17.責任
サイレンの音は鳴り止まない。人々の悲鳴、カラクリ達の足音。
ベロニカは受信機を睨むように見つめている。震える手でダイヤルをガチャガチャ回している。が、そこに希望はない。
サイレン音に驚いて起きてきたルリットが、シノブの側でうずくまっていた。
シノブは遠目に受信機を確認し、少し屈んでルリットの肩を抱き寄せた。
「シノブお兄ちゃん、どうしたの?」
ルリットは不安そうにシノブの顔を覗き込む。シノブはその青い目を見つめるが、何も言えなかった。
受信機からビービーと不快な電子音が鳴り響く。ベロニカが頭を掻きむしって、崩れ落ちた。
「お願い……止まってよ……! 止まって……!」
ルリットはベロニカの様子に驚き、息を潜めた。
大音量の緊急放送が聞こえてくる。
『カラクリが中央広場に集まっています。中央広場には決して近づかないで下さい。繰り返します──』
シノブはすくっと立ち上がり、静かな目で外を見た。雨が警報灯で赤く染まっている。
「ベロニカ殿、拙者は──」
ベロニカはビクリと肩を震わせた。シノブは意を決した。
「破壊してでも、カラクリ兵殿を止めるべきだと思う」
振り返ったベロニカの頬を一筋の涙が伝った。そして、小さく息を吸い込んだ。何かを言おうとして、言えない。そんな様子だった。
「あなたが、それを言うの……?」
幼子のような震え声に、シノブは静かに頷いた。
シノブの心は凪いでいた。自分の中で何かが定まったような感覚だった。
「カラクリ兵殿は、人を傷付ける事など望んでおらぬ」
シノブはルリットの手を優しく握った。ルリットは反射的にその手を握り返した。
「愛する者を自ら傷付けるほど悲しい事はない」
シノブはベロニカに歩み寄る。ルリットはシノブの真剣な顔を見つめている。
「……私、怖いの」
ベロニカの目に涙が溢れた。
「カラクリ達は私たち人間に底なしの好意を向けてくれる。そういう風に作ったから」
シノブはただ静かに聞いている。
「でも、私たちは何を返してあげられるのか……。責任、なんて言って……結局は……!」
シノブは微笑んで首を横に振った。ベロニカは泣き崩れた。それは穏やかな赦しへの複雑な涙だった。
ドーン、と遠くで音がして、建物全体が揺れた。
ベロニカは立ち上がった。涙を拭う。
「お願い、シノブくん」
雨の勢いが少しだけ弱まった。街の喧騒が一瞬止んだ。
「あの子を止めて」




