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凡人家老のステータス・マネジメント ~義理100の若殿と、野望99の天才たちを使い潰して覇王にする~  作者: LINYADA


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第29話:王都の闇に潜む工場



審問会の前日、夜。

老紳士の別邸の一室は、緊迫した空気に包まれていた。


「……見つけたわよ」


ミリアが大量の羊皮紙の束から顔を上げ、充血した目で勝利を宣言した。


「王都の南区、スラム街に隣接する『第8倉庫』。……ここが怪しいわ」

「根拠は?」

「物資の流れよ。ここ一ヶ月、バルトハルト家名義で搬入された『軍用麦』の記録……その総量と、正規軍に納入された量にズレがある。差分はおよそ馬車20台分」


ミリアは地図上の一点を指差した。


「消えた麦の行方を追ったら、複数のダミー商会を経由して、最終的にこの倉庫に集められていたわ。……しかも、この倉庫の周辺だけ、最近『甘くて焦げ臭い匂い』がすると住民が噂している」


決まりだ。

焦がした麦と、コーヒーの香りをごまかすための香料。偽造工場の特徴と一致する。


「よくやった、ミリア」

「褒めるならボーナスで頂戴。……で、どうするの?」


私が問うと、ロレンツォが片眼鏡を光らせた。


「急ぐべきです。明日の審問会を前に、エリス嬢は証拠隠滅を図る可能性があります。もし工場を燃やされれば、我々の勝機は消える」

「つまり、今すぐ乗り込んで現物を押さえるしかない、か」


私は拳を握った。

危険な賭けだ。敵の本拠地かもしれない場所に、少人数で突入するのだから。


「俺が行くぜ」


ガッツが立ち上がり、首をコキコキと鳴らした。


「護衛なんて退屈な仕事は飽きてたんだ。……その工場ごと、悪党どもをぶっ飛ばしてやるよ」

「頼もしいが、お前一人じゃ証拠の保全ができない。私も行く」

「はあ? アレン、お前死ぬぞ?」

「私の『目』が必要だ。どれが毒物で、どれが証拠書類か、瞬時に判別できるのは私しかいない」


それに、ガッツの手綱を握れる人間がいなければ、彼は証拠ごと敵を粉砕しかねない。


「護衛の方は大丈夫か?」


私が懸念すると、部屋の隅で瞑想していたヴォルフガングが目を開けた。


「案ずるな。この老いぼれが睨みを利かせておる限り、蟻一匹通さんよ。……ゲオルグ殿の安全は保証する」

「頼んだぞ、ヴォルフガング殿。……レオナルト様、行って参ります」


私は不安そうに見守る主君に一礼し、ガッツと共に夜の王都へと走り出した。


王都南区。

華やかな貴族街とは打って変わって、腐敗臭と汚水が漂うスラム街の一角。

そこに、異様な威圧感を放つ石造りの倉庫があった。


「……ビンゴだ」


建物の影に身を潜めた私は、鼻をひくつかせた。

微かだが、あの「粗悪な偽物」特有の、油っぽい刺激臭が漏れ出ている。


「入り口に見張りがいやがるな。……二人か」


ガッツが楽しそうに大剣の柄を撫でる。


「正面突破でいいか?」

「待て。騒ぎになれば証拠を燃やされる。……裏口から潜入するぞ」


私たちは音もなく建物の裏手へと回った。

幸い、換気用と思われる小窓が開いている。ガッツが私を軽々と持ち上げ、窓から中へと放り込んだ。続いて彼自身も、巨体に見合わぬ身軽さで音もなく着地する。


倉庫の中は、熱気と粉塵に満ちていた。

薄暗いランプの明かりの下、数十人の男たちが無言で作業をしている。

大麦を黒くなるまで煎る者、謎の粉末を混ぜる者、そして「エデル・コーヒー」と偽った袋に詰める者。


(……間違いない。ここが製造元だ)


私は「目」を凝らし、作業台の上にある小瓶を確認した。


【名称:濃縮下し根エキス】

【毒性:中(摂取すると激しい腹痛と下痢を引き起こす)】


動かぬ証拠だ。

これを確保し、明日の法廷に持ち込めば我々の勝ちだ。


「よし、ガッツ。あの小瓶と、作業日誌らしき書類を確保する。……暴れるのはその後だ」

「へっ、了解……と言いたいところだがよ」


ガッツが低く唸り、視線を天井のはりに向けた。


「……バレてやがるぜ」


その瞬間。

ヒュンッ!!

風切り音と共に、私の足元にクロスボウの矢が突き刺さった。


「ネズミが入り込んだぞ! 殺せ!!」


作業員たちが一斉に作業を止め、隠し持っていた短剣や手斧を取り出す。

さらに、梁の上からは黒装束の男たちが飛び降りてきた。

罠だ。最初から待ち構えていたのだ。


「ちっ、やっぱりこうなるかよ!」


ガッツが大剣を抜く。


「アレン! お前は証拠を奪え! 雑魚は俺が引き受ける!」

「無茶を言うな! この人数だぞ!?」

「関係ねえ! ……俺は将軍になる男だ! この程度で死んでたまるかよォッ!!」


ガッツが咆哮し、突っ込んでくる敵の群れに飛び込んだ。

豪快な横薙ぎ一閃。

先頭の三人が吹き飛び、背後の木箱を粉砕する。


「確保ーッ!!」


私はその隙に、毒物の小瓶がある作業台へと走った。

立ちはだかる作業員。

【武勇:15】。ただのチンピラだ。


「どけッ!」


私は前世で習った護身術(という名のタックル)で男を突き飛ばし、小瓶を掴み取った。

さらに、横にあった帳簿の束を小脇に抱える。


「ガッツ! 取ったぞ!」

「おう! じゃあズラかるぞ!」


ガッツが敵を蹴散らしながら、こちらへ道を切り開こうとする。

だが、その時。

倉庫の奥から、拍手の音が聞こえてきた。


「……素晴らしい。実に見事な連携ですね」


現れたのは、一人の男だった。

整えられた口髭に、冷酷な眼差し。

私は彼を知っている。以前、バルトハルト家の執事としてゲオルグに付き従っていた男だ。


「ですが、ここから生きて出られるとは思わないでいただきたい」


執事が指を鳴らすと、倉庫の四隅から、禍々しい気配を纏った異形の男たちが現れた。

筋肉が異常に膨れ上がり、目は充血し、口から泡を吹いている。


【状態:薬物強化バーサーク

【武勇:65(補正込み)】


(……ドーピング兵か!)


禁じられた強化薬物を投与された捨て駒たち。

理性はないが、力だけならガッツに迫る化け物が四体。


「ガッツ! 気をつけろ! そいつら薬で強化されてる!」

「ハッ! 面白ェ! 普通の人間じゃ物足りなかったところだ!」


ガッツは凶悪に笑い、迫りくる化け物の一体に正面から斬りかかった。

ガギィン!

大剣と、男の持っていた鉄棒が激突し、火花が散る。

力負けはしていない。だが、足止めを食らう。その間に他の三体が私を狙って殺到してくる。


「くそっ……!」


私は必死に後退した。

**【武勇:42】**の私では、一撃でも受ければ即死だ。

逃げ場はない。出口は塞がれた。


万事休すか。

そう思った瞬間、天井の明かり取りの窓がガシャンと割れた。


「……遅くなりました、アレン様」


月光と共に舞い降りたのは、小柄な影。

空気のように気配のない少年――クロだった。


「クロ!? なぜここに!?」

「……心配だったので、こっそりついてきました」


クロは着地と同時に、手にした煙玉を地面に叩きつけた。

ボンッ!

視界を奪う白煙が充満する。


「今のうちに! 出口はあっちです!」

「でかした!」


クロの煙幕に混乱する化け物たちの隙を突き、私はガッツに叫んだ。


「ガッツ! 撤退だ! 壁をぶち破れ!」

「おうよ! 掴まってな!」


ガッツは私とクロを小脇に抱えると、出口ではなく、脆そうな壁に向かって全力で体当たりをかました。


ドゴォォォン!!


レンガの壁が粉砕され、私たちは夜の路地裏へと転がり出た。

背後から怒号と追手が迫るが、入り組んだスラムの地理なら、身軽な私たちが有利だ。


「はぁ、はぁ……! 死ぬかと思った……!」

「へへっ、スリル満点だったな!」


ガッツが笑い、クロが安堵のため息をつく。

私の手には、毒の小瓶と帳簿がしっかりと握りしめられていた。


勝った。

これでエリスの首根っこを押さえた。


「帰るぞ! ……明日の審問会が楽しみだ!」


私たちは夜闇に紛れ、老紳士の別邸へと急いだ。

決戦の時は来た。

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