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凡人家老のステータス・マネジメント ~義理100の若殿と、野望99の天才たちを使い潰して覇王にする~  作者: LINYADA


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第55話:世界を繋ぐ『声』



「……遅いな」


貴賓席の最前列で、ローゼンバーグ伯爵は苛立たしげに扇子を揺らしていた。

彼の計画では、そろそろ会場の地下から爆発音が響き、パビリオンが大混乱に陥るはずだった。

だが、聞こえてくるのは観衆の期待に満ちたざわめきと、壇上で準備を進めるギルバートたちの作業音だけだ。


「どうしました、伯爵? 何か落ち着かないご様子ですが」


私が声をかけると、伯爵はビクリと肩を震わせ、張り付いたような笑顔を向けた。


「い、いや。……メインイベントがなかなか始まらないものでね。田舎の職人たちに、まともな進行ができるのか心配しているのだよ」

「ご心配には及びません。……少し『地下のネズミ駆除』に手間取っただけですから」


私が意味深に囁くと、伯爵の顔色がサッと青ざめた。

察しの良い男だ。自分の手駒がどうなったか、瞬時に悟ったのだろう。


「……そ、そうか。それは……何よりだ」

「ええ。おかげで舞台は整いました。……特等席でご覧ください。世界が変わる瞬間を」


私はニヤリと笑い、ステージへと視線を移した。


壇上では、リコが緊張した面持ちでマイク(拡声の魔道具)の前に立っていた。

その横には、白磁のケースに収められた「魔導通信機」が、朝日を浴びて神々しく輝いている。


「皆様、長らくお待たせいたしました」


リコの声が会場に響く。

エリス仕込みの完璧な発声だ。


「これより、エデルシュタイン技術館の集大成……『長距離魔導通信』の公開実験を行います」


会場が静まり返る。

通信機自体はこれまでも存在したが、せいぜい城内や隣の建物と話せる程度のものだった。

「長距離」といっても、隣町まで届けば御の字だろう――多くの観客はそう思っていたはずだ。


「本日の通信相手は……ここから数百キロ離れた『王都』です」


「なっ……!?」

「王都だと!? 馬鹿な、そんな距離が繋がるわけがない!」


各国の技術者たちが総立ちになる。

常識外れだ。魔力は距離と共に減衰する。数百キロ先へ声を届けるなど、魔法使いが何十人も中継しなければ不可能だ。


「不可能を可能にするのが、技術です」


リコは毅然と言い放ち、ギルバートに合図を送った。

ギルバートが頷き、巨大なレバーを押し込む。


ブォォォン……!


低い駆動音と共に、ベルンハルトが焼いた磁器のケースが淡い光を放ち始めた。

内部の魔力回路が過負荷ギリギリまで出力を上げている。

だが、熱暴走は起きない。磁器が完璧に熱と魔力を制御しているからだ。


接続コネクト、開始……!」


リコが叫ぶ。

会場中の視線が、通信機のスピーカー部分に注がれる。

ノイズ混じりの音が、スピーカーから漏れ出す。


『ザザッ……こちら……ザザ……王都……』


「!」


どよめきが走る。

人の声だ。だが、まだ不鮮明だ。


「出力安定! ノイズ除去フィルター、最大展開!」


ギルバートが叫び、さらにダイヤルを回す。

光が強くなる。

そして、ノイズがフッと消え、クリアな声が響き渡った。


『……聞こえるかい? レオナルト』


その声を聞いた瞬間、貴賓席の誰もが息を飲んだ。

聞き間違えるはずがない。

若く、理知的で、そして気品に満ちたその声。


「……はい! 聞こえています、テオドール殿下!」


レオナルト様が壇上で叫んだ。

通信の相手は、次期国王――テオドール王太子その人だった。


『ふふ、よかった。……すごいね、本当に繋がっているんだ』


王太子の声が、まるで隣で話しているかのように鮮明に聞こえる。


『会場の皆さん、こんにちは。王太子のテオドールです。……王都の空は快晴だよ。そちらはどうだい?』


会場はパニック寸前だった。

王太子の声だ。間違いなく本物だ。

それが数百キロの距離を超えて、今ここに届いている。


「こ、こんなことが……」

「魔法だ……いや、これが技術なのか……!」


ドワーフの技師長が震える手でメモを取り、エルフの賢者が信じられないものを見る目で通信機を凝視している。

そして、ローゼンバーグ伯爵は腰を抜かして椅子にへたり込んでいた。

自分のちっぽけな妨害工作など無意味だったと、圧倒的な「現実」に叩きのめされた顔だ。


「……テオドール殿下。こちらは大盛況です。世界中の方々が、この声を聞いています」

『そうか。……アレンやミリア、それにエリス嬢たちの頑張りのおかげだね』


テオドール殿下の声が優しく響く。


『レオナルト。君たちの領地が作り上げたこの技術は、世界を小さくする。……離れていても、心を通わせることができる。それはきっと、争いを減らす力になるはずだ』

「はい。……僕も、そう信じています」


二人の会話は、技術の証明であると同時に、エデルシュタイン家と王家の「強固な絆」を世界に示すデモンストレーションでもあった。

王太子と直通回線を持つ領主。

その政治的意味を理解した各国の代表たちが、顔色を変えて側近に指示を出し始める。

「エデルシュタイン家とのパイプを作れ」「技術提携の交渉を急げ」と。


「……実験は成功です!」


リコが高らかに宣言すると、会場が割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。

ギルバートが「やったぜ!」と工具を放り投げ、ベルンハルトも腕組みをしたまま「ふん、まあまあの出来だな」とニヤリと笑う。


大成功だ。

技術、演出、そして政治的アピール。全てが完璧に噛み合った。


「……お見事ですわ」


エリスが満足げに扇子を開く。


「これで、我が領地の地位は不動のものとなりました。……アレン様、後の掃除・・・はお任せしても?」

「ああ。任せてくれ」


私は立ち上がり、魂が抜けたようになっているローゼンバーグ伯爵の肩に手を置いた。


「さて、伯爵。……感動のフィナーレの後は、現実的なお話をしましょうか」


私は懐から、先ほど工作員から押収した「指令書」と「証言の記録」を取り出し、伯爵の目の前にちらつかせた。


「貴方の可愛い部下たちが、地下で寂しがっていますよ。……迎えに行ってあげてはいかがですか?」


伯爵の顔が、恐怖で引きつる。

彼の社会的生命を絶つための、最後の仕上げの時間だ。

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