26.お使い
ウィンドリの商店街。ルリットとシノブは手を握って歩く。
「オレンジ、レモン……ええっと……なんだっけ?」
シノブが手元のメモを見る。
「あとはオリーブとトマトでござるな」
メモの最後には達筆な文字で
『私は商店街の一番奥の青果店のものしか食べないよ。よろしく。 ガレオンより』
と書かれている。シノブはグシャッとメモを握りしめる。
そして、後ろに目線だけをやった。物陰からガレオンの気配。先程から尾行してきているのだ。シノブにはバレバレだが。
「あのガレオンとかいう男、何を考えているのかさっぱりでござる……」
「シノブお兄ちゃんはガレオンおじさまの事、嫌い? ルリットはちょっとだけ好きだよ」
シノブは少し迷って、首を横に振った。
「嫌いというか……あの系統の男が父親になると、だいたい子供に怪我をさせる。拙者の経験則だが」
そう、遊園地で働いていた頃にもいた。それも少なからず。
世の中には存在しているのだ、危なっかしい親というものが。
シノブの勘では、ガレオンは間違いなくそのタイプだった。あんな危険な男にルリットが懐くのは不安過ぎる。
随分歩き、商店街の端に辿り着いた。辺りは寂れている。
「あ、ここかな!」
ルリットは青果店を指差した。周りに比べ、妙に建物が真新しい。
「ルリット、リンゴがあったら食べたい! ダメ? シノブお兄ちゃん」
「構わぬが……。ひとりで食べ切れるでござるか?」
「食べられるもん!」
ルリットがグイグイ手を引っ張る。店に入った瞬間、周りの音が変わった。聞こえていたはずの海鳥の声が、プツリと途切れたのだ。
「いらっしゃい!」
店主がリンゴを数えながらシノブたちに声を掛けてきた。
「リンゴだ! ねえ、おじさん! ルリット、小さいのが欲しいの」
店主はリンゴを数えている。
「ルリット殿、まずはお使いの方が先でござるよ。まずはオレンジを……」
その時、ルリットの手がリンゴの1つにぶつかってしまった。リンゴは転がって地面に落ちた。
「あっ、ごめんなさい!」
「ルリット殿! ……すまない、店主殿。こちらは買い取ろう」
シノブが声を掛けても、店主は相変わらずリンゴを数えている。いや、よく見ると、同じリンゴを数え続けているのだ。
「お、おじさん?」
ルリットが恐る恐る声を掛ける。無反応だ。
その時、落ちたリンゴが重量に逆らうように転がった。そして、もとの位置に収まった。
「……は?」
重量を丸っきり無視したリンゴの動きに、シノブは素っ頓狂な声を上げた。ルリットはもとの位置に戻ったリンゴを見つめている。
「いらっしゃい!」
先程と全く同じ口振りで、店主が言った。ルリットは跳ねるようにシノブの側に駆け寄る。
異常だ、とシノブは思った。
「ガレオン殿! 居るのであろう!」
声を上げる。が、ガレオンは現れない。気配だけは確かにしている。
店主は変わらず同じリンゴを数え続ける。
そして、
「いらっしゃい!」
と繰り返す。よく見ると時計の針が行ったり来たりして、同じ範囲を繰り返している。
「シノブお兄ちゃん……?」
不安そうなルリットの頭を、シノブは優しく撫でた。
「ルリット殿、ここを離れれば良い話でござる。さ、行こうぞ。ガレオン殿にはそこら辺の店で買ったものを渡せばよかろう」
「う、うん……」
シノブはルリットの手を引いて、少し早足で歩いた。数歩歩いたとき、二人の目の前の空間が歪んだ。
「いらっしゃい!」
気づけば青果店の前にいる。リンゴを数える店主。
「シノブお兄ちゃん! おかしいよ!」
「こ、これは一体……!?」




