32.献上船
船は進む。
シノブ達は船に漂う異様な空気を感じながらも航海を続けていた。
乗客は何故か少年少女ばかりで、後は管理者らしき大人が居るだけ。子供たちは幸せそうには見えず、皆どこか沈んでいた。
また、船の中には金銀財宝が積まれている。ただの旅客船ではないのは明らかだった。
「お母さん……お父さん……」
「行きたくないよう……」
夜、詰め込まれた部屋で子供達が泣くのをシノブは不思議に思った。ルリットもただならぬ空気を感じていたようで、シノブにベッタリである。
「シノブお兄ちゃん、このお船、変だよ」
数日ほど経っただろうか。甲板でルリットは海の向こうを見ながら言った。
「うむ……誰も拙者らの事を怪しまぬのも妙だ。船代も取られぬし……」
考え込むシノブ。突然、ルリットは目を見開いた。
「ねえ、シノブお兄ちゃん! あれ見て!」
目の前に陸地。大きな建物がそびえ立っている。アラビア風の街並みだ。
船はその街に着こうとしている。
船が陸地に近づいた時、誰かの声がした。港からである。
「献上船だ! 王様への献上品が来たぞー!」
シノブはそれを聞き、咄嗟に船を振り返った。沈んだ顔の少年少女。有り余る金銀財宝。全ては、王への献上品だったのだ。
そして、理解した。自分たちも“献上品”に含まれてしまっている事を。
船が港に入った。人々が行き交いながらも、船に釘付けになっている。ひそひそと声が聞こえる。
「今回はどんな珍品がまじってるんだろうねぇ」
「さすが我らが王様!」
「子供が多いな……どこから来たのやら」
シノブはルリットを抱き寄せた。
「ルリット殿。どんな事があっても、拙者から離れずに……!」
「う、うん……!」
ルリットは見慣れない異国の景色に不安を覚える。丸っきり文化の違う世界だ。
「積荷を降ろせ〜!」
ぞろぞろと降りていく少年少女に従い、シノブとルリットも船を降りた。降り注ぐ乾いた太陽の光。熱い砂漠の風。街の中央に見える大きな城。
シノブは目を凝らして城を見ようとしたが、蜃気楼でぐねぐねと揺れるばかりだった。
◆◆◆
王宮。薄暗い廊下。磨き上げられた大理石の床をぞろぞろと歩く集団。その中程にシノブとルリットはいた。
列の後半には金銀財宝が運ばれている。
「きれい……」
ルリットの呟きに、シノブは辺りを見回す。確かに美しい城だった。観光だったらどんなに良かっただろうか。
「止まれ!」
槍を持った兵士の号令に、皆がピタッと止まる。
「これより謁見である。王が命ずるまで顔を上げてはならぬ。よいな!」
シノブは頷いた。
「ルリット殿、王さまが良いと言うまで、下を見ておくのでござるよ」
「下? うん、分かった」
ギギギ……と重そうな扉が開く。シノブ達は下を見ながら歩く。
シノブはちらりと辺りを伺う。部屋の奥の方に、玉座のようなものと、それに座っているであろう人物の足が見えた。
「止まれ、その場に跪け!」
列が止まる。皆が思い思いにその場に座る。ルリットが座ったのを確認して、シノブも膝をついた。
兵士の声。
「マフムッド王に敬礼!」
ガシャン、と鎧の男たちも跪く。
──静粛。
シノブは視線を感じていた。上から降ってくる──いや、押さえ付けるような視線を。
「この度の献上品、なかなかの量じゃのう」
若い男の声だった。低い音が場に響く。
「じゃが……質はどうじゃ。金は良い。宝石も悪くない。──が」
王が──マフムッドが少年少女を見ている。そして、ふと。目を留めた。
「そこの男、顔を上げよ」
それはシノブを指していた。シノブはゆっくりと顔を上げた。
「ほう……これは……」
マフムッドは感嘆した。シノブの顔を見つめている。長い黒髪を足元まで伸ばし、浅黒い肌に金の目を光らせている。
「良いモノを持ってきたのう。……人の目を惹き付ける、そのように作られたかのような見目をしておる」
シノブは内心で頷く。ショーのために作られたロボットであるシノブの顔は、綿密に計算されて造形されたものだ。マフムッドはそれを見抜いた。
「貴様、人ではないな」
微かにざわつく謁見の間。マフムッドはシノブの顔を見ながら続ける。
「まあ良い。余は珍品を好む」
マフムッドは手を前に突き出し、兵士たちに命令する。
「そこの男は奥へ。後のものは宮仕えとせよ」
「よし、立て! そこの男以外はこっちだ!」
兵士の号令。ルリットが兵士に腕を掴まれた。シノブはルリットの空いている腕を掴む。
「待たれよ! 拙者とこの者を離されては困る!」
「黙れ! 王命だ!」
シノブとルリットを槍が遮った。シノブの手が離れる。
「シノブお兄ちゃん! いや! お兄ちゃん!」
「ルリット殿……!」
引きずられていくルリットを、シノブは呆然と眺めていた。




