第1話 若木から若木へ…?
長編異世界転生小説として書き始めました!
なるべく頑張って更新しようと思いますので、どうぞよろしくお願いします!
どうしてこうなったんだろう?
オレは今……まさに刈り取られようとしている。
……え?
ああ……いや、そうじゃないんだ。
比喩とか例え話とか、そういうアレじゃない。
いや、まあ、生命的なモノが風前の灯火であるとか、そういった意味では確かに同じだ。何も変わりゃしない。
ただ、オレはこの状況を正確に表現したに過ぎないんだ。
そう……文字通り、オレという若木が、伐採されようとしている―――目の前のゴブリン(仮)によって。
……ホントに、何でこんな事になったんだろうか?
◇◇◇
…
……
…………
「―――パイ!」
…………
「センパイ! どうしたんですか、ボーっとしちゃって?」
ふと気づくと、オレの顔を覗き込むようにしている若い女性の顔面が、ドアップでオレの目の前に迫っていた。
「うおっ! な、なんだよ、柏木。いきなり顔を近づけるんじゃねぇよ……」
このご時世、パワハラとかセクハラとかコンプラとか、そういうの厳しいんだからな!
コンプラ違反とか言われて出勤停止処分なんか食らったら、オレみたいなサエナイ30歳童貞オタク男は、ただ部屋で〇ンプラ作って過ごすしかなくなるだろ!
今の場合はオレは何もしていないが、それでもたまに耳を疑う様な理不尽な事が起きるのがこの世の常。はぁ、嫌な世の中だな。
そんなオレの態度に、呆れたような表情を見せるその柏木と言う女性は、オレが勤める建材商社の後輩で、今日は――そうだ、取引先の森林組合に二人で向かってるんだった。
「だってー、歩いてたのに急に立ち止まって、焦点の合わない目で遠く眺めてるんですもん。独り身が長過ぎて、とうとうあっちに旅立っちゃったのかと思いましたよ」
「彼女も友達もいないおひとり様で悪かったな! でもな、おひとり様は良いんだぞ!? 満席のレストランにも並んでる家族連れを追い越してカウンター席に案内してもらえるし、テーマパークだって全てシングルライダーで待ち時間半分になったりするんだぞ!?」
「……そんな、泣きたくなるような悲しい自慢、したくないですよね〜」
「うるさい。お前は普段オレをそういう目で見てるのかよ。ったく、あそこの組合長は超怖えんだから、遅れたら何言われるかわかったもんじゃない。ほら、とっとと行くぞ!」
ちょっと考え事をしていて、実際ボーっとしてしまった気恥ずかしさから、バカな話をしながら、オレは柏木の顔も見ずにさっさと歩き出した。
「なんですか、心配してあげた心優しい部下を置いて行くとか、パワハラで報告しますよ!」
「やめてください。コンプラで〇ンプラはイヤです」
「は? なんですかいきなり……プラモ趣味なんですか?」
「そうだよ、三十にもなって、いい歳して悪かったね! おひとり様は趣味がないとやっていけないんだよ!? 休みの日にアキバに繰り出してゲーム屋と玩具屋をはしごするだけの人生だよ! それで何かお前に迷惑かけたか!?」
「いやー、今まさに迷惑かけられてるんですけど。センパイの人生が灰色で彩りがないのを私に凄まれても」
何だかんだ、こんな風に言い合えるのも、それなりに気安い間柄であるからで、お互い本気でない事はその軽い口調でわかる。
この先で待ち受けているであろう、憂鬱な出来事を誤魔化すかのように、お互いそうやってくだらない話をしている内に、目的地にたどり着いた。
瞬間的に、お互い営業スマイルを顔に張り付けて、組合のある敷地に入って行く。
森林組合の敷地と言うだけあって、そこかしこに木材が高く積まれている。
それらを横目にしながら、柏木が少し声を落として訊ねた。
「今日って、何で呼び出されたんですかね? やっぱ怒られる系?」
「知らん……が、オレ達をわざわざ呼び出すなんて、それ以外にまーったく思い当たらん。ただ世間話するだけで呼び出しなんてするはずがないからな。とりあえず、言っておいた菓子折り持って来たか?」
「はぁ、まあ、一応……私らの必須アイテムですし」
お互い気持ちが暗くなるような会話をしながらも、顔には笑顔を絶やさない。
営業職に就いてからというもの、こういう小手先の誤魔化しが上手くなるばかりだ。
その代わりに何かを失っている様な気がしてならないが。
「とりあえず、オレから先に話すから、お前はそのムダに整ったツラでオヤジ共を腑抜けに―――」
自分でコンプラがどうとか騒いでいたくせに、一切そういう配慮のない言葉を口に出す。
さっきから遠慮のない口撃を繰り出してくる後輩へのせめてもの反抗心でからかってやろうと、オレの斜め後ろを歩く柏木の方に振り向いた時。
オレ達が歩いていた通路のすぐ横に積み上げられていた木材が崩れ落ち―――大量の木材が柏木の頭上から降り注ごうとしているのが見えた。
柏木は何やら顔を赤くしてもじもじしていて、頭上に迫る脅威に全く気が付いていない。
(何やってんだ、くっそ!!!)
「あ、あぶないっ!!!!」
「に、にげろっっっ!!!」
遅れて状況に気付いた森林組合の職員が、オレ達に向けて叫ぶが、もう遅い。
もうちょい早く言って欲しかったね!
今から柏木に声を掛けた所で、あれを躱すのはとてもムリだ。
そうして木材が落ちてくる一瞬の間に、時間がゆっくりと流れる様な錯覚に陥る。
……今だ!某〇Vの時間を止める能力を持ったオッサン来てくれ!
などと、ほんの一瞬バカな事を考えてしまったが、今はそんな事を考えている場合ではない!!
我ながら、どこにそんな瞬発力があったのかというくらい、身体が機敏に動いた。
とっさにオレは飛び出し、柏木を突き飛ばす。
「キャッ!?」
そう小さく悲鳴を上げて地面に転んでしまったが、柏木はなんとか木材の崩落から救う事ができた。
しかし―――
いきなり突き飛ばされて、驚いてこちらを見ている柏木の代わりに……オレの頭上に大量の木材が押し寄せる。
……っていうかこういう時ってホントに時間ってゆっくり感じるんだ?
なんだよ、来るならさっさと来いよ。
いやウソです。
来ないで、お願い―――
ドンガラガッシャーーーン!!!
あまりに重い木材に押しつぶされ、痛いのかどうなのかわからなくなるくらい、意識が朦朧としてきた。
「―――パイ!? 若木センパ―――」
必死にオレに呼びかける柏木の叫び声が、のしかかる木材の隙間から途切れ途切れに聞こえる。
(あー……柏木…無事……だったか……でも…オレは……もう…………)
「いやあああああ!!」
ああ、柏木、こんなオレのために……そんな顔…して…くれる……のか……
――もうほとんど意識を保てなくなってきた中で、ふとオレと柏木を包み込むように、黄金色の光が見えた……ような気がした。
こうして、このオレ、若木大地という男の生涯は、三十年という短くもあっけない幕切れとなった。
――― 完 ―――
…………
……
…
っていう感じだったはずだ。
……あれ? 違うの?
オレ……人間だったよね? そして死んだよね?
なのに、今のオレ、どう見たって木だ。
植物だ。
しかも立派な大木って感じじゃない。
まだこれから成長するよ!っていう低木だ。
でも生きてる。「我思う、故に我在り」って感じだ。
え? そういう夢を見てただけなの?
それとも今が夢なの? なんなの?
……オレって植物だったの?
だとしたら植物にもこんな、人間並みの意識ってあるんだぁ?
え、それってスゴくない?
これ発表したらノーベル賞じゃね? うるさいな小並感とか言うな自分が一番よくわかってるんだよ!
オレは若木大地っていうちょっとしたギャグみたいな名前の――ギャグで悪かったな全国の若木大地さんに謝れ!――彼女いない歴=年齢の哀しい魔法使いになった三十歳日本人男性だったはずだ。
……んでなにか?
それが死んで生まれ変わって、今は文字通り若木だってか?
若木大地【人間】から大地の若木【植物】へクラスチェンジしたの!? ダジャレ!?
いやいやいやいやいや!
何それぜんっ……ぜん笑えねーよ!?
もうさ、やっぱそうだよな?
こんだけハッキリ人間時代の記憶が三十年分あるし、アレが夢だったなんて考えられない。
という事は、オレ生まれ変わったって事だろ?
噂の輪廻転生っちゃったんだろ?
確かにさ、今度生まれ変わったら何がいいかなあ? みたいなの考えた事はあるよ? みんな一度は考えた事あるだろ?
ちなみにオレは猫に生まれ変わりたかったね。
ただし幸せな飼い猫限定ね。
実家で飼われてた猫がもう幸せそうでさ、子供心に猫になりたいて思ったね。
家族みんなに可愛がられてさ、宿題もないし学校行かなくていいし。
みゃわんと鳴けばオヤツもらえるし。
でもさ、それがホントに自分の身に起こるとさ、正直ビビっちゃうよ!
しかも猫どころか植物だよ! 話ちげぇじゃねぇか!
あっ!
そう言えば関係ないけどさ、さっき……かどうかわからんけどとにかくオレが丸太に飲み込まれた時さ、オレのセクハラまがいのひと言にあの柏木チャンが顔を赤くしてさ、なんだか恥ずかしそうにしてたよね!?
みんな見たよな!?
あれってまさか、オレにワンチャンあったて事かよ!?
社内裏美人コンテストで毎年グランプリに輝いてたあの柏木朱音サマが!!??
たまたま彼女の指導係に命じられて、他の同僚や先輩たちに散々嫉妬と恨みの視線を送られながらも、「は?オレそんなん興味ないっすよ。男とか女とか関係ねーし?」みたいなフリして全力で普通に仕事だけの関係ですよってな顔してたけどもさ。
―――くっそぉ、全然そんな素振り見せなかったじゃねぇか!
もうちょっと分かるようにしといてくれよ!
さっきはあんな風に、気の置けない先輩後輩、みたいなノリでしゃべってたけどさ、朱音様のご尊顔が視界に入る度に、実は内心ドッキドキして、まぁそれが気恥ずかしくって、あんな風に軽口叩いちゃうんだよもうわかるだろ!?男ならさぁ!キミだってそうだろ!?
……え?思春期男子かって?うるさいな童貞魔法使いなめんな!!!
この歳になったって高校生男子と変わらんねん、経験値がさぁ!? 経験値なかったらレベルアップできないだろ!? いやむしろレベルダウンしてるまであるし、つまりそういうことなんだよ!!
(くわぁ~~~~! もったいねぇ~~~!!!)
(ふーーーーっ!!ふーーーーーっ!!!!)
と鼻息荒く早口でまくし立ててしまったが、まぁ落ち着け。
冷静に考えてみれば、そんなはずない……よな……これまでのオレの経験がそう言ってる。
そりゃオマエ、超恥ずかしい勘違い野郎だって。
それで高校時代に痛い目を見ただろ? って思い出させんな恥ずかしい!
いや、でもさ、もし……いや、もしだよ?
もしそうだとしたら、それで多分ちっぽけなオレの一生分の運を使い果たしたって事じゃないの?
だから不運な事故で死んだとかさ?
あー、なんかそれがスゲーしっくり来るわー……いかにもオレらしいって言うか。
混乱しすぎて何が本当なのか全くわからなくなってしまい、現実逃避気味に脈絡のない事をアレコレ考えてしまうが、これ以上そんな事をしていてもパニックになるだけだ。
とりあえず落ち着こう。
目の前に立っているゴブリン(仮)に集中しよう。
……ん?なんで(仮)かって?
いやね、ホントにゴブリンかどうかわかんないから(仮)にしてるんだよ。
もし違ったら先方に失礼だろ? 今は謝罪用の菓子折りとか持ってねーし。
―――というわけで、改めてゴブリン(仮)を見てみる。
あれ、そういや“見て”みるって、どうやって見てるんだよ、オレ!?
植物にも目ってあるんだ!?
あの『木をジッと見つめるとウロが人の顔に見えてくる』って現象、実は本当に顔だったのか!? これノーベル以下略!
「ギギッ、やっぱり……コイツ……」
おお!?
コイツ喋れるの!?
オレも喋れないのに!
羨ましいっ!
ってか、オレの声聞こえない!? 聞こえてませんかー!!
入ってますー-! この木にオレ入ってまー--す!!!
ていうかさあ、普通にゴブリン(仮)って言ってるけど、なんでそんなのが居るのよ、そもそも。
ここ地球じゃないの?
夢の世界ならオレのゲーム脳が生み出した世界って事だろうけど。
とりあえずさ、どう見てもあの数々のゲームやアニメに出てくるゴブリンそのまんまなんだもの……だからもう(仮)取っていいよね?
(あ……やめて……そんな……その手に持った石のオノみたいなので、オレを……オレをどうする気!? せめて喋れたら、やめて下さいって言えるのに……!!)
ゴブリンが、おもむろにそのオノを振り上げ―――ニヤリと嗤った。
「グヒッ……やった……」
(コイツ……気付いてる!? この若木にはオレという意識が、魂的なモノがあるんだって……それをわかった上でオレを伐採しようとしてるんだ! あの顔……あの『何アイツ木の中にいて動けないとか面白すぎて草』みたいな顔しやがって、絶対そうだろ!?)
「オラーッ!!」
ゴブリンは勝ち誇った顔でオノを一気に振り下ろす。
(ああっ……!! もうダメだー--! さっきは木材に押しつぶされて死んで、また今度は訳の分からないままオノで切られて死ぬのかっ……!?)
目(?)を瞑って、動くことも出来ない植物の身として、なす術もなく斬られる瞬間に備えて身構えていた。
(――――イヤだなぁ、切られたら痛いんだろうなぁ……オレ木だけど痛覚あるんかなぁ……)
しかし、待てど暮らせど切られた感覚がやって来ない。恐る恐る目(?)を開けて確かめてみると、
「グルルゥゥ!」
「ギャッギャッ!」
あれ、お客様が一人増えていらっしゃる? えっと、どちら様?
あれは、でっかい犬……いや、オオカミ?
オレを切り倒そうとしていたゴブリンに、横からオオカミが襲い掛かったようで、ゴブリンが手に持ったオノで必死に抵抗している。
でもオオカミの方が強いみたいで、あっという間に押し倒され圧し掛かられて揉み合ってる内に、ゴブリンはやがて動かなくなった。
てかこんなでっかいオオカミ、見た事ないわ。
ここはシシ〇ミの森かな……。いやあっちは犬なんだっけか。
ぐったりとしたゴブリンを口に咥えて、オオカミはチラリとこちらを一瞥したが、「フン」と鼻を鳴らして颯爽と去って行った。
よかったぁ~、オレには興味なかったみたいだ。
次はオレの番かって、ちょっと思っちゃったんだけど。超ドキドキしてたんだけど。
えーっと、とりあえず危険はなくなった? またすぐに次の刺客現れたりしない?
(・・・・・・・・・)
オレは息を殺して、ジッと周囲の様子を伺っていた。
……いやわかってるよ、そんな突っ込まれなくても、動けないんだからジッとしてるもしてないもないってさ!?
でもさ、息は出来るよ?
植物だって呼吸してるんだよ? 理科で習っただろ?
そういえば光合成もしてるはずだよな?
自分で作った酸素自分で吸ってる最高のエコだよ、いやもうオレがエコそのものだ。
人間時代よりもよっぽど世界の役に立ってるよ! 悪かったな役立たずの害悪童貞魔法使いで!?
ゴブリンかっこか……いやもう(仮)いらないんだった、とオオカミっぽい動物さんが去ってからは、周囲には静寂が戻って来た。
うー--ん。
マジ何も起きないな。
それはそれでヒマだ。
やる事ないし、とりあえず、周囲を見渡してみる。
うん、森だ。
見渡す限りの森。
これはもう森ですね、っていうぐらい森。
森林と書いて“もりりん”って読んじゃうぐらい森。……読まないか。
オレより遥かに高い木々の合間から木漏れ日が洩れ、光が差している。
しかしまあ、森なんだから当たり前だけど、周囲は見事な木が立ち並んでいる。
これだけいい木材があったら、色々作れそうなもんだなぁ。
……まぁ、手がないからムリなんだけど。
時折小鳥のさえずりや、小動物が通る音なんかが聞こえるが、それ以外は静かだ。
どうなってるのかサッパリわからないけど、オレには周りが見える。
人間時代と変わらない色で、世界が見えているし、音も聞こえる。
五感の内で機能しているのは視覚と聴覚だけなのかも。
さっきから声を出そうとしているが出せない所を見ると、口はないんだろうし、匂いというのも感じられていない気がする。
触覚は……あるかもしれない。
時折吹いて来るそよ風が、オレの木肌を撫でていくのを感じるし。
それにしても……
ホントにオレ、木に生まれ変わったの?
夢なら早く覚めて欲しいんだけど?
木材に押しつぶされたからこんな夢見てるとかじゃ……ないの?
実は下敷きにされた木材の下から助け出されて、今頃病院で寝てるとか?
もしそうだったら、きっと枕元であの柏木朱音様が涙を流しながら、オレの手を握ってくれているに違いない。
そして目覚めたオレの頬に手を添えて、「センパイ……おかえりなさい///」って潤んだ瞳で見つめられながら……
いやわかってる! そんな展開あるはずないって! でも実際アイツを助けたんだし、それくらいの夢は見させてくれてもいいじゃん?
っていうか30歳童(以下略)には妄想するぐらいしか楽しみがない(暴論)んだからさ、多少キモくても、大目に見てくれたっていいじゃん?
あー、そんな事考えてたらホントに向こうに戻りたくなってきた。
戻れたら、今度はもうちょっとちゃんと生きていきたいよな。
……しかし、いくら待っても目が覚める様子はない。
これはもう、認めるしかないだろう。
―――このオレ、若木大地は、森に生える一本の若木として、植物に転生したのだと。
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