりして、なんだかよくわからないしぐさを見せるんだよな。
それに、オレの周りの謎のキラキラを浴びるかのようにして伸びをしたり、ブルブル身体を震わせたり、すごーく気持ちよさそうに鼻を鳴らしているのをよく見かける。
あ、あと、自分で狩った動物とか、なんだかよくわからない果物とかを、まるでお供えでもしているかのように、オレの足元に置いたりもする。
……食べろって事かな?
いや、あのでもオレほら、たぶん食べられないんです、植物だから……ゴメンね。
でも待てよ、ただの植物じゃない(多分)し、頑張ったらなんとか食べられるか?
―――いや、やっぱムリだろ、どう考えても。
それとも、何かの信仰の対象なっちゃってるとか?
オオカミがお供え物をするなんて聞いたことないけど、それはほら、前の世界での常識なわけで、ゴブリンなんてモノが存在する世界である以上、お供え物をするオオカミがいてもなんら不思議ではない……と思う。
こんなに大きくて、ツヤツヤで美しく白く輝くような毛並みで、モフモフしたら気持ちよさそうなオオカミに信仰されるなんてさ、むず痒い気もするが、なんていうか悪い気はしないなぁ。
それに、そうやってオオカミに守られてでもいるのか、あれ以来、ゴブリンに刈られるとか、そういう危険な目には合っていない。ただの偶然かもしれないけど。
そうやって、ある日突然若木(人間)から若木(植物)へと異世界異種転生してしまったオレ、若木大地は、白いオオカミや小さなリスや、時折姿を見せる森の動物たちと仲良くなり、末永く森で静かに立ち続けましたとさ。
―― 完 ――
……
…………
………………
とは、ならなかったんだよね、これが。
「―――これからは、私が貴方を守り、忠誠をお誓い申し上げますわ。末永く、よろしくお願いいたします」
「……………………は?」
いったい、何がどうなっているのやら、いい加減誰か……教えてくれ~~!!!
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