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青の密室~リベリオンの譜~

作者: 雪代深波



鬱蒼とした校舎の片隅、普段は鍵がかかり埃を被っているはずの旧物置倉庫。その重く軋む扉が、本日ばかりは頻繁に開閉されていた。数日後に迫った文化祭。僕たちのクラスはデジタルアートを駆使した大掛かりな展示を企画しており、その目玉となる最新鋭のプロジェクターが、この物置に保管されていたのだ。

「頼むぞ、李稀。お前、こういう精密機器に強いだろ?」

担任の先生が、いつになく真剣な顔で僕に声をかけた。紺野李稀。成績優秀、眉目秀麗。そして、クラスのムードメーカー。そんな評価をされている僕は、正直なところ、こういう地味な作業は得意ではない。しかし、プロジェクターの最終調整は僕に任せるという先生の言葉に、反論する余地はなかった。

鍵を受け取り、物置の薄暗い内部へ足を踏み入れる。埃っぽい空気が鼻腔をくすぐり、湿ったカビの匂いが微かに漂う。僕は慣れない手つきで棚の奥を探り、プロジェクターが置かれていたはずの場所を確認した。

……はずだった。

「え……?」

そこには、何もなかった。

確かにあったはずの、クラスの命運を握るはずの最新型プロジェクターが、跡形もなく消えている。物置は施錠されており、鍵は先生が持っていた。僕が来るまで、誰も出入りしていないはずなのに。

絶句して立ち尽くす僕の足元に、何かが転がっているのが目に入った。それは、この物置にはそぐわない、奇妙な物体だった。拾い上げてみると、それは使い古された楽器のリード。しかも、カビがびっしりと生えている。クラリネットのものだろうか。

プロジェクターの消失。そして、このカビだらけのリード。

二つの事柄が、僕の頭の中で一つの奇妙な違和感となって結びついた。プロジェクターが消えたのはつい最近のことのはずなのに、このリードは、まるで長い間ここに放置されていたかのようにカビている。

「なぜ、こんなものがここに…?」

僕の探究心が、ざわめき出した。このリードが、単なる忘れ物ではないことを直感した。プロジェクター消失という現在の事件と、このカビの生えたリードが示す「時間軸のズレ」が、僕の知的好奇心を強く刺激したのだ。

クラスの誰かにこの異常な状況を告げる前に、僕は一度、冷静にこの物置を再調査する必要があると感じた。そして、カビの生えたリードの謎を追うように、僕は物置の隅々まで目を凝らし始めた。壁のわずかな隙間、床の軋み、棚の奥の暗がり……。

そして、僕の優れた観察眼は、物置の奥、積み上げられた段ボールの陰に、わずかな違和感を見つけた。そこには、壁の一部が不自然に盛り上がっており、まるでそこに何か隠された空間があるかのように見えた。

胸の高鳴りを感じながら、僕は慎重に段ボールを退けた。すると、そこには確かに、巧妙に隠された小さな扉があった。扉を開けると、そこにはひっそりと、しかし確かな存在感を放って置かれた、一通の古い手紙が。

僕は震える手で手紙を広げた。黄ばんだ紙に書かれていたのは、整った、しかしどこかひっそりとした筆跡だった。読み進めるうちに、僕の目は大きく見開かれた。手紙には、この物置が**「秘密の会合」**の場として使われていたことが記されていたのだ。しかも、それは単なる生徒の集まりではない。

手紙の書き手は、彼らの活動を「学校の改革」と呼んでいた。古く凝り固まった学校の慣習や理不尽な校則、あるいは隠された不透明な部分に反発し、学校をより良くするための秘密裏の活動を計画・実行していた、と。

プロジェクターの消失。カビの生えたクラリネットのリード。そして、この古い物置の隠された空間から見つかった、秘密結社の「学校改革」を記した手紙。

全てが、一本の線で繋がり始めた気がした。この事件は、単なる盗難ではない。この学校の過去に深く根差した、もっと大きな謎と繋がっている――。これは、単なる盗難ではない。秘密結社が目指した「学校改革」を、何者かが阻止しようとした結果なのだ。

李稀は、手紙をもう一度読み返した。「古い慣習に縛られ、生徒の声が届かないこの学校を変える」「形骸化したイベントに魂を取り戻す」。そんな熱い言葉の端々から、彼らの強い意志がひしひしと伝わってくる。

「彼らは、デジタルアートを使って何かを訴えようとしていたんじゃないか…?」

漠然とした疑問が、確信に変わっていく。本来、文化祭で最新鋭のプロジェクターを使って上映されるはずだったデジタルアート。もしそれが、秘密結社の「改革」に関するメッセージを込めたものだったとしたら? 学校の理不尽さや、過去の不透明さを暴くような内容だったとしたら?

その瞬間、李稀は肌で感じた。プロジェクターが消えたのは、その「発表」を妨害するためだったのだと。

誰が? 何のために?

李稀の推理は、犯人探しへとシフトし始めた。秘密結社の活動を快く思わない人物、あるいは集団がいる。彼らは、学校の現状維持を望む者たちか、あるいは改革によって不利益を被る者たちか。

古い物置の湿った空気の中で、李稀は静かに思考を巡らせる。手紙には、具体的な妨害者については書かれていない。しかし、秘密結社のメンバーたちの活動を「観察」していた人物がいたように、彼らを「阻止」しようとする存在も、また学校の中にいるはずだ。

プロジェクターは、単なる機材ではない。それは、秘密結社が学校に投げかけようとした、サイレントな**「反逆のメッセージ」**だったのかもしれない。そして、それを奪った者は、そのメッセージが世に出ることを恐れたのだ。

李稀の瞳に、新たな決意が宿る。彼は、この事件の裏に隠された真実を、必ず暴き出すと心に誓った。そのためには、まず、この「妨害者」が誰なのか、そして彼らがなぜそこまで改革を恐れるのかを突き止めなければならない。


文化祭まであとわずか。放課後の校舎は、ほとんどの生徒が帰り、静けさに包まれていた。紺野李稀は、誰もいない教室の机に古い手紙を広げ、その内容を再度、じっくりと分析していた。カビの生えたリード、隠された空間、そして「学校改革」を記した秘密結社の手紙。これらの断片的な情報から、プロジェクター消失の裏に潜む「妨害者」の影を追っていた。手紙の筆跡と書かれた内容から、一体誰が、何のために、この改革を阻もうとしたのか。彼の優れた頭脳は、いくつもの可能性を巡らせていた。

その時だった。

「探偵さん。その手紙、プロジェクターの件と関係あるんでしょ?」

静寂を破り、背後から突然かけられた声に、李稀はびくりと肩を震わせた。振り返ると、教室の入り口に、一人の女子生徒が静かに立っていた。向井悠夏(むかいゆな)。クラスメイトの彼女は、いつもはあまり目立たない存在だが、その眼差しには、李稀が知るクラスメイトとは異なる、どこか底知れない知性が宿っているように見えた。

李稀は驚きを隠せないまま、手紙を慌てて隠そうとした。まさか、誰かに見られているとは。しかも、ここまで核心を突かれるとは。

「なぜ、君がここに……、それに、何を言ってるんだ?」

平静を装う李稀の声は、わずかに上ずっていた。悠夏はそんな李稀の動揺を見透かすように、静かに、しかし有無を言わせない口調で続けた。

「私がいつも持ち歩いている推理小説にね、似たようなトリックが出てきたの。消えたもの、隠された場所、そして謎の手がかり……。そして何より、あなたの顔に書いてあったわ。『これはただの紛失じゃない』って」

彼女の言葉は、まるで李稀の思考を読み解くかのようだった。推理小説が好きな彼女の観察眼は、李稀が想像していた以上に鋭い。李稀は、自分の見当違いな態度を悟った。この相手に隠し事は通用しない。

悠夏は李稀の隣まで歩み寄り、机の上に広げられた手紙に目を向けた。

「見せてくれる? 案外、私にも協力できることがあるかもしれないわよ。推理小説で得た知識なら、少しはね」

その表情は、どこか楽しんでいるかのようにも見えた。李稀は、目の前の少女がただのクラスメイトではないことを悟った。そして、この事件に彼女を巻き込むことが、果たして良いことなのか、一瞬躊躇する。しかし、彼女の「探偵さん」という言葉と、まっすぐな眼差しは、李稀に抗う術を与えなかった。李稀は、悠夏が目の前にいることを確認し、深く息を吸い込んだ。プロジェクターが消えたこと。物置の隅にカビの生えたクラリネットのリードが落ちていたこと。そして、その違和感に導かれるように発見した隠し扉と、そこに隠されていた古い手紙のこと。

手紙の内容についても、彼は一切の隠し事をしなかった。秘密結社「リベリオン」が、学校の古い慣習や理不尽な校則、形骸化したイベントに反発し、「学校改革」を目指していたこと。そして、プロジェクターの消失は、彼らの活動を阻止しようとする「妨害者」の仕業だと、李稀が推測していることまで、包み隠さず話した。

悠夏は、李稀の話を一言一句聞き漏らすまいと、真剣な表情で耳を傾けていた。時折、彼女の瞳が鋭く光り、何かを深く考察している様子が見て取れる。それはまるで、彼女自身が推理小説の登場人物になったかのように、物語の核心に迫ろうとしているかのようだった。

李稀が話し終えると、悠夏はしばらく黙り込んだ。そして、静かに口を開いた。

「なるほどね……。面白いわ。まるで、ページをめくるごとに新たな謎が現れる、壮大な推理小説みたい」

彼女の言葉に、李稀は安堵と同時に、わずかな緊張感を覚えた。悠夏は、この事件を単なる学校のトラブルではなく、知的なゲームとして捉えている。それは、李稀にとって心強い反面、彼女をこの危険な謎の渦中に巻き込んでしまうことへの躊躇も生んだ。

しかし、悠夏の表情には、好奇心と探究心、そして何よりも「真実を知りたい」という強い意志が宿っていた。

「で? 探偵さん。次はどうするの? 私に何ができる?」

悠夏の問いかけは、二人の協力関係の始まりを告げる合図だった。李稀は、一人では解き明かせなかったであろう謎に、光が差し込むような予感を感じていた。


李稀と悠夏は、それぞれの得意分野を活かし、夜が更けるのも忘れて分析に没頭した。悠夏は手紙の文体を細かく解析し、李稀はリードのわずかな特徴も見逃さなかった。そして、二人の視点が交錯したとき、点と点が線になり、一本の太い真実の糸が姿を現した。まず、手紙から、秘密結社のメンバーを特定できる具体的なヒントが見つかった。

悠夏は、手紙の書き手が時折使う、ある独特な言い回しに注目した。それは、特定の部活動の生徒だけが使うような、あるいは当時流行していたアニメや漫画のセリフから引用されたような、隠れた符丁だった。さらに、手紙の隅には、非常に小さく、しかし意図的に書かれたような、あるイニシャルが記されていたのだ。それは、まるで書き手が、いつかこの手紙が発見されることを予期して残した、メッセージのようだった。

そして、カビのリードから、その持ち主の個人が特定できる決定的な痕跡が見つかった。

李稀は、リードのカビの状況と、物置の湿気具合を綿密に照らし合わせた。そして、リードの特定の場所に、肉眼ではほとんど見えないほどの、微細な傷跡があることに気づいた。その傷跡は、まるで誰かが不注意で落とした際に、特定の形の突起に当たってできたかのような、独特の形状をしていた。彼は、この傷跡が、リードの持ち主を特定する鍵になると直感した。

さらに、驚くべきことに、手紙とリードを結びつける、思いがけない共通点が浮上したのだ。

手紙に記されていたイニシャルと、リードの傷跡。李稀と悠夏は、それらを並べたとき、ある共通点に気づき、思わず息をのんだ。そのイニシャルが示唆する人物が、過去の吹奏楽部の名簿の中に存在し、しかも、その人物の持ち物を示すような、特定のデザインのアクセサリーが、当時、学校内で流行していたという、偶然の情報を李稀が以前耳にしていたのだ。そして、そのアクセサリーが、リードの傷跡の形と、驚くほど一致していた……。

「これって……!」

悠夏が、興奮を隠せない声で囁いた。李稀の顔にも、確信の光が灯る。二人の目の前には、ついに秘密結社のメンバーの一人が特定されようとしていた。そして、その人物が、今回のプロジェクター消失事件、ひいては学校の過去と現在を結びつける重要な鍵となる予感が、二人の胸に強く響いた。カビの生えたリードに残された微細な傷跡と、手紙に記された独特なイニシャル。その二つが示す奇妙な一致から、李稀と悠夏はついに秘密結社のメンバーの一人を特定する手がかりを掴んだ。過去の吹奏楽部の名簿を遡り、当時の生徒会の記録を当たれば、その人物の現在の情報までたどり着けるかもしれない。

二人は時間を惜しむように、各自の役割を分担した。


1. 特定された人物の情報収集


李稀は、持ち前の情報収集能力と、生徒会役員を務めていた経験を活かし、学校のアーカイブや、当時の学年主任だった先生、あるいはOB・OG会のような繋がりから、特定された人物の情報を集め始めた。彼が今どうしているのか、学校を卒業してからの足取りは? そして、現在の学校運営や文化祭に、何らかの形で関わっている可能性はないか? 李稀の頭脳は、あらゆる可能性を排除せず、冷静に事実を積み上げていく。


2. 直接接触の試み


悠夏は、特定された人物の情報を元に、直接接触を試みることを提案した。彼女は推理小説で培った大胆さと、相手の心理を読み解く洞察力を持っている。だが、慎重さも忘れない。もし相手が事件の真相を知る人物なら、不用意な接触は事態を悪化させる可能性もある。彼女は、相手に悟られないよう、しかし確実に、接触の機会を探る戦略を練るだろう。


3. 手紙と人物の背景からの推理


そして、二人は手に入れた新たな情報と、古い手紙の内容、そして特定された人物の背景を照らし合わせ、さらに深く推理を進めた。手紙に込められた「学校改革」の真の目的とは何だったのか? 特定された人物は、その改革にどのように関わっていたのか? なぜ、彼らの計画は阻まれ、デジタルアートのプロジェクターは消えることになったのか?

特に、カビの生えたリードは重要な鍵だ。もしそれが特定の人物のもので、長年物置に放置されていたとしたら、その人物が何らかの理由で学校を離れざるを得なかった、あるいは、秘密結社の活動が何らかの理由で途絶えてしまったことを示唆する。それが、今回のプロジェクター消失という「現在」の事件とどう繋がるのか。李稀と悠夏は、特定した人物の情報を元に、過去の学校新聞、古い生徒会記録、そして当時の教員たちの言動を丹念に洗い直した。悠夏は推理小説で培った心理分析の知識を、李稀は冷静な事実の積み重ねを武器に、隠蔽された過去の断片を繋ぎ合わせていく。

そして、ついに二人は、驚愕の事実にたどり着いた。

プロジェクターを奪った「妨害者」の正体。それは、現在、生徒たちからも信頼の厚い、ある教員だった。彼は、かつて秘密結社「リベリオン」の活動を知りながら、その改革の試みを巧妙に利用し、自身の権力を強化するために、ある過去の不正を隠蔽していたのだ。

プロジェクターが盗まれた直接的な動機は、文化祭で発表される予定だったデジタルアートの中に、秘密結社が残した**「ある真実」を暴くメッセージ**が隠されていたからだった。それは、かつての「リベリオン」が告発しようとしていた学校運営の不透明な部分、そしてその教員が過去に関わっていた不祥事を示唆する内容だったのだ。

カビの生えたクラリネットのリード。それは、その教員がかつて秘密結社と関わりがあった証であり、しかし彼が変節し、真実を隠蔽する側になったことを示す皮肉な手がかりでもあった。リードが物置に放置されていたのは、彼が「リベリオン」としての過去を捨て去り、その場所を封印しようとした何よりの証拠だったのだ。

真実を知った李稀と悠夏は、激しい怒りと共に、深い無力感に襲われた。彼らは、この真実をどう扱うべきか悩んだ。公にすれば、学校は大混乱に陥り、文化祭も中止になるかもしれない。しかし、このまま隠蔽されれば、秘密結社が命を懸けて守ろうとした「改革の譜」は、永遠に闇に葬られてしまう。

だが、二人の目は、諦めていなかった。李稀は、ムードメーカーとしてクラスをまとめ上げ、悠夏は推理小説で培った知恵を絞る。彼らは、盗まれたプロジェクターを取り戻すだけでは、真の意味での「改革」にはならないと理解していた。

「私たちは、あの秘密結社が果たせなかったことを、今こそ成し遂げるべきなんじゃないか」

李稀が呟いた。悠夏も静かに頷く。彼らは、デジタルアートの力を信じ、プロジェクターの代わりに、別の方法でその「メッセージ」を伝えることを決意した。それは、不正を暴くだけではなく、過去の「リベリオン」の思いを現代に繋ぎ、生徒たち自身が「学校のあり方」について考えるきっかけを作る、新たな「反逆の譜」だった。李稀と悠夏は、過去の学校新聞、古い生徒会記録、そして当時の教員たちの言動を丹念に洗い直し、驚愕の真実にたどり着いた。プロジェクターを奪った「妨害者」の正体。それは、現在、生徒たちからも信頼の厚い、生徒指導主任の竹中たけなか先生だった。彼はかつて、秘密結社「リベリオン」の活動を知りながら、その改革の理想を巧みに利用し、自身の隠蔽したい過去の不正(例えば、特定の生徒への不当な処分や、公金流用など)を覆い隠すために、生徒たちの運動を利用し、最終的には彼らを裏切っていたのだ。

カビの生えたクラリネットのリード。それは、若き日の竹中が、かつては「リベリオン」の思想に共感していた証であり、しかし真実を隠蔽する側に回った彼の変節を物語る、何よりの皮肉な手がかりだった。リードが物置に放置されていたのは、彼が「リベリオン」としての過去を捨て去り、その場所を封印しようとした動かぬ証拠だったのだ。

プロジェクターが盗まれた直接的な動機は、文化祭で発表される予定だったデジタルアートの中に、秘密結社が残した**「ある真実」を暴くメッセージ**が巧妙に隠されていたからだった。それは、竹中先生が過去に関わっていた不祥事、そして彼が生徒たちを裏切って作り上げた現在の「表向きの平和」を揺るがす内容だったのだ。

真実を知った李稀と悠夏は、激しい怒り、そして生徒を導くはずの大人への深い失望に震えた。しかし、彼らはここで諦めるわけにはいかなかった。リベリオンの譜を、ここで途絶えさせるわけにはいかない。

「どうして、ここまでできるんですか、先生!」

文化祭前夜、誰もいないデジタルアートの準備室で、李稀は竹中先生を追い詰め、全てを問い詰めた。悠夏も隣で、鋭い眼差しを向けている。竹中先生は一瞬動揺を見せたが、すぐに冷徹な笑みを浮かべた。

「君たちには、まだ理解できないだろう。学校を守るためには、時には汚れ仕事も必要だ。あのプロジェクターのデータが公開されれば、全てが台無しになる」

だが、李稀は怯まなかった。

「僕たちは、その『全て』の真実を知りたい。そして、隠された『リベリオンの譜』を、もう一度奏でたいんです!」

悠夏は静かに、しかし力強く続けた。

「真実を隠して作り上げた平和は、偽物です。私たちが本当に見たかったのは、もっと『青い』世界です」

李稀と悠夏は、盗まれたプロジェクターを取り戻すだけでは意味がないことを知っていた。彼らは、竹中先生が隠蔽しようとした真実を、そして「リベリオン」のメッセージを、デジタルアートの力を借りて、別の形で公にすることを決意した。

文化祭当日。メイン会場のスクリーンには、盗まれたプロジェクターの代わりに、クラスメイトたちが手持ちのタブレットやスマートフォンを使い、手動で連動させた、粗削りながらも情熱のこもった映像が映し出された。それは、鮮やかな青を基調とし、一見すると美しい抽象画に見えるデジタルアートだった。しかし、その映像の中には、竹中先生が隠蔽した過去の不正を暗示する特定のパターンや、カビの生えたリードの形を模した不気味なモチーフが、まるで暗号のように散りばめられていた。

そして、映像のクライマックスでは、画面中央に歪んだ文字で「REMEMBER REBELLION」という言葉が、一瞬だけ、しかし鮮烈に浮かび上がった。それは、かつての秘密結社が残した、魂の叫びだった。

会場の生徒たちは、一瞬、そのメッセージの意味を測りかねた。しかし、そのアートに込められた、言葉にならない「何か」を感じ取っていた。ざわめきが広がり、生徒たちの間に、これまでの文化祭にはなかった、ざわざわとした「疑問」と「考察」の波が生まれた。

その日以降、竹中先生の周りには、微かな、しかし確かな疑念の目が向けられるようになった。生徒たちの間で、あのデジタルアートの隠された意味について囁かれるようになる。直接的な告発はなかった。しかし、真実は、確かに彼らの心に「届いた」のだ。

李稀と悠夏は、文化祭の喧騒の中で、互いに顔を見合わせて頷いた。彼らが成し遂げたのは、プロジェクターを取り戻すことだけではない。過去の秘密結社が果たせなかった「改革の譜」を、現代に繋ぎ、生徒たち自身が「学校のあり方」について考えるきっかけを作ったのだ。

彼らの「青の密室」は、決して閉ざされたままではなかった。新たな「リベリオンの譜」が、今、この学校で、静かに、しかし力強く奏でられ始めたのだった。



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