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凡人家老のステータス・マネジメント ~義理100の若殿と、野望99の天才たちを使い潰して覇王にする~  作者: LINYADA


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第26話:封鎖された街道と、幼き策士の初陣



エリスを追い返した翌日。

エデルシュタイン領に、静かだが致命的な「攻撃」が始まった。


「家老様! 街道が……封鎖されました!」


早馬で戻ってきた伝令の兵士が、息も絶え絶えに報告した。


「バルトハルト家の私兵団が、主要な街道に関所を設け、『不審者の取り締まり』を名目に通行を制限しています! 商隊は足止めを食らい、一歩も通してくれません!」

「……来たか」


私は舌打ちをした。

予想通りの報復だ。軍隊を差し向けるのではなく、物流を止めて干上がらせる「兵糧攻め」。

地味だが、弱小領地にとっては一番効く手だ。


「どうするのよ、アレン!」


ミリアが青い顔で詰め寄ってくる。


「塩も鉄も、紙もインクも、全部輸入頼みなのよ!? このままじゃ一週間で生活必需品が尽きるわ!」

「分かっている。……ロレンツォ、裏ルートは?」


同席していたロレンツォに水を向けると、彼は渋い顔で首を振った。


「厳しいですね。獣道や山越えルートも試しましたが、そちらには『正体不明の野盗』が出没して、荷を奪われたとの報告が」

「野盗の正体は、バルトハルト家の手勢でしょうね」


徹底している。

**【知略:92】**のエリスが指揮しているのだろう。こちらの逃げ道を完全に塞ぎ、音を上げて泣きついてくるのを待っているのだ。


「くそっ! じれってえ!」


ガッツがテーブルを拳で叩き割った(本日二脚目)。


「なんでコソコソしてやがる! 真正面から攻めてきやがれってんだ! 俺と師匠で蹴散らしてやるのによォ!」

「落ち着け、馬鹿弟子」


ヴォルフガングが呆れたようにガッツの脛を杖で叩く。


「敵の狙いはそこじゃ。こちらから手を出せば、『凶暴なエデルシュタイン領が隣領を侵略した』という大義名分を与えてしまう。……耐えるしかないのう」


最強の武力を持つ二人も、戦う相手がいなければただの飯食い虫だ。

状況は完全に詰んでいた。


「……ねえ、みんな。暗い顔してどうしたの?」


重苦しい空気を破ったのは、場違いに明るい声だった。

ソフィア王女だ。

彼女はレオナルト様の隣でお菓子を摘みながら、不思議そうに首を傾げている。


「ソフィアちゃん……今はちょっと、大変な時なんだ」


レオナルト様が苦笑いで諭すが、ソフィアはふんぞり返った。


「ふーん。要するに、あの白塗りの女狐エリスに意地悪されて、荷物が届かないんでしょ?」

「……まあ、平たく言えばそうですが」

「だったら、私に任せなさい!」


ソフィアは椅子から飛び降り、小さな胸を張った。


「私が解決してあげるわ。……王女の『格』の違いを見せてやるのよ!」


「はぁ?」


私たちが呆気にとられている間に、ソフィアはミリアの元へ走り寄り、彼女の手帳とペンをひったくった。


「ちょっと! 何するの!?」

「いいから貸して! ……アレン、隣の領主の息子……ゲオルグだっけ? あいつ宛の手紙を書くから、届けてきなさい」

「手紙?」

「そうよ。『お茶会』の招待状よ」


ソフィアはサラサラと何かを書き殴ると、それを私に突きつけた。


『拝啓、ゲオルグ・フォン・バルトハルト様。

貴方の妹、エリス様のことで重要なお話があります。

彼女の"秘密"について、こっそりお教えしたく……』


「……なんだこれは」


私は眉をひそめた。

確かに興味を引く内容だが、こんな子供騙しに引っかかるだろうか?


「あいつは馬鹿よ。この間、屋敷に乗り込んできた時の顔を見れば分かるわ」


ソフィアは不敵に笑った。その瞳の奥で、**【野望:98】**の炎がギラリと燃える。


「プライドが高くて、エリスに頭が上がらないコンプレックスの塊。……『妹の弱みを握れる』と匂わせれば、必ず食いつくわ」

「……なるほど。分析力は大したものです」


ロレンツォが感心したように片眼鏡を光らせた。

確かに、ゲオルグはエリスの優秀さに嫉妬している節があった。そこを突くのは悪くない。


「でも、呼び出してどうするのです? まさか説得できると?」

「説得なんてしないわよ」


ソフィアはニヤリと笑った。その顔は10歳の少女のものではない。完全に悪女のそれだった。


人質ほりょにするのよ」


「「「はあ!?」」」


全員の声が重なった。


「向こうが兵糧攻めなら、こっちは誘拐よ! 敵の総大将の息子を捕まえれば、手出しできなくなるでしょ!? 『返してほしければ封鎖を解け』って脅せばイチコロよ!」


ソフィアは胸を張って言い放った。

だが、その提案に対し、私とヴォルフガングは同時に首を横に振った。


「……ダメだ。それは悪手すぎる」

「うむ。逆効果じゃな」


「えっ……? な、なんでよ!?」


予想外の否定に、ソフィアが目を丸くする。


「ソフィア様。貴女はエリスという女を甘く見ている。彼女にとって無能な兄は『家の恥』です。もし人質になったと知れば、彼女は兄を見捨てて、逆に『卑劣な誘拐犯』として我々を攻撃する口実にするでしょう」


私が指摘すると、ソフィアは悔しそうに唇を噛んだ。

【知略:18】。野望と行動力はずば抜けているが、経験と読みが足りない。彼女の策は、ただの子供の癇癪レベルだったのだ。


「……だったら、どうすればいいのよ!」

「そうですね……例えば、彼に『封鎖解除命令書』を書かせるとか?」


レオナルト様が控えめに提案するが、それもロレンツォが否定した。


「無意味です。ゲオルグ氏は所詮、お飾りの現場指揮官。彼が独断で出した命令書など、本国のエリス嬢や伯爵が『無効だ』と一言発すれば紙屑になります。現場の兵士も、馬鹿な若様の命令より本国の指示に従うでしょう」


手詰まりだ。

ゲオルグを捕まえても、即座に状況が好転するわけではない。

だが、放置すればジリ貧だ。


「……いや、待てよ」


私は思考を巡らせた。

ゲオルグ自身には価値がない。彼の命令権にも価値はない。

だが、彼が持っている「情報」と、彼自身の「立場」には利用価値がある。


「ロレンツォ殿。……例の『毒入りコーヒー事件』。我々は実行犯を捕らえましたが、あくまで末端です。バルトハルト家の関与を決定づける証拠としては、まだ弱い」

「ええ。今のままでは『一部の暴走』で押し通されてしまいますね。損害賠償を請求しようにも、証拠不十分で揉み消されるのがオチです」


ロレンツォの目が鋭く光った。


「ですが……もし、当主の嫡男であるゲオルグ氏本人が、『私がやりました』と認めたら?」

「……!」


「自白書、ですか」


「ええ。それも、ただの自白ではありません。『父と妹の指示を受けて実行した』という文言入りの、詳細な証言書です。……これがあれば、もはや『トカゲの尻尾切り』は通用しない」


私が説明すると、ロレンツォは悪魔的に口角を上げた。


「なるほど……! バルトハルト家ぐるみの犯罪となれば、王家も看過できません。取り潰し、あるいは爵位剥奪。……これは封鎖解除どころか、家そのものを吹き飛ばす核爆弾になりますね」

「その通りです。これをエリス嬢に突きつければ、彼女は封鎖を解かざるを得ない。……それどころか、今回の損害賠償を含めた全ての要求を飲まざるを得なくなる」


封鎖解除はあくまで通過点。

本命は、毒事件の落とし前と、将来にわたる安全保障だ。


「悪党じゃのう」


ヴォルフガングが楽しげに髭を撫でた。


「じゃが、誘拐したという汚名は残したくない。……『森で迷子になっていたゲオルグ殿を保護した』と発表し、あくまで丁重におもてなしする。本人が自発的に書類を書いて帰るまでな」


「それだけじゃ、まだ弱いわ」


口を挟んだのはミリアだった。

彼女は意地悪く目を細め、書類仕事で鍛えた冷徹な思考を巡らせていた。


「ただ保護しただけじゃ、向こうは『返せ』と圧力をかけてくる。もっと正当で、向こうが手を出せない理由が必要よ」

「正当な理由、ですか?」

「ええ。……こう噂を流すのよ。『ゲオルグ様は自らの罪を悔いて自白された。その結果、口封じのために本家から命を狙われる可能性が高いため、人道的な見地から我が領地で保護している』とね」


「……!」


私とロレンツォは顔を見合わせた。

恐ろしい女だ。


「そして、国にも公式に報告する。『重要参考人の身柄を確保したので、安全が保証されるまで当家でお預かりする』ってね。……そうすれば、エリスも手が出せないでしょ? うかつに手を出せば、『やっぱり口封じに来た!』って認めるようなものだから」


「……採用だ」


私は即答した。

これならエリスの手足をもぎ取れる。

自白書を書かせた上で、「お前が殺しに来るから守ってやっているんだ」と恩を着せる。

最強の盾であり、最強の矛だ。


「ふん! 最初からそう言おうと思ってたのよ!」


ソフィアは顔を赤くして強がったが、その目はキラキラと輝いていた。

自分の策が、大人たちの手によって極悪な完璧な作戦へと昇華されたことが嬉しいのだ。


「よし。では作戦開始だ。……手紙はソフィア様にお願いします。あの女狐の兄を釣るには、貴女のその『無邪気な悪意』が最高の餌ですから」


「任せなさい! 最高にそそのかしてあげるわ!」


こうして、幼き策士の思いつきと、大人たちの悪知恵が融合した「ゲオルグ保護作戦」が始動した。


翌日。領境近くの森の中。

ソフィアの手紙に釣られ、ゲオルグはやってきた。

護衛は数名のみ。エリスには内緒で来たのだろう、コソコソとした動きだ。


「……おい、本当にこんな所に『秘密の情報』があるのか?」


ゲオルグが不審そうに辺りを見回す。

待ち合わせ場所に指定されたあばら屋には、ソフィアが一人で待っていた。


「ええ、お待ちしておりましたわ。ゲオルグ様」


ソフィアは可憐な微笑みで出迎えた。

その手には、一枚の羊皮紙が握られている。


「これが、エリスお姉様の秘密……『裏帳簿』の写しですわ」

「な、なに!? まさか本当に……!」


ゲオルグが色めき立ち、羊皮紙に手を伸ばす。

その瞬間。


「今だ! ガッツ!」


ソフィアの合図と共に、床下が突き破られた。


「あンだとォオオオッ!!」


「ひいいいッ!?」


飛び出したガッツに驚愕し、ゲオルグが尻餅をつく。

護衛たちが剣を抜こうとするが、すでに背後にはヴォルフガングとクロが立っていた。


「動くな。……怪我をしたくなくばの」

「……」


一瞬で制圧完了。

ゲオルグは震えながら、ソフィアを見上げた。


「き、貴様……! 騙したな!?」

「人聞きが悪いですわね。迷子を保護して差し上げたのですわ」


ソフィアは羊皮紙――ただの落書き――を放り投げ、冷ややかに見下ろした。


「ようこそ、エデルシュタイン領へ。……これからたっぷりと『おもてなし(書類仕事)』をしていただきますわ」


ソフィアは悪魔的に微笑んだ。


「貴方の命令書で兵が動くとは思っていませんわ。……私たちが欲しいのは、もっと面白い書類……そう、『自白書』ですのよ?」


その立ち姿は、堂々たるものだった。

知略は低い。だが、その胆力と、大人たちを利用して目的を達成する強かさは、間違いなく「王の器」の片鱗だった。


敵将の確保、そして毒事件の真相解明へ。

それは、エリスの裏をかき、膠着状態を一気にひっくり返す最強の一手となった。

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