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18.それでも

 中央広場。凄まじい喧騒である。鉄砲の音、何かが破壊される音。そして無尽蔵の金属音。


 それを建物の屋上で眺める人影が2つ。


「ここまでする必要、あったかい?」

 セリオンはぬるい雨に打たれながら、冷たい声で尋ねた。目線の先には赤い髪の女──ルーザが歪んだ笑みを浮かべていた。


「ふふふ、あははは! いい気味よ! 気分がいいったらないわ!」

 高笑いするルーザを横目に、セリオンを中央広場を観察する。


 カラクリ達はまだ直接的に人間を害そうとはしていない。しかし、一線を越えたとき、メカニケルの街は阿鼻叫喚の地獄と化すだろう。

 そして、その時は近い。


 ガシャン、ガシャン……。特徴的な足音に合わせるように、カラクリ達は足踏みする。


 雨の勢いが一層強まる。赤い光が騒いでいる。サイレンが鳴り響く。

 全てが渾然一体としていた。


「我々ハ マダ……!」


 どの個体が発したのかも分からない、悲鳴にも似た叫び声。

 その時、雲の切れ間に朧の月が覗いた。


 瞬間。ドサッ、とカラクリのうちの一体が崩れ落ちる。その周囲のカラクリも同じように膝をついた。


「あれは……」


 セリオンは目を凝らした。カラクリ達の隙間を縫うように、銀の光が閃いている。その光を追うように、赤い布切れがひらひらと舞っている。


 警報灯の光がその正体を照した。


 それは、刃を携えたシノブがたったひとり、カラクリの集団に飛び込んでいく姿だった。



◆◆◆


 ドサッ。

 カラクリがまた一体地面に転がった。絶え間なく積み重なっていく無機質な金属たち。


 シノブは無言でナイフを閃かせる。的確に急所を──コアを狙って破壊する。


 カラクリ達は正体不明の乱入者を足止めしようとする。

 ある者は不格好な手脚を伸ばし、またある者は飛び掛かって押し込もうとする。


 だが、全ては無意味だった。


 どんなカラクリもシノブに指1本として触れる事は叶わず、一体、また一体と地面に吸い込まれていく。


 シノブは真っ直ぐ、巨体のカラクリを見据えた。カラクリ達を躱し、掻き分け、斃して。

 ただひたすらに、そのカラクリに──カラクリ兵に辿り着こうと駆けた。


 警報灯がシノブの横顔を照らした。

 カラクリのうちの一体を足場に、シノブは高く跳んだ。


 巨体が振り返る。シノブを見つけ、少し停止した。

 シノブはカラクリ兵めがけて、全体重をかけて飛び込んだ。カラクリ兵は激しい衝撃とともに倒れた。

 その衝撃に他のカラクリ達は退き、シノブとカラクリ兵の周囲に空間ができた。


 倒れた巨体の上に降り立ったシノブは、カラクリ兵と向き合う。


「……カラクリ兵殿……もう終わりにしよう」


 諭すようなシノブの声が雨の音に交じる。カラクリ兵はギィギィと劣化した歯車の音だけを響かせてた。


「これ以上の事をして、一番傷付くのはカラクリ兵殿でござる」


 カラクリ兵は鈍い音を立てて立ち上がろうとする。


「人間ガ イケナイ……。 ワタシ ハ マダ……!」

 ノイズ混じりの声は、泣いているようにも聞こえた。


「それでも!」

 シノブは吼えた。赤いマフラーが風に舞い上がる。


「それでも、拙者たちは! 人を傷つけてはいけないのだ!」


 一瞬の静粛。ギィ……ギィ……、と歯車が鳴る。カラクリ兵は静かに立ち上がった。シノブは飛び退いて、対峙する。


「ワタシハ タダ……! ミンナ ノ 役ニ……!」


 カラクリは両腕を持ち上げた。派手な排気音とともに、熱風が発せられる。シノブの紺色の髪が激しく靡いた。


 警報灯に照らされた赤い雨が、2体に降り注ぐ。


「ワタシ ハ 守ル……! 街ヲ……ミンナ ヲ……守ル……!」


 カラクリ兵の歯車が激しく回り始める。関節の軋む音、舞い落ちる火花。

 シノブはナイフを構えた。


「守ル タメ……! ワタシ ハ 戦ウ……!」


 シノブの赤い目がカラクリ兵を映す。

 激しい雨がサイレンの音を掻き消していく。


「ならば拙者も、覚悟を示そう」


 シノブが地面を蹴る。カラクリ兵もまた、全身を震わせて踏み込んだ。


 雷鳴のような衝突音が、中央広場に響き渡った。

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― 新着の感想 ―
カラクリたちを倒していくシノブの心を考えるとつらすぎる
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