第4話 奪われた妃の地位
「セ……様……セレーネ様? いかがされましたか?」
ジュストの声が聞こえ、我に返った。
「ごめんなさい……。少しうたた寝をしていたみたい」
「構いませんが、お休みになられるのでしたら下がります」
ジュストは、いつまで私の護衛でいてくれるだろう。
王妃でなくなったら、唯一の味方であるジュストもいなくなる。
いなくなる前に、ジュストへの感謝の気持ちを伝えておきたかった。
「ジュスト。私から人が離れていく中、私の護衛を務めてくれたこと、とても感謝しています」
「なぜ、そんな別れのような言葉をおっしゃるのですか……」
「ルドヴィク様は、デルフィーナを王妃にするでしょう」
「さすがにそれはないかと。一時的にデルフィーナ様に愛情が向いているだけではありませんか?」
「それなら、よろしいけれど……」
さきほどの夢が私の心を 苛んでいた。
そして、デルフィーナは心の声が聞こえるのをいいことに、私が『デルフィーナと子供の命を狙っている』と言いふらしている。
もちろん、そんなこと考えていない。
ルドヴィク様の愛情が、私の元から消えたことが悲しいだけ。
国王陛下でいらっしゃるルドヴィク様が、他の女性を望んだのなら、側妃として迎え入れることも王妃として覚悟していた。
でも、それは『王妃として』である。
まさか、王妃でなくなる可能性など、私に考えられただろうか。
ルドヴィク様とうまくいっていると信じていた私が……
「セレーネ様、陛下がお呼びです」
「ええ……」
嫌な予感がした。
まるで、さっきの夢の続きのよう――震える足に力を込め、なんとか立ち上がった。
部屋を出ると、兵士たちがいた。
私の部屋の入り口前に、見張りがいる。
護衛ではなく、デルフィーナのそばへ行かないように監視されているのだ。
まるで、罪人のように兵士たちに周りを囲まれ、ルドヴィク様の部屋へ案内される。
部屋からは楽しげな声が聞こえてきた。
「わたくし、ずっとルドヴィク様を慕っておりましたのよ。それなのにセレーネばかり、そばに置いて」
「仕方なかったのだ。周囲は優秀なセレーネを妃にしろと、うるさかったからな」
「セレーネのどこが優秀なんですの? 外見だけ、もてはやされた無能な王妃ですわ」
ここでも、無能と言われている。
私のなにがいけなかったというのだろう。
「新しいアクセサリーもドレスも自分で選べず、周囲に任せていたと、侍女たちが笑っておりました。古い物ばかりを好んで身に付けていたとか」
「そういえば、新調してはどうかと、セレーネに勧めても断られたな」
――それは違う。
ルドヴィク様に何度も説明していたのに、伝わっていなかったのだろうか。
歴代王妃に受け継がれる装飾品の数々。
それらは古いが、細工も宝石も素晴らしく、その装飾品を上回る腕のいい細工師がいない。
王妃が身に付けるものは、ただ新しければいいというものではなく、それ相応の品でなくてはいけない。
王妃としての威厳を持ちなさいと、お妃教育を受けた時に教えられたはずなのに、デルフィーナは忘れてしまっているようだ。
「庭園の花も変えていただきましたわ」
「セレーネは興味もなかった」
私と一緒に庭を歩いたことも、ルドヴィク様はお忘れになったのだろうか。
庭園は亡くなられた先代王妃が好まれたと、おっしゃっていた。
お母様との思い出の残る庭園だと聞いていたから、手を加えずにいたのに……
「やっときたか、セレーネ」
「……おまたせして申し訳ございません」
デルフィーナは青ざめた顔をした私を見て嗤う。
「陛下をお待たせするなんて、本当に無能な妃ね。王妃なら、陛下のそばに控えているものでしょう?」
――また、無能。
そう言いふらしているのは、デルフィーナだと気づいた。
――デルフィーナが悪口を言いふらすのは、王妃である私を貶め、恥をかかせたいからだわ。
「あら、わたくしが言いふらしたわけではなくてよ? セレーネったら、わたくしの悪口ばかり心の中で言っているわ」
「なんだと!」
心を読まれ、体が強張った。
「恐ろしい女ですわ……。ルドヴィク様、なんとかしてください」
「なんてことだ。早く話を済ませよう」
「ええ、気分が悪いわ……」
わざとらしく、デルフィーナはルドヴィク様に寄りかかる。
それを支えるルドヴィク様。
「セレーネ。お前は王妃として相応しくない。よって、王妃の地位を 剥奪する!」
――とうとう、この日が来てしまった。
私は王妃の地位をデルフィーナに奪われてしまった。