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第5話:集結する問題児たち



領主館への帰り道、ガッツはずっと不機嫌そうに黙り込んでいたが、その足取りは意外にも軽かった。

おそらく、その単純な頭の中ではすでに「俺=未来の伝説の将軍」という妄想が出来上がっているのだろう。時折、「へへ……」と気味の悪い笑い声を漏らしているのが聞こえる。


「……ねえアレン。本当に大丈夫なの? あの筋肉ダルマ」


私の横を歩くミリアが、聞こえないような小声で囁いた。


「大丈夫……だと思いたい。少なくとも、今は彼の武力が必要だ」

「あんたの『イカサマ』がバレたら、その瞬間に首が飛ぶわよ」

「その時は、お前も共犯だ。一緒に逃げてくれ」

「お断りよ。私はあんたを盾にして逃げるわ」


ミリアはつれない態度をとるが、その口元は少し楽しげだ。彼女にとって、このスリリングな状況は退屈な牢獄生活よりはマシなのだろう。


館に到着すると、玄関ホールにはすでにレオナルト様が待ち構えていた。

居ても立っても居られず、執務室から出てきてしまったらしい。


「アレン! 戻ったか! 無事……」


レオナルト様は私に駆け寄ろうとして、背後に立つ巨漢――ガッツの姿に気づき、足を止めた。

身長2メートル近いガッツが放つ威圧感は、戦場を知らないレオナルト様にとって恐怖以外の何物でもないはずだ。

ガッツもまた、レオナルト様を見下ろし、鼻を鳴らした。


「……なんだ。こいつが主君か?」


ガッツの目が、値踏みするように細められる。

彼には数値こそ見えないが、歴戦の勘で相手の強さを測ることができる。


レオナルト

【統率:35 武勇:30 知略:28 政治:32】


ゴミのようなステータスだ。ガッツの**【武勇:75】**からすれば、デコピン一つで吹き飛ばせる存在。

ガッツの顔に、あからさまな落胆の色が浮かんだ。


「おいアレン。話が違うんじゃねえか? ……弱そうなんてもんじゃねえぞ。案山子かかしの方がまだ強そうだ」


不敬極まりない言葉。

だが、私は反論できなかった。事実だからだ。

しかし、ここでガッツに愛想を尽かされては全てが終わる。私が割って入ろうとした、その時だった。


レオナルト様が、震える足を一歩前に踏み出したのだ。


「……君が、ガッツ殿か」


声が裏返っている。膝も笑っている。

それでも、レオナルト様は逃げなかった。真っ直ぐにガッツの目を見上げ、その巨大な右手を両手で包み込んだ。


「……あ?」

「来てくれて、ありがとう。……本当に、ありがとう」


レオナルト様は深々と頭を下げた。


「見ての通り、僕は弱い。父上のような力も、カリスマもない。アレンがいなければ、今日食べるパンにも困っていたかもしれない」

「お、おう……?」

「でも、この領地の民を守りたいんだ。そのためには、君の力が必要なんだ。……お願いだ、ガッツ殿。君の剣を、僕に貸してくれないか」


その言葉には、貴族特有のプライドも、虚勢もなかった。

あるのは、己の弱さを認めた上での、切実な願い。

そして何より、**【義理:100】**がなせる「嘘偽りのない信頼」だった。


ガッツは呆気に取られたように口を開けていたが、やがてポリポリと頬をかいた。


「……ちっ。調子狂うなァ」


ガッツは組まれた手を乱暴に振りほどくことはせず、バツが悪そうに視線を逸らした。


「ま、いいぜ。アレンとの賭けには負けたんだ。約束通り、俺の剣はあんたに預ける」

「本当か!?」

「ああ。……ただし!」


ガッツはニヤリと笑い、レオナルト様の肩をバシッと叩いた。レオナルト様が「ぐえっ」とひしゃげる。


「俺は強え奴が好きだが、正直な奴も嫌いじゃねえ。……ま、せいぜい俺が働きやすいようにご機嫌取りしてくれよな、大将?」


「もちろんだ! 君の寝床も食事も、最高のものを用意させるよ!」


レオナルト様は痛む肩をさすりながらも、満面の笑みを浮かべた。

その光景を見ながら、私は安堵の息を吐こうとして――凍りついた。


私の「目」に映る、ガッツのステータスが激しく変動していたからだ。


ガッツ

【義理:30 → 32】

【野望:65 → 75】


義理は「2」上がった。レオナルト様の人柄に少しだけ絆されたのだろう。

だが、問題は**【野望】**だ。「10」も上がっている。


(な、なんだ今の上がり方は……!?)


私はガッツの思考を読み解こうとした。

『こいつは弱い』『俺でも勝てる』『……ってことは、俺がこの国で一番強い』

『つまり、この国を実質支配するのは俺じゃね?』

『いずれは俺が乗っ取って、ここを拠点に覇王になれるんじゃね?』


――完全に舐められている!

レオナルト様の「弱さ」を目の当たりにしたことで、ガッツの中の「下剋上スイッチ」が入ってしまったのだ。

今はまだ「利用してやる」程度だが、これ以上【野望】が上がれば、戦場でレオナルト様を後ろから刺しかねない。


「……アレン、顔色が悪いわよ?」


ミリアが面白そうに私の脇腹をつつく。

彼女のステータスもついでに確認する。


ミリア

【義理:18】


……こっちは相変わらず低いままだ。まあ、下がっていないだけマシか。


「いや……なんでもない。とにかく、これで役者は揃った」


私は胃のあたりを押さえながら、無理やり自分を納得させた。

【政治72】の横領犯と、【武勇75】の野心家。

そして、【全能力30台】の主君。


このメンバーで、国を運営しなければならない。綱渡りどころか、蜘蛛の糸を渡るようなものだ。


その時だった。

館の外から、けたたましい半鐘はんしょうの音が響き渡った。

敵襲を知らせる鐘だ。


「な、なんだ!?」


レオナルト様が狼狽する。

ドタドタと衛兵が駆け込んできた。顔面蒼白だ。


「申し上げます! 東の森から、魔物の群れが! ゴブリンです! その数、およそ五十!」

「ゴブリン五十!?」


私は息を飲んだ。

通常、ゴブリンなど数匹程度で現れる雑魚だ。五十匹もの群れをなすなど聞いたことがない。

間違いなく、隣のバルトハルト伯爵による「差し金」だ。こちらの戦力がガタ落ちしたタイミングを見計らって、嫌がらせをしてきたのだ。


「ど、どうしようアレン……! 騎士団はもういないし……!」


レオナルト様が私に縋り付く。

私は覚悟を決めた。


「落ち着いてください、レオナルト様。……我々には、彼らがいます」


私はガッツとミリアを振り返った。


「ガッツ。初仕事だ。その大剣が飾りじゃないところを見せてくれ」

「へっ、雑魚退治かよ。ま、準備運動にはちょうどいいぜ」


ガッツは好戦的な笑みを浮かべ、背中の剣を抜いた。


「ミリア。お前は物資の管理と、村人の避難誘導を頼む。……数字合わせだけじゃなく、現場指揮もできるところを見せてみろ」

「人使いが荒いったら……。特別手当、弾みなさいよ?」


ミリアは不満そうにしつつも、すでに頭の中で効率的な避難ルートを計算し始めている顔だ。


「行くぞ! エデルシュタイン領の命運をかけた、最初の戦いだ!」


私は震える足を叱咤し、叫んだ。

統率45の私が指揮し、言うことを聞かない猛獣たちを操る防衛戦。

負ければ終わりの、無謀な戦いが始まる。

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