12.故障
晩春。蝶が飛ぶ野原の向こうに、煙突だらけの街が見えた。
シノブとルリットはルミエールを出て、とある街を目指していた。
「あれがメカニケルでござるか……。まるで街全体が工場でござるな」
「煙がいっぱい出てる!」
(あの街なら、拙者の肩パーツが見つかるやもしれぬ)
シノブはそっと自身の右肩を抑えた。
◆◆◆
遡ること数日。地下道から脱出した二人だったが、無傷とはいかなかった。
シノブの右肩パーツが、セリオンの蹴りでひび割れたのである。
だが、幸いな事に壊れたパーツはシンプルな作りのものだった。この世界の技術者でもギリギリ作ることができそうなくらいには。
そういうわけで、ルミエールで技術者に片っ端から声を掛けたのだが……。
「どう見てもアンタ人間だろ!」
「頭の病院にいけ!」
「家に帰って親を安心させてやりなさい」
等々、心配されたり罵倒されたりであった。当然である。シノブの見た目は完全に人間だ。
しかし、とある技術者がこう言った。
「カラクリを直すならメカニケルって街に行くといい。ま、アンタは人間だから必要ないがね」
そういうわけで、シノブ達はメカニケルを目指す事にした。
(本当はすぐにでもルリット殿の母君を追いかけたいが──)
だが、どこに連れて行かれたか手掛かりがない。ノウス教団の本拠地など、シノブは知らないのだ。
しかし、何もしなくてもルリットを狙う連中が向こうからやって来る。情報は接触してきた者から聞き出せばいい。
そして、ノウス教団に対抗するためには修理が必要だ。
◆◆◆
さて、メカニケルの街のゲートを潜ると、そこはカラクリだらけの空間だった。
モクモクと白い煙を出す煙突がいくつもそびえ立つ。空は煙のせいでどこか薄暗い。街のあちこちに電灯が光る。
シノブとルリットの前を小型の乗り物が通り過ぎた。大量の煙を吐き出して道を行く。
「けほっ、けほっ。すごい煙だね」
軽く咳をするルリット。シノブはその空気の悪さに顔を顰めた。
「住民の肺が心配でござるな……」
その時、二人の側に大きな鎧のようなものが寄ってきた。人型のカラクリである。鉄製で、ギィギィと歯車の音をたてている。
「メカニケル ヘ ヨウコソ! ワタシハ 街ノ パトロール ヲ スル カラクリ兵 デス」
話しかけて来たカラクリに、ルリットは目を丸くした。シノブにギュッと掴まって、影に隠れる。
「喋った! 喋ったよ、シノブお兄ちゃん!」
「はっはっは。拙者も同じようなものでござるよ、ルリット殿」
「違うよ! 全然違う!」
大きなカラクリ兵は小さな子供からすればインパクト大だ。
少し怖がっているルリットに、カラクリ兵は小さな白い花を手渡した。5枚の花弁がピンと張っている。
「くれるの……?」
「プレゼント デス! コワクナイ ヨ!」
ルリットはカラクリ兵の少し錆びた手から、恐る恐る花を受け取った。危険がない事を察したのか、安心したように笑う。
「ありがとう! カラクリ兵さん!」
一方、シノブは久々のロボット仲間にちょっと興奮していた。
「カラクリ兵殿は稼働何年目でござるか?」
ちなみに、人間で言うなら「今いくつですか?」くらいのニュアンスである。
「製造カラ 10年 デス」
「なるほど、拙者と同い年くらいでござるな!」
カラクリ兵は理解できなかったようで、少し動きを止めた。
「ソレハ ジョーク デスカ? 面白イ デス。ハハハ……」
カラクリ兵の明らかな愛想笑い。ギィギィと歯車が鳴る。シノブは苦笑した。
「ねえ、カラクリ兵さん! ルリットたち、ぎじゅつしゃ? を探してるの」
ルリットの言葉を補足するようにシノブが説明する。
「うむ。実は直してほしいカラクリがあってだな……まあ拙者の事なのだが」
カラクリ兵はシノブをじっと見て、
「ジョーク 面白イ ハハハ」
と機械的に答えた。
「とにかく、この街一番の技術者を探しているのでござる」
カラクリ兵は少し停止した後、街の真ん中を指差した。
「博士 ガ イチバン! ワタシ達ヲ 作ッタ ベロニカ博士! 案内 シマス」
ルリットはカラクリ兵と手を繋ぎ歩き出した。シノブは少々寂しく感じながらも、カラクリ兵の後を着いていった。




