表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/45

(閑話)国王の裏切り ※ジュスト

『ひきこもり殿下』


 王宮では、不名誉な名で呼ばれるザカリア様に仕える自分の名は、ジュストという。

 子供や犬と目が合うと泣かれ(鳴かれ)てしまう男で有名だ。

 ザカリア様の臣下であり、ザカリア様だけに忠誠心を持つ騎士である。


「護衛騎士にもなれるお前が、ひきこもり殿下の臣下とは、どうかしているぞ」

「そうだ。お前なら、国王陛下の護衛騎士になれる。推挙してやるよ」


 飲み友達の王宮騎士たちは、親切のつもりで言ったのだろうが、俺がザカリア様の命を受け、ここにいることを知らない。

 

「いや、結構。俺の主はザカリア様のみ」


 俺が王宮に滞在しているのは、遊びに来ているとでも思っているのだろうか。

 ひきこもり殿下と、馬鹿にするが、王の領地とザカリア様の領地を比較したことがあるかと、一度、彼らに問いかけてみたい。

 王の領地が栄えていないとは言わない。

 だが、昔のままなのだ。

 そこから、なんら変わりなく、人の出入りも一定だ。

 発展のない土地に未来はあるのか――


「ジュストは王弟殿下の世話係のまま終わる気か?」

「お前に王宮の連絡役を任せるような方だぞ?」


 ――世話係。

 

 確かにそうなのだが、ザカリア様の乳母の子として生まれた俺にとって、二つ下のザカリア様は弟のようなものだ。

 悪口を言われると腹が立つ。

 そのため、この後の稽古で剣を交えたなら、間違いなく二人をボコボコにしてしまうだろう。

 いや、しよう。(確定)


「任されるのは、信頼していただいている証拠だ。ザカリア様は守られているだけの陛下とは違う。だからこそ、俺が必要なのだ」


 国王陛下付きの護衛騎士である二人は、面白くないという顔をした。

 剣の腕で、俺に勝てないため、ザカリア様をネタにして、絡んでくるのはわかっていた。

 自分のことならまだ我慢できるのだが、家族同然と思っているザカリア様のことだけは我慢できない。

 

「では、剣の稽古をしよう(よし、叩き潰そう)」

「い、いや、俺は調子が悪くてさ。うっ! 昔の古傷が痛む!」

「俺は剣より、槍のほうが得意だし? ジュストは剣だろ? 武器が違うからな~」


 問答無用、言い訳無用、言うだけなら誰でもできる――二人が意識を失うまで、何度も地面に転がして剣の稽古をしてやった。


 ◇◇◇◇◇


 ――と、まあ、こんな俺だが、ザカリア様の代役で王宮にいるため、国王陛下と口を利くこともある。


「ザカリアはどうしている。相変わらず、領地にいるようだが?」


 国王陛下のルドヴィク様は、遠くを見る能力を持っている。

 だが、それは『見る』だけで、本当に本人かどうかまではわからない。

 例えば、石にそっくりなレプリカを作って、そこに置けば、ルドヴィク様は、疑いもせず『石』だと思う。

 育ちがいいためか、素直な性分だ。


「いつも変わりなく、領地にいらっしゃいます」

「そうか。それならいい」


 本心ではザカリア様のことなど、気にしていない。

 習慣のように尋ねるだけなのだ。

 けれど、セレーネ様は違った。


「ザカリア様に、ご挨拶をしたいのですが、いかがでしょう? 結婚式に出席していただけなくて、とても残念に思っておりますの」


 銀の髪に青い瞳、白い肌、柔らかな声――妖精のようだと評判だ。

 確かに噂通りの美貌であり、近寄りがたいものがある。


「お伝えしておきます」


 セレーネ様は微笑む。

 しかし、どこかお疲れの様子だった。

 こう言ってはなんだが、国王陛下は仕事熱心ではない。

 大臣やセレーネ様の助けによって、国王陛下として、なんとかやれているというのに、わかっているのだろうか。

 優秀で美しい王妃のおかげで、王家は評判を落とさずに済んでいる。

 国王陛下は午後の仕事より、お茶のほうが大事だ。


「セレーネ。そろそろお茶にしよう」

「ええ」


 セレーネ様は国王陛下の代わりに招待状や手紙を開封し、返事を書いている最中だ。

 

「これだけ書いたら、お茶にしますわ」

「セレーネのために珍しい菓子を取り寄せたというのに……」

「申し訳ありません」

 

 国王陛下は護衛騎士たちと同じような――面白くない顔をして部屋から出ていった。

 もしかすると、セレーネ様の優秀さにコンプレックスを持っているのかもしれない。

 不機嫌になった夫を困った顔で見送り、セレーネ様はため息をついた。


「セレーネ様。無理をなさらないほうがよろしいのでは?」


 そう助言すると、セレーネ様は恥ずかしそうに笑った。


「つい気を抜いてしまいましたわ。王妃としてあるまじきことでした。今のため息は、忘れてくださいね」


 厳しいお妃教育を受けてきたからか、自分が悪いのだと思ってしまうらしい。


「いえ。咎めたのではなく、ただ頑張り過ぎないようにと、申し上げたかったのです。セレーネ様は王妃になられて日も浅いでしょう。お疲れになるのは当然ですよ」

「……そんなふうに、ねぎらわれたのは初めてです」


 セレーネ様は一瞬だったが、表情を崩しかけた。

 けれど、すぐに持ち直し、微笑みを作る。


「だらしない姿をお見せしてしまいました。今後は気をつけます」


 責任感もあり、我慢強い方だと思う――しかし、陛下が面白くない顔をしていたことが気にかかる。

 セレーネ様の頑張りが、悪いほうへ向かなければいいのだが……


 その時は、気にしすぎかと思っていたが――この予感は的中することになる。


 ◇◇◇◇◇


 まだ、結婚して一年。

 今が一番楽しい時期のはずだ(妻子持ちの飲み友達談)。

 だが、国王陛下はセレーネ様と一緒にいることが少なくなった気がする。

 毎日忙しいセレーネ様は気にしていないようだが、俺は気になっていた。

 セレーネ様は、今日も一人で出かけた。

 そして、視察から戻ったなり、宮廷で大臣たちと話をし、次に貴族たちに挨拶、そして、ようやく今日初めての食事を摂られていた。

 お一人で遅い食事を召し上がっている姿も何度か目にした。


「大丈夫なのだろうか……」


 ――気になって仕方がない。 


「困った」


 今まで、王宮の出来事は、なにが起きても淡々と処理してきた。

 ザカリア様に報告するだけの任務であり、自分から関わる気は一切なかった。

 関わって、ザカリア様に迷惑をかけるようなことだけは、あってはならない。


「そもそも、なにかあってもザカリア様は王宮には絶対来ないだろう」


 俺はザカリア様の乳母の子だ。

 ザカリア様の話し相手として母に連れられて、王宮へやってきた。

 なぜ、平民の俺を、ザカリア様の話し相手にしたか、出会った時にすぐにわかった。

 王の子であるのに、話す相手がいないほど、孤独な環境に置かれていた。

 見かねた俺の母が、俺を話し相手にしたいと王に頼んだほどだ。

 昔を思い出しながら、庭を歩いていると、青い顔をしたセレーネ様が庭の円柱に手をつき、寄りかかっているのが見えた。


「セレーネ様!? 貧血ですか?」

「あ……。いえ、平気です。少したちくらみがしただけで」

「手をお貸しします。そこの長椅子に腰かけてはどうですか」

「ごめんなさい……」


 セレーネ様は椅子に座り、ホッとしたように息を吐く。


「ジュストには、みっともないところばかりお見せして恥ずかしいですわ」

「いえ。気にしておりません。見られたくないのであれば、自分がこちらで見張っておりますから、少しお休みになってから、お戻りください」


 やはり、具合が悪かったのか、セレーネ様は長椅子に座ったまま、動かなかった。

 穏やかな時間が流れ、気がつくと、セレーネ様はぼんやり空を眺めていた。


 ――本当は穏やかな暮らしを望む方なのではないだろうか。


「ジュスト。ザカリア様はどんな方なのかしら?」

「ザカリア様のことでしたら、噂を耳にしていらっしゃるのでは?」

「実際にお目にかかったわけではありませんから」


 ――懸命な方だ。

 けれど、ザカリア様に関することは言えない。

 『ひきこもり殿下』でなければならないのだ。

 優秀な王弟など、王にとっては邪魔なだけだ。

 それにザカリア様は、宮廷の権力争いに参加する気はない。

 いつものように『噂通りの方です』と、答えるつもりが、セレーネ様には言えなかった。

 ザカリア様に悪い印象を抱いて欲しくなかった――なぜか。


「噂ほど、不真面目な方ではありません」

「領地を繁栄させていらっしゃるから、本当は真面目な方なのではと思っていました」


 セレーネ様はわかっていたのだ。

 噂とあまりに違うから、俺に確認したのだろう。


「領地にうかがって、ご挨拶しようと考えているのですけれど。ザカリア様は、なにがお好きかしら?」

「ザカリア様は王宮からの贈り物を受け取りません。国王陛下ともお会いにならないでしょう」

「そうですか……。ルドヴィク様の弟様でいらっしゃいますし、せめて、ご挨拶だけでもと……」


 ――深く尋ねなかった。

 仲がいい兄弟でないことは有名だ。

 けれど。


「セレーネ様なら、ザカリア様の心を動かせるかもしれませんね」

「心を?」

「あ……いえ、今のは」

「そうですね。ルドヴィク様とザカリア様が無理でも、妻の私だけとでも、連絡をとることができたら、よろしいかもしれません」


 違う、そうじゃなく――いや、俺は今、なにを考えたのだろう。

 セレーネ様が、ザカリア様を救ってくれるのではないかと期待してしまった。

 孤独なザカリア様を。


「セレーネ様。まったくお休みになられていませんが」

「ジュストと話をして気が休まりました」


 セレーネ様は微笑み立ち上がる。

 その姿は堂々としていて、王妃らしい姿だった。

 

「あなたは立派な王妃だ」


 その背を見つめ、心から思っていた。

 だが――この数日後、国王陛下はセレーネ様を裏切ることになる。

 セレーネ様と妃の座を争った妃候補、デルフィーナを連れてきたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ