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夢見る白雪姫  作者: 折色 寄
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現実9

 僕は奇しくも今日が退院日だ。日曜日だから学校がなく、久しぶりに外に出て解放された気分になった。今日は予定があるため、家には寄らずに直接最寄りの駅に向かうことになっている。とはいうものの、家の前は通ることになる。

 正午付近の時間帯であるため、九月の半ばにはなったけどまだ暖かい。こんなにも長い距離を歩くのは久しぶりであるため、足を一歩出す度に奇妙な感覚がする。

 しばらく歩いて自宅の前に差し掛かった僕は、前方に立っている人物を視界に捉えて思わず足を止めた。その人物が僕に気付くと、何やら警戒するようにこちらに近づいて来た。どうやら僕が今日退院するからと、家の前で待ち伏せしていたらしい。

「お邪魔させてもらうぞ」

 駿河が僕の家を指して言った。けれど僕は家に入るつもりはない。

「悪いけど、これから用事があるんだ」

「……なんだと?」

「だから、お邪魔したければ母さんに確認を取ってよ」

「……どこに行くんだ」

「駅だよ」

「何をしに?」

「さあ?」

 僕が首を捻って歩き出すと、後ろから肩を掴まれた。

「待てよ。話がある」

「人を待たせてるんだ。悪いけどここで道草を食ってる場合じゃない」

「……なら、俺もついて行く」

「お好きにどうぞ」

 僕が言うと、駿河は僕の肩から手を離した。そして、僕よりも半歩下がった状態で後ろをついて来た。

「また夢が増えていた」

 駿河が背後から僕に言った。

「そうなんだね」

「とぼけるな。お前の仕業だろ」

「何度も言ってるけど、僕には駿河たちのような特殊能力は持ち合わせていない」

「風花の夢は、今のところ四つある。そのうちの三つは、実体のないものだった。俺はフェイクの夢の中で眠っている人間、あるいは動物の夢に潜り込もうとすることで、より下の階層の夢にたどり着くことができた。一階層目は、風花が白雪姫を演じている最中、客席で眠っているおっさんの夢に潜った。そしてニ階層目にたどり着き、俺は誕生日を祝う風花の家族たちの横で眠っている犬に目をつけた。最後の三階層目では、風花と梵と俺の三人が眠っていた。俺は風花の夢に潜って、オリジナルの夢に到達した」

 駿河は敵意剥き出しで背後から僕を睨んでいる。実際に睨んでいるかどうかは後ろを振り返っていないから確認のしようがないけど、視線というものはどうやら本当に感じられるものらしい。駿河の言葉に内心動揺していたけど、僕は駿河からの度重なる言葉に、「そうなんだ」の一点張りで通した。駿河はおそらく、僕を動揺させてボロを出させようとしている。

 やがて駅に出て、酔いそうになる人混みをかき分けながら、待ち合わせの場所にたどり着いた。僕は顔を見たことのない待ち合わせ人を探そうと辺りを見渡した。隣では険しい表情をする駿河が、仁王立ちしている。

 相手の姿を知らないのだから探し出せるわけもないと諦めた僕は、大人しく向こうから声を掛けられるのを待つことにした。すると、お目当ての人物はすぐに僕に声を掛けてきた。

「あの、姫乃さんですか?」

 聞き覚えのある声がして振り返ると、窺うように僕を見ている少年が視界に映った。

「やあ、こんにちは。君が砂田審さんだね」

 僕は審の手を取り、握手を交わしながら言った。

「君の言った通り、僕が姫乃風花だよ」


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