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凡人家老のステータス・マネジメント ~義理100の若殿と、野望99の天才たちを使い潰して覇王にする~  作者: LINYADA


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第10話:森の奥の黒い宝石



ガッツによる「破壊的開墾」が始まってから数日。

北の荒れ地は驚くべき速度で平地へと変わりつつあった。その進捗に安堵した私は、次なるステップ――特産品探しへと着手することにした。


「……ねえ、アレン。本当にこんな所に『お宝』があるの?」


ミリアがドレスの裾を泥で汚しながら、不満たらたらに声を上げた。

私たちがいるのは、「魔の森」のさらに奥深く。太陽の光すら届かない、鬱蒼とした密林地帯だ。

先頭を歩くガッツの後ろには、案内役として、先日ガッツが開墾を手伝った村の老人――ゴル爺さんもついてきている。


「あるはずだ。……いや、あってくれなきゃ困る」


私は杖代わりの枝を突きながら、必死に周囲を見渡していた。

前世の知識によれば、こういう未開の地には、文明圏では知られていない有用植物が自生していることが多い。

そして私には、それを見分けるための最強の武器がある。


私の視界には、常に世界の情報が半透明のウインドウとして重なっている。

人物を見ればステータスが。そして、植物や鉱物を見れば――


【雑草】

【ただの石】

【毒キノコ(食べると死ぬ)】


このように、簡素だが「名称」と「特性」が表示されるのだ。

まさにゲーム画面そのもの。この能力があれば、毒見役なしで食材を探すこともできる。


「おい、アレン。なんか臭うぞ」


ガッツが、鼻をひくつかせて立ち止まった。

彼の手には、いつの間にか仕留めた巨大な猪がぶら下げられている。


「獣の臭いじゃねえ。……なんかこう、焦げ臭いような、甘いような変な臭いだ」

「焦げ臭い?」


私はガッツが示した方角へ目を凝らした。

そこには、赤い実をたわわにつけた低木が群生していた。

一見すると、どこにでもある野苺のようだ。


「ああ、あれか。あれは『赤苦あかにが』の実じゃよ」


ゴル爺さんが、興味なさそうに言った。


「食えんことはないが、種ばっかり大きくて果肉は少ないし、何より渋くて苦いんじゃ。鳥もあまり食わんよ。昔、飢饉の時に仕方なく煮て食ったが……不味かったのう」


現地の人間にとっては、ただの不味い雑草らしい。

だが、私の「目」には全く別の情報が表示されていた。


【名称:カッファの実】

【レア度:B】

【特性:強烈な覚醒作用、精力増強(微)、加工により芳醇な香りを発する】


「……カッファ?」


聞き慣れない名前だ。だが、その形状と「覚醒作用」「加工により香る」という特性。そして何より、実の中にある種子の形。

私の前世の記憶が、激しく警鐘を鳴らした。


(待てよ……これ、もしかして『コーヒー』か!?)


前世の私が、残業のお供として毎日浴びるように飲んでいた黒い液体。

この世界では見たことがなかったが、まさかこんな森の奥に自生していたとは。


「おい、食えんのかこれ?」


ガッツが無造作に赤い実を毟り取り、口に放り込もうとする。


「待てガッツ! そのまま食うな!」

「あぁ? なんだよケチくせえ」

「種だ! 重要なのは果肉じゃなくて、中にある種なんだ!」


私は慌てて駆け寄り、実をもぎ取った。

間違いない。この世界の人間は、この実の加工法を知らないだけだ。果肉を捨てて種を焙煎するなど、知識がなければ思いつくはずもない。

もしこれを飲み物として提供できれば……。

貴族たちが夜会で眠気覚ましに愛飲する、最高級の嗜好品になる可能性がある。


「……ミリア。これだ。これこそが、金貨300枚を倍にして返す『特産品』だ」

「はあ? ただの不味い木の実じゃない」


ミリアは疑わしげに赤い実をつまみ上げた。

ゴル爺さんも「領主様も物好きじゃのう」と首を傾げている。


「こんなのが売れるわけ? 甘くもないし、皮ばっかりで美味しくなさそうよ」

「加工次第だ。……騙されたと思って、これを手に入るだけ採取してくれ」


私は興奮を抑えきれずに指示を出した。

ロレンツォに見せた大言壮語が、現実になるかもしれない。

私の胃痛が、少しだけ期待の高鳴りに変わった瞬間だった。


領主館の厨房。

そこには、奇妙な香ばしい匂いが充満していた。


「……アレン。本当にこれを飲むの?」


レオナルト様が、カップに注がれた「黒い液体」を恐る恐る覗き込んでいる。

その隣では、ミリアとガッツも怪訝な顔をしている。


「毒じゃねえだろうな? 色がドブ水みてえだぞ」

「失礼な。これは『カッファ』……いや、『エデル・コーヒー』と名付けましょう。我が領地の名前を冠した、新たな秘薬です」


私はフライパンで黒くなるまで炒った種を砕き、お湯で抽出したばかりの湯気が立つカップを手に取った。

砂糖もミルクもない、純粋なブラックコーヒーだ。

私の「目」には毒性がないことは見えているが、主君に正体不明の液体を勧める以上、家老として毒味は必須だ。


「まずは私が毒味を」


私は皆が見守る中、カップに口をつけた。

熱い液体が口内に広がる。強烈な苦味、そして鼻に抜ける香ばしい香り。


(……これだ。この味だ)


前世の記憶が鮮明に蘇る。徹夜明けの朝、プロジェクト終了後の安堵感。それらと共にあった懐かしい味。

私は深く息を吐き出し、ゆっくりと味わってから飲み込んだ。


「……問題ありません。毒などではなく、素晴らしい芳香です」


私は新しいカップにコーヒーを注ぎ直し、レオナルト様に差し出した。


「さあ、レオナルト様。お試しください」


アレンが飲んで平気だったことで安心したのか、レオナルト様は覚悟を決めたように目をつぶり、カップに口をつけた。


「んっ……!?」


彼は一瞬顔をしかめ、それから驚いたように目を見開いた。


「に、苦い! ……でも、なんだろう。口の中に香りが残って……頭がスッキリするような……」

「ほう?」


興味を惹かれたミリアも、優雅な手つきで自分用のカップに口をつける。


「……あら。悪くないわね」


彼女は意外そうな声を上げた。


「最初は泥水かと思ったけど、この苦味……癖になるわ。甘いお菓子と一緒に飲んだら最高かも」

「だろ? 王都の貴族たちは、甘ったるい葡萄酒やハーブティーには飽きているはずだ。そこにこの『大人の苦味』と『覚醒効果』を売り込めば……」

「……流行るわね。爆発的に」


ミリアの目が、「金額」を弾き出す商人の目に変わった。


ミリア

【知略:65】

【政治:72】

【野望:40 → 45】


おっと、野望が上がった。

「これを使って一儲けしてやろう(あわよくば自分の懐に)」という計算が働いたらしい。


「ガッツ、お前はどうだ?」

「苦え! 不味え! 酒持ってこい!」


ガッツには不評だったようだ。まあ、予想通りだ。


「よし。商品としての価値はある。あとはこれをどうやって量産し、ブランド化するかだが……」


私が今後の展望を語ろうとした時、ミリアがカップを置き、冷徹な声で言った。


「アレン。これ、栽培はできるの?」

「……え?」

「森の奥に自生してるだけじゃ、数が知れてるわ。安定供給できなければ商売にならない。それに、あの森には魔物が出るのよ? 毎回ガッツを護衛につけて採りに行くの?」


痛いところを突かれた。

確かに、自生しているものを採るだけでは限界がある。北の開墾地で栽培できればベストだが、コーヒーの木が育つには数年かかる。

ロレンツォとの約束は「半年」だ。


「……栽培は長期的な目標だ。当面は、森での採取を組織化するしかない」

「誰がやるの? 農民たちは森を怖がって近づかないわよ」

「そこを何とかするのが、私の仕事だ」


私は強がって見せたが、内心では頭を抱えていた。

金脈は見つけた。だが、それを掘り出すためのツルハシ(人手と安全)が足りない。


「……おい、アレン」


ふと、ガッツが口を開いた。


「森の魔物が邪魔なんだろ? なら、俺が全滅させてくりゃいいんじゃねえか?」

「全滅って……森中の魔物をか?」

「ああ。最近、森の奥から変な気配がすんだよ。強いやつの気配がな。……そいつをシメれば、雑魚どもは散るんじゃねえか?」


ガッツはニヤリと笑い、腰の大剣を撫でた。

彼の野生の勘は、時として私の「目」以上に鋭い。


「……強い魔物、か」


もしそれが、森の生態系の頂点に立つ「ぬし」のような存在だとしたら。

それを討伐することで、森の安全圏を広げられるかもしれない。


「分かった。ガッツ、お前に任せる。……ただし、単独行動は禁止だ。私も行く」

「チッ、またかよ。足手まといなんだよなあ」


文句を言いながらも、ガッツは嬉しそうだ。

ようやくまともな「強敵」と戦える予感がしているのだろう。


金貨300枚の返済期限まで、あと5ヶ月と20日。

特産品「エデル・コーヒー」の実用化に向けた、次なる冒険が始まろうとしていた。

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