音について
私には、姉が二人居ます。三人姉妹で、私は末っ子でした。
ええ、とても仲は良かったです。小さい頃は喧嘩は……まあ、しましたけど、家に帰って姉に勉強を見て貰ったり、テレビゲームやったり。
私が高校に入学した時には既に姉二人は高卒で社会人になってたんですけど……あんたは大学に行きなさい、って学費も出してくれて。
ええ、とても感謝してますよ。二人の命日には、かならず……こうしてお墓参りに。あの二人だったら、こんなクソ暑い中に出てくんなって怒りそうですけど。
「足元、気を付けてください。それで……お姉さん二人についてお話を伺いたいのですが……」
え、それ良く聞けますね。まあ十年前の事なんで……ようやく私も気持ちの整理がついてきたっていうか……。それでも、まだ二人は……あぁ、ごめんなさい。記者さんって大変ですね。こんな取材もしなきゃいけないなんて。
「恐縮です……すみません、不躾な質問で……」
別にいいですよ。私も……誰かに話せば少しは気がまぎれるっていうか。あはは、十年経って気持ちの整理がついてるって言ったばかりなのに。
それで、姉二人の事でしたっけ。
私が大学に合格して、お祝いに家族で旅行しようってことになって……でも二人はギリギリまで仕事してて、現地で合流する予定だったんですけど……。
二人共に、バラバラの場所で……同時に亡くなってしまったんです。
「……それは、偶然……なんですか?」
分かりますよ。事件性があるとか、もしかしたら二人で示し合わせて自殺したんじゃないかって思ってるんですよね、記者さん……えーっと、名前……
「塩谷と申します」
これ、名刺ですか? なんで最初に渡してくれないんですか。
オカルト雑誌? あぁ、成程……じゃあもう知ってるんですよね、姉二人が双子だったって。
「えぇ、まあ」
昔から不思議な事はありましたよ。二人同時に帰ってきたり、電話かかってきたり。でもそういう物なんだって思ってました。でも一番不思議……っていうか、ちょっと怖かったのは……
「……なんです?」
私達三人供、子供の頃からピアノを習ってたんです。韓国の凄い先生が家に来てくれて。パリのナントカっていう有名な学校出たって言ってました。で、その先生が言うんです。姉二人はいつも同じ場所を間違えるって。
「双子あるある?」
そう……なんでしょうけど、なんていうか……塩谷さん、ピアノ弾いた事ありますか?
「いえ、まったく」
えーっと、じゃあ……ドレミって順番に弾いたとして、それ間違えると思います?
「横並びですよね? 間違えるわけないですよ」
そう、そうなんですよ。姉二人が間違えてた所も、そのレベルで簡単な所だったんです。ラとシを間違えていたんです。
「そうなんですね」
しかも決まって水曜日。
「なんです?」
レッスンは月、水、金ってあったんですけど、水曜日の日だけ、二人とも同じ場所のラを、シに間違えるんです。
「ラ、をシに?」
最初は二人とも笑ってました。一緒のところを間違えてて、先生に怒られたって。でもそれが続くと、二人ともちょっとムキになって、絶対間違えないぞって気合いれても……絶対間違えちゃうんです。
「ちなみに、曲は? 日によってバラバラ?」
勿論。でも水曜日に弾く曲だけ、必ず……ラ、をシ、に間違えるんです。
ぁ、セミが鳴いてる。あの音、レーレレレレレ、からのラーラララララ……
「絶対音感ですか?」
まさか、教えてもらったんです。姉二人は持ってましたので。私は音楽はさっぱり。ピアノも、バイエルだけ弾けたらやめていいって言われたので、そこで辞めました。
「お姉さん二人は結構いいところまで?」
まあ、音大から推薦貰ってたんですよ、二人とも。でもそれ蹴って就職したんです。当時はすっごい両親とも喧嘩して。私も両親側でしたよ。なんで音楽の道に進まないのかって。
「二人は何故、その道に進まなかったんですか?」
間違えるから
「え?」
水曜日に、二人はラ、をシ、に間違えちゃうんです。同時に。
「いや、そんなの……ただの偶然……」
二人はどうやって亡くなったか、知ってますよね? その日も水曜日でした。今日みたいに暑い夏の日です。こうやってセミが鳴いてたんでしょうね。
「二人は横断歩道を歩行中に……」
セミの鳴き声って一定だから、信号機の電子音だと間違える人が居るそうです。それでも音階が全然違うんだから、普通の人なら違う音って分かります。でも姉二人は……水曜日だけ、ラがシに聞こえたんです。
「それが……事故の原因だと? 二人は歩きスマホをしていて、と聞きましたが」
あはは、そんなわけないじゃないですか。それ、誰に聞いたんですか?
「……というと?」
「二人は、先天的な視覚障碍者だったんですよ」
※この物語はフィクションです。
この物語はフィクションです。困っている人が居たら助けてあげてください。貴方の一声で、助かる命があります。この物語はフィクションです。




