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第6話:統率45の限界と突撃



東の森に到着した時、すでにそこは戦場になっていた。

緑色の肌をした小鬼――ゴブリンの集団が、開墾地の農民たちを襲おうとしていたのだ。


「ヒャッハー! 待ちくたびれたぜェ!」


私の合図を待たずに、ガッツが飛び出した。

身の丈ほどある大剣を軽々と振り回し、先頭にいたゴブリンを三匹まとめて薙ぎ払う。

一撃必殺。

**【武勇:75】**の破壊力は伊達ではない。ゴブリンたちは蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うが、ガッツはその巨体からは想像できない速度で追いかけ、次々と肉塊に変えていく。


「す、すげえ……」


私の後ろで震えていた、かき集めたばかりの二十名足らずの衛兵たちが、感嘆の声を漏らす。

かつての精鋭騎士団はもういない。今、私が動かせるのは、逃げ遅れた老兵や、昨日槍を持たされたばかりの農民の次男坊といった、文字通りの「寄せ集め」だけだった。

数も質も、敵である五十匹のゴブリン集団には遠く及ばない。


戦況は一方的だった。個の力において、ガッツは完全にゴブリンを圧倒している。

だが、指揮官である私の目には、別の「危機」が見えていた。


「ガッツ! 前に出すぎるな! 陣形を保て!」


私は声を張り上げた。

しかし、殺戮の興奮に酔いしれるガッツの耳には届かない。


「アレン様、右翼に敵の別動隊が見えます。……統制が取れていませんね」


隣で戦況を記録していたミリアが、冷静かつ辛辣に指摘する。

彼女の言う通りだ。ガッツが勝手に突っ込むせいで、護衛すべき本陣(私とミリア)との間に大きな隙間ができている。

私の**【統率:45】**では、暴走する猛獣の手綱を握りきれない。


「くそっ……! 全隊、ガッツの後を追え! 孤立させるな!」


私が必死に指示を出した、その時だった。

森の奥から、一際大きなゴブリンが現れた。

首や腕にジャラジャラと派手な貴金属をぶら下げ、挑発するように奇声を上げている。


(……変だ)


私の**【知略:50】**の脳が警鐘を鳴らす。

ゴブリンは光り物を好むが、あそこまで無防備にひけらかすのは不自然だ。まるで「こっちに来い」と言わんばかりの……。


「誘いか!」


私は叫んだ。

「ガッツ! 止まれ! それは罠だ!」


だが、遅かった。

ガッツの目は、ゴブリンがぶら下げている金銀財宝と、獲物の首に釘付けになっていた。


「お宝付きのカモだァ! いただきッ!」


【知略:20】。

その数値が示す通り、彼には「罠かもしれない」という思考回路が存在しない。

ガッツは私の制止を無視し、大剣を担いで森の奥へと突っ込んでいった。


「バカ野郎!」


私の予感は的中した。

ガッツが囮のゴブリンに追いつこうとした瞬間、左右の茂みから一斉に伏兵が飛び出したのだ。

網が投げられ、落とし穴が開き、四方八方から槍が突き出される。

いくら武勇75のガッツといえど、足止めを食らい、数十匹に囲まれては身動きが取れない。


「なっ、んだコラァ! 離せ! 卑怯だぞテメェら!」


ガッツの怒号が響くが、ゴブリンたちは嘲笑うように包囲を狭めていく。

このままでは、なぶり殺しだ。


「あらあら。やっぱりバカね」


ミリアが他人事のように呟く。


「どうするのアレン? あのまま見捨てて撤退するのが、損害を最小限に抑える『合理的』な判断よ」


彼女の言う通りだ。

命令違反をした傭兵一人のために、全軍を危険に晒すのは指揮官として失格だ。ここで彼を見捨てて、本陣を守りながら撤退するのが正しい。

私の頭上の**【知略】も【政治】**も、そうしろと囁いている。


だが。


私は自分の頭上にある、もう一つの数値を思い出した。

【義理:100】。

レオナルト様との約束。そして、ガッツに「伝説にしてやる」と啖呵を切った自分自身の言葉。


(……ここで見捨てたら、私は一生、ただの『計算高い凡人』のままだ)


私は腰の剣を抜いた。震える手で。


「……全軍、突撃ッ!!」


「はあ!?」


ミリアが目を見開く。


「正気!? あんた、まともに戦えもしないくせに!? 死ぬわよ!」

「死なせるもんか! ガッツを回収する! ミリア、お前はここで弓隊を指揮して援護しろ! 私が道をこじ開ける!」


私はミリアの返事も聞かず、衛兵たちを率いて駆け出した。

心臓が破裂しそうだ。足がすくむ。

それでも、私は声を張り上げ続けた。


「ガッツ! 今行くぞ! 死んでもその剣を離すなァ!」


アレン・フォン・エデルシュタイン、一世一代の無謀な突撃。

私の胃が、これから続く苦難を予感して、キリキリと痛み始めた瞬間だった。

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