33.宮仕え
ルリットはその日、しばらく泣いていた。突然シノブと引き離され、粗末な部屋に押し込まれたのだ。
泣き続けるルリット。夕方に部屋に帰ってきた少女が声を掛けた。
「大丈夫だよ、すぐに慣れるから」
「なれる?」
ルリットの問に、少女は頷く。
「明日からここで働くんでしょ? 慣れれば良い所だよ。ご飯はあるし、寝るところもある。10年も働けば自由になれるんだから」
「10年……!」
ルリットは絶句した。そしてまた泣いた。困った様子の少女。周りの少女たちは「新入りなんて、こんなもんだよ」と気にもとめなかった。
「シノブお兄ちゃん……どこ……」
一晩泣くと多少はスッキリした。思えば、母親に置いて行かれた時もこんな感じだったように思われた。
「新入り! 井戸の水汲み!」
「そこの薪、運んで!」
ルリットは初日からよく働いた。昔、宿屋でマリーにこき使われていた時を思い出していた。
お昼休み、周りの女の子達はルリットの周りに集まる。
「アンタ、昨日はグズグズ泣いてたから駄目な子だと思ったのに! やるじゃん!」
「案外使えるね。まだちっこいけど、数年もしたらリーダーを任されるよ」
ルリットは食べたことのない異国のパンを口にしながら、照れ臭そうに笑った。
女の子達はペチャクチャと絶え間なく喋り続ける。ルリットは頷きながらそれを聞く。
「ここはね、ギュネシ王国っていうの。アンタ、昨日王さまを見たでしょう? あの人が一番偉い人!」
「見てない……足しか見えなかったから……」
ルリットが答える。
「顔を上げるなー、ってやつだー! 私の時もそうだった!」
「私も!」
キャッキャッと女の子達が笑った。
その日は一日中働き詰めだった。クタクタになって部屋に戻ったルリットは、自分のベッドに静かに腰掛けた。もう夜だ。窓からチカチカと星が見える。
「シノブお兄ちゃん……」
今頃何をしているのか。ルリットは心配でならなかった。
そして、寂しかった。昨日泣き切ってしまったのか、涙は出なかったが、寂しくて仕方がなかった。
部屋の中に女の子達の寝息。ルリットはまだ眠れない。ただ、ぼんやりと星を見つめていた。
◆◆◆
満点の星空。港には多くの兵士が集まっていた。
兵士達に囲まれているのは──セリオンである。両手をひらひらとさせて敵意がないことを示すが、全く効果なしだ。
「ノウス教団の者だな!」
「捕らえろ!」
セリオンの胸にバッチ。迂闊であった。この国は、王の方針でノウス教団を徹底的に排除する。
「俺はたまたまこの国に来ただけで……」
「黙れ! 異端者め!」
槍の尖先がセリオンに向けられる。セリオンはため息をついた。
「ルーザめ……面倒事を押し付けてくれたな……」
口の中で小さくごちる。ルーザはこの国には来たがらなかった。
しかし、ルリットを手に入れるのは教団にとっての宿願。誰かが追い掛けねばならない。
致し方なくセリオンが行く事になったのだ。
セリオンとて断るつもりだったが、ルーザの言葉に折れた。
『クラーケン退治で仲良くやってたらしいわね。……この件、教団に報告してもいいんだからね』
クラーケン退治での一件、教団の誰かに見られていたらしい。今のセリオンの立場は危うい。
「そのバッチ、言い逃れはできんぞ!」
「裁判にかけろ!」
兵士たちの怒号に、セリオンは焦った。
「いや、だから……敵意もないし、この国に悪さしようってワケじゃ──」
「捕らえろー!」
兵士達がセリオンに殺到する。セリオンは逃げ場もなく、拘束された。
星々は、相も変わらずキラキラと瞬いていた。




