16.暴走
「何事でござるか!」
シノブは子供達のただならぬ声を聞き、庭へ飛び出した。ルリットが見つめる先に、カラクリ兵の後ろ姿。
「あれは……カラクリ兵殿……?」
「シノブお兄ちゃん……カラクリ兵さんが……」
泣いていた子供が叫ぶ。
「カラクリ兵が、僕の事を叩こうとした!」
信じがたい言葉に、シノブはルリットを見た。ルリットは重々しく頷いた。
シノブは声を上げた子供に怪我がないか確かめる。子供はよほど怖かったのか、小さく震えている。
「叩こうとしたんだ! でも、叩かないで、どっか行っちゃった……」
シノブはカラクリ兵がいた方角を見たが、すでにその姿は消えていた。
シノブの後を追いかけるようにベロニカが出てくる。
「ベロニカ殿、カラクリ兵殿が……」
ベロニカは緊張した面持ちである。シノブはは言葉を選ぶように、ゆっくりと続ける。
「子供らに、手を上げかけた……と」
「そんな……ッ!」
ベロニカは手で顔を覆った。
午後の光は傾きかけ、夕日になろうとしていた。
◆◆◆
夜。ポツポツと雨が降りはじめた。
ベロニカは憔悴しきった様子で、電波受信機に向かっている。カラクリ兵からの電波を探し続けているのだ。
寝不足のせいもあり、目の下は真っ黒だ。
「カラクリ兵……どこへいったの……。お願いだから、返事をして……」
「ベロニカ殿、少し休まれた方が良いのではないか」
シノブの言葉に、ベロニカは押し黙った。
「休めないわ。ごめんなさい」
シノブはそれ以上何も言えなかった。
「コーヒーでも淹れてくるでござる」
「ありがとね、シノブくん」
ベロニカは弱々しく笑った。
その時、外からけたたましいサイレンの音が聞こえてきた。
『カラクリが暴走しています。市民の皆様は、決して屋外には出ず──』
シノブはベロニカを見た。ベロニカは受信機の反応を見て、愕然としていた。
「この反応は……カラクリ兵だけじゃない」
サイレンの音が鳴り響く。
「この街中のカラクリ達が、暴走してるわ」
◆◆◆
「人間ガ イケナイ! 廃棄ハ 嫌ダ!」
ガシャン、ガシャンと音をたてながら大通りを歩く巨体。カラクリ兵である。その体からは、何か低い電子音が断続的に放たれている。
その音を聞いたカラクリ達は、一瞬フリーズし、次々とカラクリ兵の周りに集まる。
金属の重い足音が大きなうねりのように街を包む。
「ワタシ ハ マダ 働ケル!」
カラクリ兵が拳を突き上げると、他のカラクリ達がざわざわと湧いた。
「止まれ! 動くな!」
カラクリ兵たちの行く手を阻むように、積まれた家具の壁が現れる。
武装した人間達が、バリケードの後ろに隠れた。その手には、マスケット銃が握られている。
「撃て!」
暗闇に激しく火花が散り、弾丸が放たれた。だが、カラクリ兵の体は弾丸を全て弾いてしまった。表面に少し凹みができたくらいで、ほとんど無傷である。
人間達は恐れをなした。
カラクリが手を振り上げて、人間の作ったバリケードを破壊する。バリバリ、と凄まじい音とともにバリケードは崩れ去る。
「逃げろーー!」
マスケット銃を取り落とし、逃げ惑う人間達。腰を抜かして動けなくなった男の前に、カラクリ兵が立ち塞がった。
カラクリ兵は腕を振り上げる。雨粒が鉄の体を伝って落ちた。
「人間ガ イケナイ……!」
ブン、と腕が振り下ろされた。
「ひぃ……!」
男は無事だった。カラクリ兵の腕は、男の眼前でピタリと止まって動かない。
男はなんとか立ち上がり、叫びながら逃げおおせた。
障壁を破り、カラクリ達の行進はますます規模を大きくしていく。
ガシャン、ガシャン。
カラクリ兵は列の先頭で、その特徴的な足音を響かせた。




