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夢見る白雪姫  作者: 折色 寄
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エピローグ

 梵の墓石に花束を添えた私は、目を閉じて手を合わせた。

 あの日、私は数日間に渡った長い夢から覚めた。目覚める前、懐かしい記憶で構成された夢を見た。川のほとりで眠る夢。家族に誕生日を祝ってもらう夢。白雪姫の舞台で、梵にキスをされる夢。どれも幸せな夢だった。

 目覚めたときのことは、あまり覚えてない。ただ、目覚めたときに自分でもよく分からない感情で涙が止まらなかったことは覚えている。その時にお母さんが泣いて抱き着いて来たり、クラスメイトの子たちがお見舞い品を持って来てくれたりしたらしいけど、申し訳ないことに、全部覚えていない。

 退院してから一週間が経ったけど、私はまだどこかに梵が居るんじゃないかと錯覚してる。それが自分の願望から来た感覚なのかと言われたら、きっとそんなことはないんだと思う。それよりも、梵が居る事実が当たり前過ぎて、まだ私の中で梵が亡くなった実感が湧いていない。

 現実世界にもまだ、なんとなく馴染めていないような気がする。梵が居ないんだと本当の意味で実感したとき、私はきっと試練を乗り越えないといけない。大切な人を亡くしたという事実を受け入れて、絶望に抗わないといけない。

「随分と大変なことをお願いされちゃったな。ね、梵」

 私は墓石に向かってそう呟いた。


 ここしばらくの間、海斗は私がちゃんと現実に根を生やせるように、表出するのを先送りにし続けてくれている。そのせいで、私は習慣であった交換日記をずっと読んでいなかった。

 久しぶりに日記を開くと、まだ読んでいなかった海斗の日記があった。私はそれに目を通すことにした。


無事に目覚めてくれてありがとう、風花。

いつも書いてるけど、改めて書かせてほしい。僕に生きる時間を与えてくれて、ありがとう。

風花は僕に、弟として生まれる予定だった男の子の名前をつけてくれたよね。風花が僕に名前を与えてくれたおかげで、僕は一人の人間なんだって思えるようになった。本当に、感謝してる。

さて、僕の話はここまでにして、本題に入ろう。

実は昔、梵からよく恋愛相談されてたんだ。梵の意中の相手はもちろん、風花のことだよ。風花には言うなって釘を刺されたけど、今はもう時効だよね。

僕は不思議に思ってた。どうして好きな人の姿をした僕を相手に相談ができるんだろうって。聞くところによると、それとこれとは別だということで、答えは濁されてしまったわけだけど。

数ある恋愛相談の中で、梵から聞いて印象に残った言葉があるんだ。それはね。

「僕は夢の中で風花を支える存在になりたい」

たまげたね。だって、当時小学生だよ? まあませたことを言うガキだよね。

で、どういうことなのか訊いてみたんだよ。そしたら、梵によるとこういうことらしい。

「本当は、ずっと風花の側に居たい。でも、きっとこの先、僕と風花が一緒に居られなくなるかもしれない。例えば進学先が変わるとか、付き合う人が変わるとか。

 それでもしも、離れ離れになってしまうことがあって、僕が風花の側に居られなくなったとき、僕は夢の中で風花に会いに行けるような存在になりたい。風花が僕を夢の中で登場させてやってもいいと思えるような人に、僕はなりたい。そして、風花が辛いときには、夢の中で相談に乗ってあげたい。せっかく僕たちは夢と友達なんだから。

 もちろん、できることなら矛盾も何もない現実で風花と一緒に居たいよ? でも、いつかはきっと、会えなくなる時が来ると思うんだ。そんな時に、風花が僕と居る夢を見てくれたらいいなって思う。そうしたら絶対、僕は風花に会いに行くから」

 一言一句だって間違えてない自信がある。梵の話を聞いて、正直ちょっと感動したからね。こんなにも風花を大事に想ってる奴が居るんだって思った。

 目覚めたばかりの風花にこんなことを書くのはどうかと思ったけど、もしかすると梵の選択に納得がいってないんじゃないかって思ったんだ。だから、少しお節介をしてしまった。ごめんよ。

 そして最後に、本当は風花には伏せておくつもりだったけど、やっぱりそれじゃあ梵が報われないだろうから、書くことにするよ。

 事故に遭ったバスの中で、倒れていた梵から伸ばされた手は、風花の手に重ねられていたらしい。梵は最後の力を振り絞って風花の手を握っていたそうだ。

 最後まで君を守り抜こうとしたんだろうね。少なくとも僕は、梵に出会えて本当に良かったと思ってる。


 日記を読み終えた私は、一人で泣いた。日記を抱きしめながら、床に座り込んだ。夢の中で梵が私を目覚めさせようと劇に乱入して来たときと同じくらい泣いた。

「約束、次は破らないでよ」

 まだこの世界のどこかに居るような気がする梵に、私は言い聞かせるようにそう言った。


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