14.命の期限
ベロニカの研究所に滞在し始めて3日。ルリットと子供たちはすっかり仲良しになっていた。
庭の方からバタバタと足音がすると、ルリットは息を弾ませて玄関に駆け出した。
「ルリット〜! 遊ぼ〜!」
「うん! 今日は何して遊ぶ?」
シノブは忍者衣装を身に纏いながら、その声を聞いている。ベロニカはシノブの構造を、興奮しながら紙に書き出している。
続いて、ガシャガシャと金属音のような足音。あのカラクリ兵のものだ。パトロールの休憩時間にやって来ては、子供達と遊んでいる。
「カラクリ兵だ!」
「コンニチハ! 今日モ ミンナ ゲンキ!」
「カラクリ兵ー! こっちこっち!」
シノブは研究所の資料を眺める。様々なカラクリの設計図。人型のカラクリもあった。思えば、街でも沢山のカラクリとすれ違った。
(人間とロボットがともに暮らす街……まるで拙者の世界のようでござるな)
ふと、設計図の中にカラクリ兵のものを見つけた。
「耐久年数、10年……?」
シノブは思わず息を呑んだ。あのカラクリ兵は、確かに製造されて10年だと言っていた。
シノブの様子に気付いたベロニカは、ひどく寂しそうな声色で、
「あのカラクリ兵はまだ動けるけどね……」
と呟いた。
外からカラクリ兵と子供達の楽しそうな声が聞こえる。
(カラクリ兵殿は、もうすぐ……)
──廃棄。
その二文字がシノブの電子頭脳を掛け巡る。
あの悲しみを、悔しさを思い出す。トラックの荷台でうずくまっていた、みじめな自分。
そして、同じ運命にあるカラクリ兵。
「シノブくん、大丈夫?」
停止していたシノブに、ベロニカは心配そうに声を掛けた。
「その、拙者……少しスリープして情報を処理してくるでござる」
シノブは自身に与えられた部屋へ向かった。
その只ならぬ後ろ姿に、ベロニカは胸のざわめきを感じていた。
◆◆◆
シノブはベッドに腰掛けて目を閉じた。
窓から西日がさしこんでくる。庭で遊ぶ子どもたちの声。回る歯車の音。
「ああ……」
人間なら、泣くか震えるかしていただろう。ロボットであるシノブには、そんな機能はついていない。
(流す涙があれば、幾分か楽になれるのでござろうか)
廃棄される苦しみ。まだ動いていたい、働きたいという願い。
ロボットに神はいなくとも、思わず祈りたくなるような衝動。
頭を抱える。人工毛がふんわりと揺れた。
自身の手のひらを見つめる。
(今はルリット殿が拙者を必要としてくれている。だが──)
不要と言われる日が来たら、どうすれば良いのだろうか?
シノブは遠くに聞こえるルリットの笑い声を静かに聞いていた。
◆◆◆
研究所の庭。カラクリ兵は夕日を背に、大きく手を振った。
「ミンナ 帰リ道ハ 気ヲツケテ!」
「は〜い!」
「じゃあね!」
子供達は散り散りに帰っていく。ルリットも他の子に手を振った。
「ワタシモ 夜ノ パトロール ガ アリマス! バイバイ ルリット!」
ルリットは去っていくカラクリ兵に手を振る。
「バイバーイ、カラクリ兵さん!」
夜の帳が下りる。カラクリ兵は夜も騒がしい街を、特徴的な足音をたてながらパトロールする。
10年間、毎日続けてきた大切な仕事だ。
「こんばんは、カラクリ兵さん」
突然、カラクリ兵の前に女が現れた。女は
長い赤髪をふわりと揺らす。手には黒い箱を持っている。
「コンバンハ! ナニカ オ困リ デスカ? オ名前ハ?」
「ルーザよ。ええ、困っているの」
ルーザは目を細めた。
「この街が気に入らなくて」
ルーザは低く甘い声で囁く。その緑の目にはカラクリ兵が映っている。
カラクリ兵は少し停止して、
「メカニケル ハ イイトコロ! ルーザ モ キット スキ ニナリマス!」
と答えた。ルーザは鼻で笑った。
「カラクリ兵さん、もうすぐ捨てられるんですってね」
カラクリ兵は一瞬フリーズした。
「捨テラレル? ワタシハ マダ 働ケマス」
「人間はそんな事考えないわ。期限が切れたら捨てるだけ」
「……ワタシハ マダ……」
ルーザは黒い箱についている赤いボタンを押す。ジーー、と低い音。カラクリ兵の思考にノイズが交じる。
「人間がいけないのよ」
まるで同情しているかのような優しい声。カラクリ兵は思わず聞き入ってしまう。
電灯がチカチカと不規則に点滅する。
「人間ガ……?」
「あなたを捨てるなんて、酷いと思わない?」
「酷イ……デモ 人間ハ ナカマ」
「仲間を捨てるの? 簡単に?」
ルーザの髪が夜風に揺れる。
「ソレ……ハ……!」
バチン、と電灯が切れた。
「ワタシ、ハ……!」




