影法師の王子と隣国のピエロ王女のやり直し人生
「まるでピエロじゃないか」
隣国から来た令嬢は二昔前のスタイルのドレスを着ている。色白の彼女には合わないどぎつい黄色をしている。顔には色白をさらに白くした下地に乗せた色彩の濃いアイシャドウとチークでさらに毳毳しく見える。綺麗な髪の毛はきっちりしまい込んでいるかのように小さくまとめ上げられている。
アシュリー・ラングイール
隣国の王女だ。
今日隣国から王女がやってくると聞いてこの国の王子たちは着飾り、誰が来るのか楽しみにしていた。
誰の結婚相手になるだろうかと浮足立っていたのだ、1時間前までは――。
そして王城に到着した王女は白いベールをかけていた。ゆっくり歩いて王の間の中央までやってくると、王様の許可を得て白いベールをそっと取った。
「えっ⋯⋯」
「あぁ⋯⋯」
「うっ⋯⋯」
王子たちは極めて声を出さないようにしたが、何人かは声を漏らしてしまった。声が漏れてしまったのを咳払いしたり、別の方向を見てやり過ごしている。
王様は彼女の姿を見て表情は変えなかったが、自国の王子たちを交互に見ている。少し鼻から吸った息に肩を上げると、ふうと息を吐いている姿は少しため息をついているように見えた。
ここにいる王子の誰もがこう思っているだろう。
はずれくじ―。
すると、王様の目に留まりたくない。その思いから王様に一番近い王子からゆっくりと後ろに引き始めたのだ。
それを見た他の王子たちもそろそろと後ろに後退し始めた。
“これだけは選ばれたくない”
そう言っているかのようだった。
王の間は静かではあったが、その王子たちの壮絶な戦いが起きていたのである。
アシュリーは気にする様子も無いように、背筋をピンとして立っている。ピエロのような様相とは裏腹に毅然とした立ち居振る舞いだ。
王子たちが気づかれないように後退を続けると一番奥にいた王子の姿が見えるようになった。
黒い髪を長くして顔にかかっている。眼鏡をしているので、やっと顔がこちらそばだと分かるほど前髪が顔を覆い尽くしている。
イグノス・ノースフォール
影法師と他の王子から呼ばれていた。
声は小さく冴えない、いるのかいないのか分からない王子。舞踏会に形だけ呼ばれて参加しては、背景の一部となるだけだった。誰も声をかけることはない。
王様の目がようやく動いた。視線の先にイグノスを捕らえると、少し間があった。イグノスを見て、かすかに王様の目に光が差し込んだように見えた。
そして審判の時が訪れる。
「イグ⋯⋯イグノス。そなたはどうじゃ?」
イグノスと呼ばれた王子は、大きく身体を上下させると口をもごもごと動かした。
この時ばかりは、他の王子もイグノスの言葉を漏らさんとばかりに耳をすましている。
「い⋯⋯はい、良いと⋯⋯思います」
王様は目を大きくさせて、イグノスの聞き取りにくい言葉がどのような返事であるかを理解しようとしている。そして返事が何であるのか分かると、身体を大きく脱力させて笑顔になった。
「おお、良いのか! それは良かった!」
それを聞いた他の王子たちも王様同様にイグノスに見せたこともないほど、相好を崩してイグノスを見ている。
イグノスはたどたどしい足取りでアシュリーの元へやってくると2人は見つめ合った。
イグノスはアシュリーの瞳を見つめながら脳裏にあることを思い出していた――。
――――――――
イグノス・ノースフォールを知らない国民はいない。このノースフォール王国の王子である彼は幼少の頃からその才能をめきめきとのばし、早くから王室の中でも頭角を現していた。
学園では首席以外に取ったことはなく、研究者と語り合うほど勉学に精通していた。
イグノスが学習した科目の中には参謀を目指す者が選択する戦略などを学ぶ兵法学がある。在学中に編み出した戦法を他国との戦いに使い戦争を終わらせたい、そう思った王子は自ら立ち上がった。
それを見た王立軍は早速熱心な勧誘を始めた。王様はイグノスを大変に可愛がっていたので反対をしていた。イグノスは国のために是非従事したいと立候補したのだ。
その熱意に王様は押された。
そして王様は泣く泣く、それを承諾すると20年もの間続いている他国との戦地へ王子を送り出した。
イグノスは人柄も良く他の貴族からも支持者が多かった。そんな貴族たちも戦地へ行くと言ったイグノスを見送ろうと王都はどんな大将軍が戦地へ行くよりも盛大にイグノスを見送った。
そんなイグノスは王立軍と摩擦が起こるのではないか、王子が戦地という過酷な環境で身体を壊すのではないか。そんな心配は微塵もなかった。イグノスは自ら雑用を行いたいと申し出て将軍に止められたが毎朝、馬の世話や料理を作った。
同年代にはどうかと言うと、戦地へ向かう途中の暇な夜によく開催している腕相撲大会にイグノスは必ず参加していた。イグノスは力も強かったのである。
誰が勝つのかと言った話には必ずイグノスが出てくるほど、同年代にも人気があった。
そして戦地へ到着すると、イグノスは先陣をきると申し出ると軍の誰もが反対した。
この国には王子が必要である、と。
イグノスは熱心に自分の役目を皆に説いた。
自分はこの戦争を終わりにして皆が笑い合える平和を勝ち取るために来た。ここで何もしないで帰るなら、ここにいる皆だけではなく王様や自国の民に顔向けが出来ない。
それを聞いた屈強な軍の男たちは涙した。そして固い握手を交わし、涙ながらに先陣へと送り出したのだ。
イグノスの活躍により、20年も続いた戦争はようやく終わった。それどころかノースフォールにかなり有利な条件で終戦の締結が行われた。
王族、貴族、自国の民は王立軍の凱旋を待っていた。
皆、イグノスを待っていたのだ。
イグノスが王都へ戻ってくると、今までも令嬢からは熱い人気があったが、さらに過熱していた。
イグノスが戻ってきた年から王都の舞踏会の華やかさに磨きがかかっていた。どの令嬢もイグノスの目に少しでも留まりたい一心で大金を支払い一流の服飾師を囲う。流行のドレスに眩いほど宝石のついた髪飾りをつけていた。
それでもイグノスは誰にもなびかない。
その様子に他の貴族の子息たちはイグノスを評価していた。
ある舞踏会では美男子で有名な公爵家である大将軍の息子であるグレン騎士の正装でやってくると、イグノス個人に忠誠を誓いたいと言ってきた。
グレンは顔の良さだけではなく、頭も良く評判も良かったので、公爵家の次期当主と噂されていた。
それを狙った令嬢も多かったのだ。
だが、その公爵家の次期当主の座を蹴ってまで、イグノスに仕えると言っているのだ。
普通であれば令嬢たちは幻滅する。公爵と王族の騎士であれば、公爵の方が人気が高い。
そう舞踏会にいる多くの子息が思ってたが、イグノスが忠誠の誓いを受けると多くの令嬢がグレンとイグノスに長い列をなしてダンスの申し込みをした。
この日グレンは人生で1番多くの令嬢とダンスを踊り、それでもダンスが出来なかった令嬢から山のように手紙が来たほどだ。
イグノスにはこんな招待状が届く。たくさんの国が集まる国際交流パーティー。これには王族も貴族もイグノス以上の人間はいないと誰もが話した。
イグノスは二つ返事で参加を決めると馬車で国際交流パーティーへと向かった。
この国際交流パーティーには隣国からも参加するようだった。道中で隣国の王族の紋章が描かれた馬車を何度も見ていた。
(あの馬車には誰が乗っているのだろうか?)
隣国の馬車の中には金髪の艷やかな髪にダイヤモンドや様々な宝石がついた豪華な髪飾りをしている彼女もまた外を眺めていた。
アシュリー・ラングイール
隣国の王女だ。
アシュリーは生まれた時から天使だと言われてきた。歴代を見ても目を見張るほど見目麗しい。深みのある金色の髪は国宝のよう。赤い瞳は最高級であるピジョンブラッドの質のルビーのようだ。綺麗な形の鼻に、魅力的な唇。もはや芸術作品だった。
その見た目もあって、王様と王妃から大変気に入られており王族の中でも1番良い待遇を受けていた。だが、綺麗の度を通り越すと嫉妬さえも無くなるもので、他の王子や王女の誰からも嫌がらせはなかった。
それどころか繊細なガラス細工のように、大切に扱われてきた。
幼少の頃からアシュリーは聡明だった。それに慈悲深いところがある。
王室庭園で傷ついた鳥がいた時は自分の部屋まで連れて帰り、看病をしたいと頑として譲らなかった。
アシュリーはドレスも宝石も流行にも興味がないようで「自分に似合えば何でも良い」と常々言っていた。それを聞いた王室の服飾師は腕の見せどころだと言わんばかりに、王妃に豪華絢爛のドレスやアクセサリーを提案すると、その全てを作らせた。
アシュリーは周りが中等部の学園に行き始める歳になると、アシュリーも学園に行きたいと言い始めた。
王様や王妃は学園で何かあったらと心配していたが、アシュリーの熱意に押されて首を縦に振った。
アシュリーが学園に通い始めると、同じ学園に通う貴族の子息や令嬢たちは遠巻きにうっとりしながらため息をついていた。
もはや動く芸術作品だったのだ。
アシュリーは誰からも声を掛けてもらえないので、同じ教室の席の近い令嬢に声を掛けると、その令嬢は緊張のあまり上手く話せなかった。
アシュリーは「気にすることはないわ」と言ったが、次の日庭園で行われていたお茶会で目を疑った。
その令嬢が別の令嬢に声を荒げながら責められていた。
「何であんたなんかが、神々しいアシュリー様に声を掛けられているのよ」
そう言いながら、お茶をその令嬢に頭からかけていた。
それを見たアシュリーはお茶会に乱入した。アシュリーの姿を見た令嬢たちから黄色い声や叫び声が聞こえる。
アシュリーはお茶をかけられた令嬢の横に来ると自分の肩にかけていたショールでその令嬢の頭を拭き始めた。
その令嬢は肩をすくめながら「アシュリー様、申し訳ございません。私なんかのためにショールを使っていただいて⋯⋯」と消え入りそうに言った。
アシュリーはその令嬢に顔を近づけると、「あなたのドレスはお茶で汚れているわ。私のドレスを着なさい。私はこの後すぐに帰りますので汚れていても平気です」と凛とした声で言った。
それにはその令嬢は口をもごもごさせて何かをいいかけたが「アシュリー様の慈悲深いお言葉痛み入ります⋯⋯お気持ちだけお受けいたします⋯⋯誠にありがとうございます⋯⋯」と今にも泣きそうな顔をしている。
それを見たアシュリーは他の令嬢の方へ向き直り大声で言った。
「私と関わった人に嫌がらせをすることは今後一切どなたでも許しません!」
そう言うと、辺りは静まり返った。令嬢たちはアシュリーを見続けたままだ。アシュリーはその令嬢たちを1人ずつ見ると少し微笑んで「それから⋯⋯これからは私にもっとお声を掛けて下さいませんか? これは私からのお願いです。もっと皆様とお話したいですわ」と付け加えた。
それを聞いた令嬢たちは我先に元気の良い返事を返し始めた。
そんな出来事もあってか学園では熱狂的なファンが多かった。
その学園に通う貴族の子息と令嬢たちによってその親や従者に瞬く間にアシュリーの話は広がっていくのだった。
それから学園を卒業する際に、彼女は貧しい人に役に立てる事をやりたいと言ってまわった。王族と貴族もリップサービスだと思い、誰も取り合わなかった。この時ばかりはアシュリーも口を尖らせて肩を落とした。
その様子を見て慌てた王様と王妃は気分転換になるだろうと、届いたばかりの招待状をアシュリーに渡した。
「国際交流パーティー?」
アシュリーは自分のやりたいことが実現するかもしれないと思い、首を縦に振った。
アシュリーの従者はすぐさまパーティーに向けてドレスやアクセサリーを準備し始めた。それを見てアシュリーは止めさせた。それでも話は終わらない。
アシュリーはこの時初めて王様と王妃に泣きながら直談判した。
「私は手持ちのドレスとアクセサリーで行きたいのです。もう贅沢はしたくありません」
それを聞いた王様と王妃は目を丸くした。その後アシュリーは持っている宝石でアクセサリーを組み替えて、残りの宝石を全部ドレスに付けることでなんとか話がついた。
その話は侍女や従者を通じて国民の耳へとたどり着き、贅沢をしない素晴らしい王女だとひっきりなしに噂になった。
そんなことがあったのでアシュリーは国際交流パーティーへの馬車の中でため息をついていた。
「どなたか私の話を聞いてくださる方がいらっしゃるといいわ」
そう呟いていると、馬車の窓の外に馬車が通り過ぎた。それは隣国のノースフォールの紋章がついている。
アシュリーはパーティー会場までの間、幾度も目にすることになった。
パーティー会場が見えてくると、問題が起きた。あともう少しと言うところで馬車の車輪の車軸部分が上手く動かなくなった。
馬車はぎいぎいと変な音を立てて止まった。アシュリーは外を眺めたままだった。馬車の扉が開き、青ざめた従者が馬車が動かなくなったことを伝えに来た。
それを聞いてアシュリーは腰を浮かせた。この距離なら歩いていける。アシュリーはここから会場まで歩いて行こうと馬車を降りた。
後ろから従者が慌てて止めようとしている。すると少し前を走っていた馬車が止まった。アシュリーはそれを見ながら歩いて行く。それは隣国ノースフォールの紋章が付いた馬車だった。
前の馬車の扉が開き人が降りてきた。
イグノスは馬車から降りて歩き始めた令嬢を見て慌てて馬車から出て来た。奥の馬車に視線を向けると隣国ラングイールの紋章が入っている。
(何か問題が起きたのか?)
イグノスは令嬢の目の前まで行くと挨拶をした。
「私はノースフォールのイグノスと申します」
「私はラングイールのアシュリーと申しますわ」
「あの、失礼ですが馬車に問題でも起きましたか? 失礼でなければこちらの馬車に乗って行きませんか?」
イグノスはアシュリーを見た。綺麗な赤色の瞳だった。アシュリーは奥の屋敷をちらりと見ると、視線をイグノスへ戻してお辞儀をした。
「申し訳ありませんが、ご厚意に甘えさせて下さい」
イグノスはアシュリーを自分の馬車に乗せると出発した。ラングイールは保守的な国であまり交流がない。これを機会に少しでも知ることが出来たらいいなと思いアシュリーに質問し始めた。
イグノスにラングイール国の事を聞かれると口元を大きく緩めた。アシュリーもまたイグノスにノースフォールについて聞いた。2人はお互いの国の事を話していると、話の途中で屋敷についてしまった。
イグノスは肩を落とした。
(話がちょうど盛り上がっていたのにな)
イグノスがアシュリーを見ると、彼女は口を尖らせて残念そうな様子だった。
それを見たイグノスは自分と同じ気持ちだったのかと分かり声を上げて笑った。
「話し足りないな⋯⋯ダンスを一曲踊ったらバルコニーで話しませんか? まだラングイールの特産品の詳しい話を聞き足りないんです」
イグノスは笑顔でそう言うとアシュリーも上品な笑顔を返してきた。
「私もノースフォールの観光資源についてもっと聞きたいですわ。それから食べ物についても」
2人は手を取り会場へ入っていった。イグノスたちが会場に踏み入れると、そこにいたたくさんの人の視線がぎゅっと集まった。
イグノスは首を傾げてアシュリーを見たが、アシュリーも首を傾げていた。
イグノスとアシュリーは会場の端に立っていたが、多くの人が2人の元へ押しかけ挨拶を始めた。
2人は笑顔で丁重に挨拶を返しているが一向に人だかりが絶えない。そうしているうちに音楽が始まった。
(ダンスが始まる合図だ)
イグノスはアシュリーに目配せをすると、イグノスは彼女の手を優しく引いてダンス会場の空いている場所に収まった。
ダンスの音楽が始まった。
2人はお互い見合うと頭を下げる。そしてイグノスはアシュリーの肩に手を置き、反対の手は腰に回す。
アシュリーもイグノスの手が腰に回したそばの彼の肩に手を置き、反対の手はイグノスの腕の上にそっと置いた。
音楽が始まると、音楽の速さと同じようなステップで会場を泳ぎ始める。
時に跳ねるように、時に滑るように2人の息はピタリと合っている。
イグノスはちらりとアシュリーを見る。
(こんなに息が合う人は初めてだな。ダンスがこんなに楽しいと思えるなんて初めてだ)
イグノスは嬉しくなってアシュリーに笑顔を向ける。そしてアシュリーの肩に置いた手も腰に回した手も熱くなっているように感じた。
イグノスはアシュリーの目をじっと魅入っていた。
ダンスが終わりバルコニーに出た2人はまた話の続きをしていた。
アシュリーの瞳には月が映っていた。
「君の瞳は綺麗な赤色をしているね」
アシュリーはイグノスの方を向いて微笑んだ。
「あなたは優しい眼差しをしているのね」
そう言うとアシュリーは声を上げて短く笑った。イグノスは首を傾げた。
「そういえば、初対面で見た目のことをこんなに聞いてこない人は初めてだわ」
「あっごめん。レディに対してお褒めの言葉もなく――」
「逆なんです。嬉しかったんですわ。皆その話しかしませんので⋯⋯」
「良かった。俺があんまり言われたくないからかな。ついその話を避けてた。でもそれを忘れるくらい君との話は楽しいな」
イグノスはアシュリーに言われて驚いていた。2人とも誰が見ても美男美女だ。その2人に会う人で見た目の話をしない人はいない。
イグノスは無意識にそれを言わないようにしていたのに気がついたが、アシュリーもまたそのような話をしなかった。
それよりも国の情勢や好きな言葉、食べ物などを違う話題を好み、お互い満足していたのだ。
2人の話題は尽きず、夜は更けていく。
イグノスはその頃、もう自分の気持ちに確信していた。
イグノスはアシュリーの手を取り真剣な眼差しを向けた。
「アシュリー様、私はあなた以上の方に出会えないと確信しました。結婚を申し込みたいのです」
「まぁイグノス様、私も同じ事を感じていましたの」
■
帰国すると早速イグノスは王様に報告した。王様は噂でアシュリーの事を知っていたのでとても喜んでいた。それが終わるとすぐにラングイールに行き、アシュリーの父である王様に許可を取った。
アシュリーの父もイグノスの噂を聞いていたので、笑顔で承諾したのだ。
そうすると輿入れの日も順調に決まり、準備が進められた。
輿入れの日の1週間ほど前に両国ではそれぞれ大々的に2人の結婚が国全土に渡って知らされた。
お互いの王様たちはこんな良縁に国はさらに繁栄するだろうと大層喜んでいたのである。
だが、貴族と他の国民は違ったのである。
ラングイールでは貴族の子息や令嬢たちが反発し始めた。「アシュリー様が隣国に奪われてしまう」と言った話がどんどん進んでいく。それはそれぞれの屋敷に戻っても伝えられその両親である貴族たちの耳にも入った。そして侍女や従者にも伝わり、そのまま市民街を始めとして国民にも瞬く間に知らされていくのである。
その知らせはいつしか「ノースフォールの王子が無理矢理アシュリーを連れて行こうとしている」と伝わり、多くの人が立ち上がった。
一方、ノースフォールでは聞きつけた令嬢たちが自分の父にも告げ口をすると、それは瞬く間に湾曲されて国民の耳に届く頃には「イグノス様をたらし込んだ王女が国を支配しようとしている」と噂になった。
そしてイグノスを守ろうと決意した人がその話を周りの人にどんどん広めていき今やその話を知らない人はいないほど国全体に知れ渡ったのである。
今日はアシュリーの輿入れの日。
ラングイールとノースフォールの国の境で行われる。アシュリーを乗せた馬車が止まると、アシュリーが馬車から下りてきた。
アシュリーは顔を上げて数メートル先で待っているイグノスににこりと笑顔を向けた。
イグノスもアシュリーの笑顔を見て、笑顔を返していると、聞き慣れない音がする。
音だけではなかった。そればかりか地面が揺れている気がする。
グレンが大きな声を上げた。
「イグノス様、大変です。ラングイールから大勢の人が迫ってきています! アシュリー様にはこちらの馬車に早く乗っていただき、すぐに出発しましょう」
イグノスは何が起きているのか分からなかった。だが、グレンの言う通りにアシュリーを抱き上げると馬車に乗り込むのに馬車の扉をくぐる。
「ノースフォールの王子がアシュリー様を連れて行こうとしているぞ!」
「やっぱりだ。無理矢理攫う気なんだ!」
迫ってくる人たちは大声で叫んでいる。
イグノスは信じられないことを耳にもするが、馬車に乗り込むしか無かった。
「早く馬車を出せ! 何かあれば私が対応する!」
馬車の外でグレンの大声が聞こえる。程なくして馬車は動き始めた。
イグノスは目を丸くしながら、固い表情でアシュリーを見る。アシュリーもまた青ざめた顔をしている。アシュリーは震える唇でイグノスにこう訴える。
「あの⋯⋯ラングイールの民は何かを誤解しているのだと思います⋯⋯」
「あぁ、そう願うよ。とにかく王城まで行こう。王様は分かってくれているはずだ」
イグノスはアシュリーの手をぎゅっと握った。その手は冷たくなり、少し震えていた。
イグノスはカーテンを少しずらし窓の外を見ると、人の波出来ていた。中には馬に乗っている人もいる。
その光景を見て、イグノスは圧倒的な力強さで心を鷲掴みされたにように感じた。
グレンは馬車の後方で左右に動きながら人の波を牽制している。
(一体何が起きているんだ⋯⋯両国の王様とはあんなに円満な対面だったのに⋯⋯)
外で護衛騎士の叫び声が聞こえた。
「グレン様、前方にも人だかりが出来ています!」
この時、馬車の中にいたイグノスは四方から様々な音が聞こえていて混乱の波に溺れそうだった。
グレンは目を見開いて前方の人だかりが何であるのか確認しようと馬車を追い抜かしていく。
前からも人の声が聞こえ始めた。
「イグノス様を守れ!」
「ラングイールの悪魔と魔女からイグノス様を守るんだ!」
(先方から来るのはノースフォールの民なのか⋯⋯それにしても悪魔と魔女だなんて⋯⋯このままでは戦争になってしまう)
グレンの声がする。
「とにかくイグノス様を王城にお連れするぞ!」
グレンの声に返事するように返事の波は辺り一帯を飲み込む。
イグノスは震えているアシュリーの肩を強く抱き「あなたは私が命に代えてでもお守りします」と伝えるとアシュリーは目を見開きながらイグノスを見ている。
「いえ、私はあなたがいない世界を生きるつもりはありませんわ。最後まで私と一緒にいて下さい」
「⋯⋯分かりました」
外の人の声や足音、何かがぶつかる音、甲高い金属がぶつかる音、何かが折れる音――馬車の外の音はさらに大きくなり馬車を恐怖とともに覆ってくる。
(王城まで行けば、王立軍もいる。皆分かってくれる⋯⋯早く着いてくれ⋯⋯)
イグノスは王城に着くまで、そう願うしかなかった。
その願いとは裏腹に、前方から激しい金属が何度も当たる音、擦れる音、銃声、怒号――その音をイグノスは聞き覚えがあった。
戦争
(どういうことだ? 王城に近いはずなのに、なぜここのほうが戦地になっているのだ?)
前方から大きな声が聞こえる。
「イグノス様の馬車が来たぞ! なんとしてもラングイール軍から守るんだ!」
「イグノス様は私たちが守りますぞ!」
イグノスは聞き覚えのある声に思わず窓を開けた。
「王立軍! 何が起きているんだ?」
「イグノス様! ご無事で何よりです。北の方角からラングイール軍が攻めて来ました! 王城の周りは私たちが死守します! イグノス様が生き残らなければ、何も始まりません!」
イグノスは窓を閉じて力なく馬車の椅子に腰を落とした。
頭の中で、素早くノースフォールとラングイールの地図を広げていたのだ。イグノスがアシュリーを迎えた場所は東の方角だった。
あそこは農地が多い。
つまりラングイールとノースフォールの国民が自ら立ち上がって戦い始めたということだ。
情報は上から下へ流れる。
国民が立ち上がった。そしてノースフォールの王城の周りもラングイール軍がいる。軍ということは少なくとも貴族も動いているのだ。
否応なしにイグノスの脳裏にある言葉が浮かび上がる。
全面戦争
(ノースフォール城が戦地になっているということは、おそらく全面戦争に発展している⋯⋯ラングイールも戦地になっているだろう⋯⋯)
イグノスは窓を開けてグレンを呼んだ。
「グレン! 王様はどこにいる?」
「おそらく秘密通路で退避中かと思われます!」
「分かった。城の西塔へ向かってくれ」
グレンはそれを聞いて、こめかみの血管を浮かせて顔が赤くなり始めた。狼が獲物に噛みつかん勢いで怒鳴る。
「死ぬおつもりですか!? イグノス様は絶対に生き延びなければなりません!」
「私たちが火種となったなら、最後を見届ける責任がある」
そこへアシュリーもイグノスの脇から顔を出した。
「私もイグノス様と同じ気持ちです。国民にも私たちの姿を残さなければなりません」
それを聞いたグレンは下を向い馬の手綱を力いっぱい握りしめた。
「⋯⋯分かりました⋯⋯」
グレンは顔を上げると、イグノスとアシュリーを正面から見た。
「西塔までお2人をお連れいたします! この命が尽きる最期までそばでお守りいたします」
「グレン、ありがとう。私の騎士であり、1番の友よ」
グレンは深く頷くと、王立軍の方へ向かっていく。
「王立軍の皆! 西塔へ向かう道を作ってくれ!」
幾重にも重なった軍の男たちの返事が辺りに広がる。それは頼もしく温かなものであった。イグノスを知る男たちの心からの熱い叫びだった。
イグノスはアシュリーの手を握っている。この手を離す最期の時まで一緒でありたい⋯⋯。
馬車の外の音は過激さを増した。剣を交える音が迫っている。時折、馬車は大きく左右に揺れる。
その度に男の断末魔が聞こえてくる。戦禍をくぐり始めたのだ。
「あともう少しだ」
イグノスはアシュリーに伝える。馬車は王城の正面門をくぐってしばらく走っていた。西塔は目の前だ。
馬車は大きく前後に揺れた。イグノスは窓の外を素早く確認すると乱暴に扉を開けた。左右を確認してアシュリーに手を伸ばしてくる。アシュリーはイグノスの手を取ると馬車から下りる。
イグノスは西塔を見つめた。
「アシュリー、あと少しだ」
アシュリーが地面まで下りると、変わり果てた王城の景色が目に焼き付いてくる。
イグノスの中にある色んな思い出の景色が火で上書きされていく。
温かみのあった道の脇に植えられていた花は秋の枯れ果てたような茶色の姿に変わっている。王城の外も中も火の手が周り空気を赤橙色に染めている。
アシュリーの手を取って西塔へ走る。周りには何人かいるのが見えるが、どちらの国の人か分からない。各々戦っていた。
その内の1人がイグノスたちを見つけた。
「アシュリー様とノースフォールの王子だ!」
男が声を上げると、一斉に周りの人の顔がこちらに向く。
声を上げたものに向かう人も入れば、イグノスたちに向かってくる人もいる。こちらに向かってきた人とイグノスたちの間にグレンが入る。グレンは剣を構えた。
「イグノス様、ここはお任せ下さい」
「グレン、助かる。グレンに最大の敬意と感謝を表する!」
イグノスとアシュリーは西塔に走った。なんとか西塔の扉にやってくるとイグノスは丸い扉の取っ手に手を掛けると体重をかけて引く。
扉はびくともしない。
イグノスはありったけの力を込める。
「⋯⋯んぐっ⋯⋯!」
それでも扉は開かない。
そこへグレンが滑り込んできた。すぐさまグレンも取っ手に力を込める。
「⋯⋯ぐっ⋯⋯」
「んん⋯⋯ぐぅ⋯⋯」
ギギギ⋯⋯
重たく軋んだ音を立てながら、扉が少し開いた。
「王子がアシュリー様を連れて逃げるぞ!」
「イグノス様を守れ!」
男たちが走ってくる。グレンはイグノスとアシュリーを塔の中へと押し込んだ。イグノスは顔を上げてグレンを見る。グレンは扉の隙間に顔を出した。
「イグノス様とアシュリー様に栄光があらんことを⋯⋯」
ガチャン!
扉は勢いよく閉まり、辺りは暗闇に包まれた。
「グレン!!」
イグノスは辺りを見たが真っ暗で何も見えなかった。
「アシュリー、大丈夫か?」
「えぇ、急ぎましょう。扉を破られたらすぐに追手が来てしまうわ」
イグノスたちは壁に手をつきながら、螺旋階段を歩き始めた。塔の中は少しひんやりとしている。
2人の足音が反響する。
上に進むにつれて、息を吐く音が聞こえる。
その息を吐く音の間隔が短くなっていく。
その呼吸音が絶え間なくなって、少しすると、石の壁から木の感触に変わった。
「扉だ」
イグノスは手探りで扉の取っ手を探す。丸い金属の輪が指に当たる。それを掴み引いてみる。
びくともしない。
今度は押してみる。少し動くが錆びているのか開かない。イグノスは身体を扉に押し付けて体重をかけた。
それでも開かない。
「ごめん、アシュリー。少し下がってくれるかい?」
そうイグノスは言うと、後ろに下がって助走をつけると足で蹴り開けた。
嫌な木の軋む音と共に熱風が塔の中に勢いよく流れ込んでくる。
イグノスは扉を出ると王城の至る所が壊れて燃えているのが見えた。アシュリーもイグノスの隣にやってくる。そのアシュリーの横顔は炎火に赤橙色に見える。
「なぜこんなことになってしまったのだろう⋯⋯」
「私たちはただ結ばれたかっただけなのに⋯⋯」
辺り一面が火の海と化している。
(おそらくラングイール城も似たようなことになっているだろう⋯⋯)
下から叫び声がする。
「イグノス様と隣国の王女が西塔にいるぞ!」
「アシュリー様と隣国の王子が西塔にいるぞ!」
(もう時間はない)
イグノスは覚悟を決めてアシュリーの方に身体を向けた。イグノスはアシュリーの手を強く握り直した。
「もし叶うなら時間を巻き戻して幸せな結婚をアシュリーとしたかった」
「えぇ、もし時間が巻き戻るなら私は道化になって周りに気づかれないようにあなたに会いに行くわ」
アシュリーは涙を流しながら笑みを向けている。
「そしたら俺は影法師となって存在を消していよう」
西塔の扉が開かれた。
アシュリーは左手で髪に付いている髪飾りを取るとイグノスの目の前に持ってきた。
「ラングイールで初めて取れたルビーよ。私の瞳と同じ色。イグノス様、私の代わりに持っていて下さい」
イグノスはアシュリーから受け取ると髪飾りのルビーを覗き込む。
周りの炎の光を取り込んで燃えるように輝いている。
イグノスはアシュリーに笑いかけた。その頬には涙が流れた。
西塔の屋上の扉が開かれた――。
――――――
イグノスはアシュリーの手を取ると笑った。
「まるでピエロじゃないか。君の言った通りだね」
「あなたも言った通り、まるで影法師ね」
イグノスはそこに跪いてアシュリーの手を取ると、顔を上げた。
「アシュリー・ラングイールよ、私、イグノス・ノースフォールと結婚して下さいませんか」
「もちろんですわ。私も同じ事を考えていましたの」
アシュリーはもう片方の手をイグノスの手に添えた。イグノスは頷きながら立ち上がる。イグノスはアシュリーの手を引いて、確かな足取りで王様の元へと向かうと頭を下げた。
それは今までの影法師と呼ばれたイグノスとは全く違い、良く通る声ではっきりと告げた。
「王様、私はアシュリー様と結婚いたします」
王様は目を丸くして今の状況を素早く理解しようとした。
「⋯⋯おぉ、良くぞ決心してくれた」
「結婚式は早く行いたいです。出来るだけ早く婚姻を結びたいのです」
王様はまた目を丸くした。イグノスの言葉を素早く理解しようとしている。
「⋯⋯おぉ、善は急げだ。今、婚姻を結ぼうではないか」
その言葉に周りにいた王子と執事、従者など全員が王様を見た。
王様は必死に執事の姿を見つけると、こう申し付けた。
「王女の従者を今すぐ連れ戻してくれ。それからこちらは婚姻の準備を進めろ」
「はっはぁ、前例はありませんが⋯⋯」
「前例が無いなら、作ればいい!」
王様は今までで1度も見たことのない必死ぶりだった。それを聞いた執事は全速力で走り始めた。
それを聞いた王子たちも話し始めた。
「私たちも立会人になりましょう」
「この素晴らしい門出です。皆で見届けましょう」
「イグノスの人生の転機です。時間がかかっても私たちはずっと待っております」
その言葉に王子たちはしきりに頷いていた。
こんなに協力的な王子たちを今まで見たことがない。よほど早く婚姻を結ばせて周知の事実にしたいらしい。
それから準備に時間がかかったが、王子は誰一人として嫌な顔を見せなかった。それどころか朗らかに笑いお祝いムードを作ってくれた。
婚姻の準備が整ったようだ。サイン台がある。
「あっ」
イグノスは短く声を上げるとアシュリーの方を向いて手に持ったのを渡してくる。
それは大きなルビーの付いた髪飾りだった。アシュリーはそれを見て笑顔になるとそっとイグノスから受け取った。そしてきっちりとまとめていた髪を解くと深みのある金色の髪はふわりと宙を舞った。
その見事な髪に他の王子たちは息を飲んだ。
アシュリーは髪飾りを頭につけている。
イグノスは従者にワックスを持ってこさせると、眼鏡を外して前髪をかき上げオールバックに固めた。
王様を始めとして他の王子たちも口を開けたまま固まった。
黒髪にサファイアのような深い青色の瞳、高い鼻は端正な顔を強調していた。
本来のイグノスの顔だ。
イグノス、アシュリーとそれぞれサインをすると婚姻を結び終わった。
それが終わるとイグノスは王様の方を向いた。
「結婚式ですが⋯⋯」
「隣国との婚姻だ。盛大な結婚式を準備しようではないか」
王様は満足そうに笑っている。他の王子たちも大きく頷いていた。
結婚式までの1ヶ月間は色んな噂が飛び交った。
「隣国の王女は絶世の美女らしいぞ」
「えっ隣国の王女はピエロみたいだって聞いたぞ」
「イグノス王子っているかいないか分からないほど影法師みたいなんだってさ」
「えっイグノス王子はどの王子よりも格好良いって聞いたぞ」
「結婚式では、広間でお披露目があるんだろ? 絶対に見に行こう」
貴族も市民もひっきりなしに結婚式の話をしている。その隣を忙しそうに侍女が通り過ぎる。
侍女はある人を見つけると「ここにいらっしゃったのですね。今お連れいたします」と頭を下げた。
結婚式当日の控室では正装になったイグノスとウエディングドレスを着たアシュリーが座っていた。
これから戦争の発端にもなった傾国の美男子と美女の結婚式が始まる。
式では失神者が多数出そうなほど、2人の格好はよく似合っていた。
深い海のように畏敬の念を抱くほどの青い瞳に黒髪が良く映える白のモーニングコートに身を包んだイグノスはアシュリーを近づいた。
「オールバックだとあなたの顔がよく見えていいわね」
「これからは顔を隠す長い前髪は要らないよ」
アシュリーはきめ細かい肌を強調するような清楚で控えめな色使いの化粧をしている。その陶器のような肌に燃えるような赤い瞳はイグノスに向けられている。
コンコン
扉をノックする音が聞こえる。それと同時に侍女の声がした。イグノスが返事をすると扉が開いた。
扉から入ってきた騎士の正装を着た人物を見たイグノスは目を丸くした。
公爵家の大将軍の息子のグレンだった。
グレンはイグノスの姿を見ると口元を緩めた。
「以前とお変わりのない姿に安心いたしました」
その言葉はイグノスの全身を電気のように駆け巡る。
「もしかして⋯⋯グレン⋯⋯私の騎士であったことを覚えているのか?」
それを聞いたグレンはスッと跪いた。
「やはり、イグノス様も同じ時を過ごしていたのですね」
それを聞いたイグノスはアシュリーを一瞥した。
「それを言うなら、アシュリーも同じ時を過ごした」
イグノスとアシュリーはあの西塔から時が巻き戻ったのだ。そして2度とあのようなことが起こらないように、アシュリーはピエロになって、イグノスは影法師となって存在を隠し続けていた。
ずっと横で支えてくれたグレンも同じように時が巻き戻っていたの言うのだ。
「また私は騎士として忠誠を誓わせていただけませんか?」
「もちろんだが、グレンはそれで良いのか?」
イグノスはグレンの申し出に心を熱くした。彼がまたそばにいてくれるなんてどんなに心強いことだろうと思った。
グレンはイグノスを見て満足そうに笑った。
「またここから始まるのでしょう? 私はイグノス様の騎士でもあるが」
2人の声が重なる。
「「1番の友だ」」
それを聞いたイグノス、グレンとアシュリーは声を上げて笑った。
イグノスはグレンに手を伸ばした。グレンはその手を取り、固い握手を交わした。
そしてイグノスはアシュリーの方を見た。
「アシュリー、これからも俺の隣にずっといてくれるか?」
アシュリーはイグノスの腕にそっと自分手を添えた。
「イグノス、あなたと未来を歩きづつけるわ」
これから結婚式が始まる――。
もう一度すべてをやり直し幸せを掴むと確信した2人はお互い目を合わせて頷いた。
控室の扉が開かれると眩い光が差し込んでくる。
その光の中へとイグノスとアシュリーは一歩踏み出した――。
お読みいただきありがとうございました。
ピエロは泣き顔なのに笑っている、そんなところからアシュリーの心情と絡ませて書いてみました。
影法師は名の通り影なので、そんな存在ですね。
2人のこれからの未来へのワクワク感を残しながら幕引きとしました。
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