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第43話 ずっと待っていた

 私とザカリア様が結婚することを告げた。

 結婚を一番喜んだのは、ルチアノだった。


「ぼくねぇ、弟と妹が欲しい!」


 侍女たちと兵士たちは笑い、ジュストは慌てるザカリア様を見て、苦笑した。


「ザカリア様をお父様って、呼んでもいいってことだよね?」

「ああ」

「じゃ、じゃあ、お、お父様……」


 ルチアノは恥ずかしそうにザカリア様を『お父様』と呼んだ。


「ぼくね、ザカリア様のこと、ずっとお父様って呼びたかった」

「待たせて悪かった」

「ううん。ジュストから聞いてたからだいじょうぶ!」

「ジュストから?」


 じろりとザカリア様は、ジュストを睨んだ。


「いずれ、ザカリア様がお父様になってくださいますよと、言っただけですよ」

「お前は油断も隙もないな。なにを吹き込んでいるんだ」

「その通りになったじゃないですか」


 ジュストは周りから固める作戦だったのだろうか。

 けれど、ザカリア様の幸せを祈ってのことだったのは確かだ。 

 それをザカリア様もわかっているから、怒らなかった。


「ルチアノ様のお妃候補も選ばねばなりませんな!」

「即位式にあわせて、同じ年頃の令嬢を招待しましょう」

 

 大臣たちが集まり、相談を始めた。

 私が断ろうと口を開いたその時――


「自分の結婚相手は自分で選ぶよ。だから、お妃候補はいらない」


 ルチアノは驚く大臣たちに、天使のような微笑みを浮かべて言った。


「ザカリア様みたいに……お父様みたいに、自分で考えて大好きな人と、結婚したい!」


 王家の慣例うんぬんを大臣たちは説明しようとしても、ルチアノのキラキラした純真な目に負け、さすがの大臣たちも返答に困った様子で、額に浮かんだ汗をぬぐう。


「しかし……。ルチアノ様に見合った方がよいかと」

「王の妻は妃になるということですぞ?」


 大臣たちは、なんとかルチアノを説得しようと試みる。


「知ってるよ」


 そうでしょうね、という空気が流れた。


「妃となると、重責です」

「ルチアノ様には幼い時から、妃教育を授けた相手のほうがよろしいかと」


 ルチアノを言いくるめようとしている大臣たちを見て、やんわり(たしな)めた。


「ご心配なく。ルチアノなら、自分で素敵な相手を見つけられますわ。自分で考えられるよう育てましたから」


 私が味方にならないと知って、大臣たちは苦い表情を浮かべた。


「妃候補は大臣が選ぶとなっております。セレーネが様もそうやって、妃になられた」

「ええ。存じています。だからこそ、その慣習をやめましょうと言っているのです」

「そうだよ。ぼくは大臣たちが選んだ人なんて、ぜったい、いやだよ」


 きっぱりルチアノから断られ、大臣たちは口ごもった。

 今まで、王子から妃選びを断られた例はなかったのだろう。

 王宮の外で自由に育ち、自分で考える力を身に付けたルチアノ。

 ルチアノは、この国の新しい王としての姿を見せ、この国を治めていくだろう。

 そして――


「ロゼッテ様、お待ちください!」


 ジュストがロゼッテを追いかけ、『危ないですよ』を連呼していた。


「ロゼッテ。ジュストを困らせてはいけないわ」

「困らせてなんていません。私、ジュストに剣を教わっていますの」


 ロゼッテは誇らしげな顔をし、子供用の剣を手にしている。

 これはルチアノの影響だろうか……

 

「私、ジュストみたいな騎士になることに決めたの。女騎士よ! それで、将来はルチアノを守るの!」

「まあ、頼もしいわ」

「止めてください! セレーネ様! ロゼッテ様は王女なんですから、女騎士などと、とんでもないです!」


 ジュストとしては、ロゼッテを淑女(レディ)にしたいのだろうけど、ジュストに憧れているなら、騎士になりたい気持ちもわかる。

 思えば、デルフィーナも活発な少女だった。

 家に縛られることなく、お妃候補に選ばれなかったら、自分の好きなように生きれたはずだ。

 ロゼッテのように女騎士を目指していたかもしれない。


「ジュスト。これでよろしいのです。子供たちがやりたいと言っているのを止めて、可能性を摘むのはやめましょう」


 ほらねっと、ロゼッテはジュストに得意気な顔をしてみせた。


「でもね、ロゼッテ。だからといって、淑女のためのマナーをおろそかにしてはいけませんよ? 剣をやるのと同じくらい他のことも頑張るのよ?」

「はいっ!」


 剣の稽古を許されて嬉しかったのか、ロゼッテは元気な返事をした。

 ジュストは肩を落とし、ザカリア様に助け船を求めていた。


「ジュスト。剣を教えてやれ」

「いいですけど、領地に戻るまでですからね」

「はーい」

「ぼくも!」


 歴代で一番、賑やかな王宮になりそうだ。

 ロゼッテがルチアノに言う。


「あのね、ルチアノ。お父様とお母様に会う時、ついてきてほしいの」

「うん。いいよ」


 ロゼッテは心の傷のためか、一人で両親に会いに行くことが怖いようだった。

 離宮で静養しているルドヴィク様は、一命をとりとめたものの、体がうまく動かせなくなった。

 修道院にいるデルフィーナは、貧しい人々に食事を持っていったり、病気の人の世話をするなど、修道女として頑張っているそうだ。


「寂しくなったら、ロゼッテのお母様やお父様の姿をぼくが見て、伝えてあげるよ」

「ありがとう、ルチアノ」


 子供たち二人は、そんな会話をしていた。


「ルチアノは本当にしっかりした子に育ったな。後見人が必要か?」

()()()()()()必要ですわ」

「なるほど」


 後見人ではないあなたも――死ぬまで、お互いが必要です。


 そう心の中で私が言うと、ザカリア様が微笑み、手を取る。

 あの日、王宮から私を連れ出したのと、同じ手を私は再び握りしめた。

 今度は逃げるためではなく、共に歩むために。


 ――この手をずっと待っていた。


【了】 

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