1.期限切れロボット
「きゃー! 助けて!」
舞台の上。江戸の街風のセット。荒くれ者に捕まった、着物姿の町娘。
その時。カッ、とスポットライトが照らす人影。
紺色の癖っ毛。髪で片目を隠している。真っ赤な目、真っ赤なマフラー。快活そうな笑顔を浮かべる少年。15、6歳くらいだろうか。黒い忍者装束を身に纏っている。
「やあやあ我こそは、弱きを助け強きを挫く! 天下無双の忍者ヒーロー、シノブ!」
ポーズを取った少年──シノブは高く高く飛び上がり、くるくると回って荒くれ者のひとりに蹴りを入れる。
もちろん演技。これはショーだ。
観客席からは子どもたちの歓声。シノブはその声に応えるように、更に鮮やかな技の数々を披露する。
ひらりひらりと身を躱し、手裏剣を投擲。盛り上がる劇場。
このショーこそが、シノブの存在する理由。彼は遊園地で行われるショーの主役。
そして、今日の公演を最後に廃棄処分となるロボットだ。
◆◆◆
2XXX年。東京。真夜中の遊園地。閉園後も遊園地は忙しい。たくさんの従業員とロボット達が行き来している。
1体のロボットが、日本屋敷風の建物の側でポツンと立ち尽くしていた。シノブである。
「拙者の使用期限も今日まででござるか」
シノブは寂しそうに呟いた。全てのロボットには使用期限が設けられている。その使用期限を迎えたロボットは廃棄となり、分解、リサイクルされる事になっている。
粛々と進んでいく廃棄の手続き。廃棄ロボットを迎えに来たクリーンセンターのトラック。荷台に乗り込む直前、ショーの管理人がわざわざやって来た。
シノブの手を握って、
「お前が廃棄なんて、ワシは認めたくない。まだまだ現役で働けるはずなのに」
と呟く。管理人の涙声にシノブは首を横に振る。
「今まで世話になり申した」
シノブは精いっぱい朗らかに礼を述べた。
別れを惜しむ暇もなく、トラックは動き出す。ぐんぐん遠のいていく遊園地を、シノブはじっと見つめていた。
(ああ、拙者は廃棄になどなりたくない! もっともっと人々を喜ばせたいのに!)
シノブは暗いトラックの中で蹲り、キツく目を瞑った。もっと自慢の軽業で人々を笑顔にしたかった。まだまだ動ける。働ける。悲しい、悔しい。
(こんなにも苦しいのなら、感情なんてない方がマシでござるな……)
その時だった。グラッと荷台が揺れた。
ドン、と凄まじい衝撃。グシャっとトラックの荷台が歪む。クラクションがけたたましく鳴り響く。
シノブが乗っていたトラックが、別の大型トラックとぶつかったのだった。
シノブは思い切り吹き飛ばされ、トラックの内部に叩きつけられる。バランサーが狂ってふらふらした。
タイヤが焼ける匂いがする。電子頭脳のアラートが止まない。
(意識が……遠のく……)
次の瞬間、視界が真っ白に変わっていく。耳を突き抜けるようなクラクションの音も、次第に聞こえなくなった。
ふと、花の香りを嗅いだ気がした。




