表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/26

21.船着き場の停滞

 果てが見えないほどの大きな河口。爽やかな風が吹き抜ける。雲一つない晴天だ。

 白い海鳥が気持ちよさそうに空を飛び回っている。


 大きな船着き場にはいくつもの船が停泊している。何百人も乗れるであろう船は、揃いも揃って帆を畳んでいた。

 そして、人、人、人。みんなウンザリした顔をしている。


 シノブはルリットとはぐれないように手を繋ぎ、水夫に話し掛けていた。

 水夫は慣れた口振りで言い放つ。


「船は出ねぇよ! クラーケンが出るから!」

「くらーけん?」

 ルリットが尋ねると、水夫は深いため息をついた。


「こ〜〜んなデッカイ、イカさ! まさに悪魔だよ、悪魔! 商売上がったりだぜ」

 水夫はぶつくさ言いながら去っていこうとする。その水夫に、また誰かが話しかけた。


「なあ君、船は出ないのか?」


 聞いたことのある声にシノブは息を呑んだ。水夫は遂に堪忍袋の緒が切れて「船は出ねぇよ! クラーケンが出るんだ!」と怒鳴っている。怒鳴られた人物は、やれやれと首を横に振る。


「セリオン……!」


 シノブは思わず構えた。ルリットがシノブの手を強く握る。

 二人の気配に気付いたセリオンが、フッと振り向いた。


「ほう……どうやら俺達は何かと巡り合う運命らしいね」


 ヒュ〜、と口笛を吹くセリオン。シノブは真剣な表情で後ずさる。セリオンは両手をひらひらと振って敵意がない素振りを見せた。


「こんな人混みのど真ん中で戦うわけないだろう? スマートじゃない。ルーザならともかくな」


 ルリットがグイグイとシノブの手を引く。

「い、行こう! シノブお兄ちゃん!」

 セリオンはそれを聞いてニヤッと笑った。

「こりゃ随分嫌われたもんだ」

 ルリットは怯えを隠さない。シノブはルリットに従い、人混みの中に紛れて消えようとした。


 セリオンは1歩踏み込んだ。

「まあ待ちなよ。船が出なくて困ってるのは一緒じゃないか。実はさ、俺も急ぎなんだよ」


 ざわざわと人々の声が船着き場に溢れている。シノブはセリオンに鋭い目線を向け続ける。


 セリオンは意味深に微笑んだ。

「一緒に倒そうじゃないか。クラーケン」


 シノブは数秒考えたが、やはり信頼できないと結論付けた。今までのセリオンの行動データに信頼できる要素など1ビットもない。


「お断りでござる」

「ならいつまでも向こう岸には行けないぞ? 何か目的があるんだろ?」

 知ったような態度に、シノブはカチンときた。

「今お主から情報を聞き出してもいいのでござるよ」

「言うねぇ、戦えないくせに」


 人々の地を這うような声。水に揺れる船が軋む音。その時、船着き場に大きな声が響いた。


「皆様の中に、クラーケンと戦える方はいらっしゃいませんか! 今から討伐の船を出します!」


 船着き場が一瞬ざわめき、そして水を打ったように静まり返った。


「行かせてもらおう」


 沈黙を破るように、セリオンが手を上げる。


「ああ、それと──」

 

 その手を降ろしてシノブを指差した。シノブは呆然と指の先を見つめる。


「そこの勇気ある少年も行くそうだ」


 瞬間、人々の目線がシノブに集まった。シノブはぶんぶんと首を振る。


「いやっ、拙者は……!」

 セリオンは畳み掛ける。

「そう謙遜するなよ。君はめっぽう腕が立つし、勇気も人一倍。な、シノブくん?」

 ねっとりと名前を呼ばれ、シノブは顔を引き攣らせた。

「こ、の……!」


 周囲の人々が沸いた。拍手をする者すら現れる。


「なんて勇気のある人たちなんだ!」

「どうかクラーケンを倒してくれ!」


 セリオンはシノブにウインクした。シノブは苦虫を噛み潰した様な顔で頭を抱える。

 ルリットは人々の異様な興奮に怯え、シノブの背に隠れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
セリオンがシノブをかまうところ好きです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ