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四つ葉の郷の物語  作者: 村野夜市


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明日からお休みだってんで、その日はみんな、農作業をしていても、どこか浮足立っていた。

だいぶいろんなことに慣れてきた僕らも、その日は弟妹たちに混じってチーズを運んだ。

明日からは休みだし、オクサンにはいつもより少し余計に働いてもらおうというわけだ。


無尽蔵にあるかと思った三百年前のチーズだけど、いつの間にか残り少なくなっていた。

まあまだ、二百九十九年前のとか、ずらっとあるんだけどさ。

まったく、あの氷室から、チーズのなくなる日なんてあるのかな。


オクサンの食欲は相変わらずすごかった。

凍ったチーズの塊をがふがふと食べては、かあああっ、と荒地を耕す。

見る見る間に、辺りの荒地が、見事な畑へと変わっていく。


順番がきて、僕がチーズをオクサンに渡したときだった。


かちっ。


なにやら金属の音がして、オクサンの動きが止まった。

と思ったら、オクサンは、長い爪で、なにやら細い棒のようなものをつまみあげた。


「あれ、なんだろ?」


明るくなってきた月の光に、棒は一瞬、きらっと反射した。

その瞬間、オクサンは、いきなりそれを口に放り込むと、そのままごくりと飲み込んだ。


「え?」


誰かを呼ぶ暇はなかった。

なにか、反応する暇すらなかった。

ただ、僕は、呆けたように、オクサンのすることを見ていただけだった。


そのあとは、いつものように、農作業が続いた。

なにも、変わったことはなかった。


あの棒は、多分、チーズのなかに混ざっていたんだろうけど。

そんなものがなんでチーズに混ざっていたのか、それも分からなかった。


作業が終わって、朝食のときに、僕はその話をみんなにした。

フィオーリも、弟妹たちも、そんなものがチーズに混ざっているなんて知らなかったと言った。

じいちゃんばあちゃんでさえ、それにどんな理由があったのか、分かる人はいなかった。


そうして僕らは、祝祭の日々へ突入した。


満月休みの七日間は、四つ葉の郷の祭日だ。

彼らはこの期間を利用して、満月に祈りを捧げ、豊穣を祈る。


なんてのは建前で、祝祭を口実に連日連夜、酒飲んでご馳走食べて騒ぐわけだ。

楽しそうに歌って踊れば、お月様も喜んでくださるに違いない、とかなんとか言ってさ。


だいたい、オクサンが見つかるまでは、この郷に満月休みなんてなかったそうだし。

そのころの休みは、七日に一度。

その日は、お日様に感謝して、昼間っから酒飲んで騒いでたんだってさ。

いわく、楽しそうに歌って踊れば、お日様は喜んでくださるに違いない。

まあ、あんまり、変わってないよね?


ホビットは働き者だし、力を合わせてみんな一斉に働くけど。

休むときはとことん休む。

休むといっても、エルフみたいに、のんびり休むわけじゃなくてさ。

それこそ、働くときより忙しいくらいに、休みを楽しみ尽くすわけだよ。


今回は、僕らの歓迎会パート2ってのが、開催されることになっていた。

パート2って、なんだよ、って話なんだけど。

パート1はフィオーリの家でやったもんだからさ。

家の中に入りきれなかった人も多かったみたいで。

多方面から苦情が出て、今度は全員参加できる、外でやろうってなったみたいだ。

まあそれすらも、ただの言い訳なのかもしれないけどさ。


郷には一応、地上に広場ってのがあって、前は集会なんかはここでやってたらしい。

まあ別に彼らにはお日様を避けなければならない理由はないからさ。

オクサンに気遣って、ずっと使ってなかったらしいんだけど。

満月休みは、オクサンは氷室にこもりっきりだ。

その間なら、地上の広場を使ってもいいかって、なったみたい。

そもそもオクサンはそんなこと、気にしてないと思うけどね。


ところがところが、ずいぶん長い間、その広場って、ほったらかしだったもんだからさ。

それこそ、草がぼうぼうに生えて、宴会場どころじゃなくなってたんだよ。

だもんだから、満月休みの最初の三日間は、郷中総出で、広場の草刈りになった。

オクサンに手伝ってもらうわけにはいかないしね。

つくづく、オクサンの力って偉大だって、僕でさえ思ったね。


そんなこんなで、歓迎会パート2が開かれたのは、満月の夜だった。

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