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凡人家老のステータス・マネジメント ~義理100の若殿と、野望99の天才たちを使い潰して覇王にする~  作者: LINYADA


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第23話:老将軍の眼力と、影の薄い少年



バルトハルト家との交渉決裂から数日。

私たちの領地は、見えない敵による攻撃に晒されていた。


「家老様! またです! 今度は倉庫の裏手が燃やされかけました!」

「井戸に変な粉が撒かれそうになったのを、農民が見つけて未遂に終わりましたが……犯人は逃げました!」


報告がひっきりなしに届く。

放火未遂、水質の汚染、荷馬車の車輪への細工。

一つ一つは小規模だが、確実に領民の不安を煽り、生産活動を停滞させる陰湿な嫌がらせ。


「くそっ、また逃げられた!」


ガッツが息を切らせて執務室に戻ってきた。

全身泥だらけだが、その大剣には血の一滴もついていない。


「あいつら、逃げ足だけは一丁前だ。俺が近づくとすぐに気配を消しやがる。……ネズミみてえにチョロチョロしやがって!」


ガッツが壁を殴りつける。

彼の武勇は最強だが、姿を見せない敵には無力だ。

私も何度も現場へ足を運び、目を皿のようにして犯人を探したが、成果はゼロだった。


「……私の目でも見つけられないとはな」


私は焦りを感じていた。

私には人の能力が数値で見える。もし工作員が紛れ込んでいるなら、何らかの兆候が数値に表れるはずだ。だが、領内を行き交う人々を見ても、そんな特出した数値を持つ者はいない。


「……ヴォルフガング殿」


私は部屋の隅で茶をすすっている老将軍に声をかけた。


「先日話していた『彼』ですが……本当に使えるのですか? 正直、今の状況を打開できるとは思えませんが」


私は視線を、部屋の入り口付近に向けた。

そこには、一人の少年が立っていた。

ボロボロの服を着た、痩せっぽちの少年。名はクロといったか。

先日、ヴォルフガングが「面白い拾い物をした」と言って連れてきた難民の子供だ。


私は改めて、少年の頭上の数値を確認する。


クロ

【統率:10 武勇:15 知略:20 政治:05】

【義理:40 野望:05】


(……低い)


どこからどう見ても、ただの雑魚だ。

農民としても戦力外になりそうな、貧弱なステータス。

私が関所の面接で「不採用(あるいは記憶に残らないその他大勢)」として処理したのも当然の数値だ。

こんな少年が、プロの工作員に対抗できるとは到底思えない。


「……アレン殿。お主は焦りすぎて目が曇っておるようじゃな」


ヴォルフガングが静かにカップを置いた。


「お主は確かに人を見る目がある。これまでもお主が選んだ連中は、どいつもこいつも一癖あるが『当たり』ばかりじゃったからの」


彼は片目を開き、私を諭すように言った。


「じゃが、少々『わかりやすい強さ』に囚われすぎておるようじゃな」


「……わかりやすい強さ、ですか」


「ああ。剣の腕が立つ、頭が切れる、声が大きい……。そういう『目立つ才能』ばかりを評価しておる」


ヴォルフガングは杖をついて立ち上がり、クロの方へ歩み寄った。


「だがな、戦場には『目立たぬこと』こそが最強の武器になる局面もある。……おいガッツ。お主、こやつが『いつから』そこにいたか気付いていたか?」


話を振られたガッツが、キョトンとした顔で少年を見た。


「ああん? こいつか? ……いや、俺が入ってきた時にはいなかったはずだぞ。いつの間に入ってきやがった?」

「違うな。お主がドカドカと入ってくる前から、こやつはずっとそこに立っておったよ」

「はあ!? 嘘つくな! 俺が気配を見落とすわけ……」


ガッツが言いかけて、絶句した。

彼の野生の勘が、遅まきながら警鐘を鳴らしたのだ。

『俺は本当に気づかなかったのか?』という戦慄。


ヴォルフガングはニヤリと笑った。


「そうじゃ。こやつは『影が薄い』。とてつもなくな。殺気も、気配も、存在感すらも希薄じゃ。……これは訓練で身につくものではない。天性の『隠密』じゃよ」


老人は少年の肩をポンと叩いた。


「名はクロ。配給の列に並んでいても、係の者に気づかれずに飛ばされることが何度もあったそうでな。腹を空かせて倒れていたところを、わしが拾った」


「……あ、あの……」


クロと呼ばれた少年が、蚊の鳴くような声で呟いた。


「僕、何か……悪いことしましたか……?」

「いいや。お主には才能があると言っておるんじゃ」


ヴォルフガングは私に向き直った。


「アレン殿。お主の目は『在るもの(強者)』を見つけるには最強じゃ。だが、『無いもの(気配)』を見つけるのは苦手と見える。……敵の工作員を捕まえるには、力自慢のガッツよりも、こういう手合いの方が役に立つとは思わんか?」


私はクロをまじまじと見つめた。

ステータスは低い。数値だけ見れば、ただの無力な少年だ。

だが、意識を逸らすとすぐに視界から消えてしまいそうな、不思議な存在感のなさ。

私の「鑑定」という絶対的な尺度ですら測れない、数値外の特殊な才能。


(……灯台下暗し、か)


私は自分の「目」への過信を恥じた。

すべてが見えている気になっていたが、数値に表れない才能を見落としていたのだ。

「準備」はとっくにできていた。私がそれを「戦力」だと認識できていなかっただけだ。


「……クロ君、だったね」


私は彼の前に歩み寄った。


「君に仕事を頼みたい。……誰にも気づかれずに、ある人物を『見て』きてほしいんだ」

「え……僕に、仕事……?」


クロが顔を上げる。その瞳には、自分が必要とされていることへの戸惑いと、微かな希望の光が宿っていた。


「ああ。君にしかできない仕事だ。……やってくれるか?」

「は、はい……! ご飯がもらえるなら、なんでもします……!」


交渉成立だ。

私はすぐに、次の作戦を組み立て始めた。


敵は姿を見せない。ならばこちらも「見えない目」を使って、敵の尻尾を掴む。

老将軍の眼力が見出した、数値10台の隠密少年。

彼が、膠着した戦況を動かす鍵となる。

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