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3.旅立ち

「ママ、ママ♪ ママに会える♪」

 ぴょんぴょんと飛び跳ねるルリットの横顔を朝日が照らしている。少し肌寒いが、爽やかな良い天気だった。花々が朝露に濡れている。


「ルリット殿、あまりはしゃぐと怪我をするでござるよ」

 困り顔のシノブだが、本当はそんなに困ってはいない。ルリットが喜んでいるのが嬉しかった。


 宿の扉が軋む音。眠そうな顔のマリーがあくびをしながら出てきた。ルリットに目をやって、

「せいぜい気をつけるんだよ」

とぶっきらぼうに励ました。ルリットは目をぱちくりさせながら、ウンウンと頷いた。


「じゃあね、おかみさん! またね!」

 ぶんぶんと手を振るルリット。シノブも控えめに手を振る。

「もう戻って来るんじゃないよ!」

 マリーはうんざりとした様子で手を振り返し、さっさと宿の中に戻ってしまった。


「さあ、ルリット殿!」


 シノブはルリットに手を差し伸べる。ルリットはぎゅっとその手を握った。


「行こう、シノブお兄ちゃん!」


 ルリットの青い瞳は澄んだ青空のように希望に満ち溢れ、彼方を見つめていた。


◆◆◆


 歩きだしてしばらくすると、二人の前に巨大な森が口を開けていた。太陽を遮るほどの木々が折り重なり、奥はまるで別世界のように薄暗い。


 シノブは懐に忍ばせたナイフに触れた。触覚センサーに冷たい感覚。ナイフはマリーから、護身用に手渡されたものだ。

 彼女によると、森は魔物だらけの危険地帯だという。


(魔物とはいったい……拙者に対処できるモノなのだろうか)

 シノブは聴覚センサーを最大レベルまで引き上げる。あちこちから何かの鳴き声や息遣いが聞こえた。


(ルミエールへ辿り着くには、この森を避けては通れぬ。ならば──行くしかない)


 一方、ルリットはまだ興奮気味であった。大好きな母親に会えると思っているのだから仕方ない。


「シノブお兄ちゃん、どんぐり! どんぐり落ちてるよー! お母さんにも見せてあげなきゃ!」


 ルリットは目をキラキラ輝かせている。まるで宝石を見つけたかのようにどんぐりを追いかけ、森の中に駆け出して行く。

 どんぐりばかりに注意がいっていて、まったく周りが見えていない。


「ルリット殿!」


 シノブは地面を蹴り、ルリットを追いかける。


「危険でござる! 戻ってくるのだ!」


 ルリットの足が木の根に引っかかりそうになる。すんでのところで転けずにすんだが、危なっかしくて見ていられない。

 シノブが手を伸ばそうとした、その瞬間。シノブの聴覚センサーが異常を検知した。


(急に周りの音が減った……?)


 鳥のさえずりが止んだ。無数の息遣いも、不自然な程に消えてなくなった。

 それは異様な静粛であった。


「……はっ、しまった!」


 聴覚センサーに集中してしまった一瞬。そのたった一瞬で、ルリットは森の奥へ消えてしまった。


「ルリット殿、ルリット殿!」

 

 シノブはあたりを見渡す。ひたすらに木々と草があるだけだ。聴覚センサーを研ぎ澄ませる。ルリットの足音は聞こえない。積み重なった木の葉に、足音が吸収されているのだ。


(まずい!)


「いったいどこに……!」


 シノブの電子頭脳にアラートが鳴り響く。そのせいで、かえって必要な音が聞こえない。情報の処理スピードが著しく下がっていく。視界に微かなノイズが交じる。


 森の不自然な静けさは、ますます増していく。まるで息を潜めた一つの生き物の中にいるようだ。その沈黙が、さらにシノブの機能を狂わせていく。


 その時だった。


「キャーー!」

 

 遠くから、ルリットの悲鳴が聞こえた。

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― 新着の感想 ―
シノブはござる口調がかわいい!ブレないところがカッコいい。 ロボットの能力には、いろいろあるんだと思った。ヒーローとしてのロボットとして作られたからこその正義感だったり、人を守る感情が強く現れるように…
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