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◇◇雪◇◇
音のした方を見ると狭魔の入口で片足をついた方がいました。よく見ると知った顔のです。
「あれ、美月さんですか?」
「雪さん!良かった無事だったの」
直ぐに立ち上がった所を見ると怪我はしていないのでしょうか。
「おかげさまで。怪我はないでしょうか?」
「ああうん。全然大丈夫。ぶつけただけ」
「それなら良かったです。美月さんは何故ここに?」
「えっと咲さんを追いかけていたら盈虚さんと咲さんが居て、雪さんが誘拐されたと聞いて、狭魔が開いたら二人とも私を置いて行って」
「あのお嬢様この方知り合いでしょうか?」
「あ、えっと話した事は無いんですがパーティーで何度か顔を合わせた事があります」
「そ、そうでしたっけ」
どうやら盈虚は美月さんの事を覚えていないようです。あれだけ人の名前は覚えるよう言われているのに。後で説教ですね。一先ず美月さんの事を説明すると思い出したようでああ、と言い謝っていました。美月さんは気にしていないようで良かったです。
「あの、服破れている方がいますけど」
「気にしないでください」
「いやでも」
「気にしなくていいです」
「あ、はい」
「あれ?先輩入って来たんですか?」
そうこうしているとこちらに気がついた咲さんが話し掛けてきました。先輩と呼んでいる事は二人は知り合いのようです。世間は狭いですね。
「あ、咲さん!何もわからないのに置いてかないでよ!私どうしていいかわからなくて…。咲さんの事も心配だったし」
「すみません。もしかして心配で来てくれたんですか?」
「…う、うん」
「ありがとうございます。ちなみに私も殆ど何もわかっていないんですよ」
「ええ~」
「えっと、誘拐は勘違いだったらしいですよ」
「そうなの?」
「え?」
「うん、混乱しそうなので一度話を纏めましょう。椅子は足りないですが紅茶とクッキーがありますよ」
盈虚が余計な事を口走ってしまいそうなので先手を打つことにします。
「コーヒーもあるよ」
「ここでお茶会するんですか?」
「いいじゃないですか」
「わかりました。用意します」
「お願い。私は藍良さんの様子をもう少し見ています」
藍良に隙を見て口裏合わせを頼めば盈虚の方は何とかなるでしょう。
「あ、手伝います」
「私も手伝います」
「ありがとうございます」
盈虚が適当に石を壊して椅子の代わりを幾つか作りお茶会が始まりました。考えてみれば畳に机と椅子って変ですね。しかも無骨な石を椅子なんて。勿論石に座っているのは盈虚と藍良です。
「えっとつまり全て勘違いだったと。三人は元々お知り合いで雪さんと藍良さんが今日たまたま会ったと」
「はい、その通りです」
「そこで盈虚さんに連絡した際、うまく伝わらず誤解が生まれてしまい誘拐騒ぎになったと」
「その通りです。本当にご迷惑をお掛けしました」
「すみません。早とちりで」
「ごめんなさいね」
盈虚には口裏合わせをしていませんが私と藍良の話を聞いて察したようで合わせてくれました。
「それで怪我の方も吸血鬼の再生能力で治ったと」
「その通り。問題なし」
藍良については説明が面倒な上、あまり人に話すべき事柄ではない為、吸血鬼と人間のハーフで再生能力がある事にしました。
「まあ、皆さんが無事なら良かったですが」
「あれでも咲の話だと盈虚さんが藍良さんを攻撃した上で殺そうとしていたんですよね?」
しまった。痛い所をついてきますね。先ほどお茶会の準備をしていた時に二人で何か話していたのは見ていましたがさっきの出来事を話していたとは。
「あああれは盈虚が頭に血が上っちゃってさ。そこが欠点だからさ。ね、盈虚」
「…ああ、その通りだな」
「盈虚ちゃん、睨まないでよ~」
「悪ふざけは止めてくれないか朔?」
藍良が盈虚をからかい始めています。余裕があるのはいい事ですが、ちょっとイラっとしますね。これ以上二人が話していると盈虚が限界を迎えて良くない事を口走りそうなので話を変えましょう。
「そう言えば盈虚と咲さん、美月さんはどうして一緒に行動していたのですか?」
「えっとたまたま咲さんと会って話を聞いて貰っていたんですよ。その時に連絡が来て。私が走りだしたら咲さんが飛んで追いかけてきたようで」
「そうなんですか。ご迷惑をお掛けしました」
「いえさっきも言いましたが気にしないでください。その後助けてもらいましたし」
「あ、そうだ!お嬢様その事で相談があります。咲さんですが姿を消さずに飛んでいたようでいろいろと問題があるかと」
「そうなのですか?」
「その通りです。お恥ずかしいです」
「何か解決策はお持ちで?」
「?いえ何も」
「やはりそうですか。お嬢様、見てしまった人の記憶は無理ですが映像の書き換えならこちらで出来ないでしょうか?」
「成程。咲さん私たちは防犯カメラなどの映像を書き換える術を持っています。勿論、法的には駄目な事ですが咲さんが望むならあなたが飛んでいる時の映像を探し出して消します」
「えっと、どうしよう…いい事ではないですよね」
「やってもらえば。雪さんは信用できるよ」
「ただこんな事を言っても怪しいだけですし、身分証明書を出しましょうか?」
「いえそんな!信用できないとかそういう事ではなくてですね」
「勿論、不安はあると思います。けれどこのご時世映像なんて簡単に出回ります」
「ですが、映像をいじると困る人も出てくると思います。私のせいで困る人が出るのは嫌です」「それは大丈夫です。咲さんの姿を消すだけです。他には一切手を加えません」
「どうしよう…」
「色々迷わせるようなことを言ってしまいましたね。勿論、咲さんの意見を尊重します」
「えっと、でもそれは、いやでも」
「咲さん止めたら。消してもらったら多分咲さんはずっと気にするでしょ。もしかしたら誰かに迷惑を掛けてしまったかもしれないって。それよりもしてしまった事はしてしまった事で反省して受け入れて進む方が咲さんにとっては楽じゃない?勿論リスクはあると思うよ。ネットで話題になったりね。でもさ、多分人のうわさなんてすぐ消えるよ。それにね、私は咲さんが飛んでいる所を見たし、飛んでいる所を見た人の話も聞いた。かなり高い所を飛んでいたでしょ。私は飛ぶ所を見ていたから咲さんだって分かっていたけどすぐ誰かわからない程小さくなっていたよ。見た人も性別まではわからないって言っていたよ。多分殆どの人は気がついていないよ。深夜だしね。だからいくらでも誤魔化す事は出来ると思うの。大半の防犯カメラにも映っていないと思うの。多分はっきりと見ていた人も映像も無いと思う。それにたくさんの人が飛んでいる姿を見ていたら騒ぎになっていたと思う。咲さんを追っていた時そこまで長い距離動いた訳じゃないけど、静かだったよ。勿論これは楽観的な意見だけどね」
「そう言われれば確かに。さっき近くに来ていた奴も人が飛んでいたとしか言ってなかったな」
「ありがとうございます。少し考えさせてください」
「勿論です。それで美月さんは何故ここに?」
「えっと咲さんが飛ぶ瞬間を見て咄嗟に追いかけたんです。それで見失ったんですが色々あって人差守を使って見つけたんです。そうしたらそこに盈虚さんもいて雪さんが誘拐されたって聞いたんです」
「そうだ!人差守を借りたままでした。お返ししないと」
「盈虚そうなの?」
「はい。人差守がここの入口を開けてくれたんです」
「あー何でここに入ってこられたのか不思議だったけどそういう事だったのか」
「流石伝説の人差守ですね」
「伝説なんですね」
「私も詳しくはわかりませんが既に製法が失われており、とても貴重な物だと聞いたことがあります」
「そのような物を貸して頂きありがとうございます」
「本当にありがとうございます。是非お礼させてください」
「気にしないで。本当に。雪さんたちに何も無かったならそれでいいから」
「そう言う訳には行かないです」
「いや本当に気にしないで。誰も悪いわけじゃないんだし。どうしても気になるのであればまた相談に乗ってほしいな」
「わかりました。私でよければ」
「こんな形ではありますが皆さんとお会いできて良かったです」
「確かに。連絡先交換しましょうよ」
「ここ電波通じないよね」
「そうなんですか。残念です」
「確かに連絡先を交換できないのは残念ですがきっとまた会う事も有るでしょう」
「そうね」
「私決めました。映像は消しません。してしまった事はしてしまった事で受け入れて進みます」
「そうですか。素晴らしい選択だと思います。尊重します」
「ありがとうございます」
「ここでは時間の流れが遅いとはいえ余り長居するのは良くないし、そろそろお開きにしない?」
「そうですね。そうしましょう」
「私たちは三人でもう少し話すことがあるのでもう少しだけ残りますが、お二人はどうされますか?」
「咲さんどうする?」
「せっかくだしあと少しだけこの空間を見てもいいですか」
「勿論」
「それなら私も咲さんに付き合うよ」
さき、さく、ゆきと似た名前が多い事に今更気がつきました。
今回の話に合わせる為に7話を少し変更しました。




