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学校の脇の図書館  作者: 理科準備室
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やっと市立図書館に着いた

玄関から入ると右のほうに図書閲覧室に入るガラス戸があって、まず「宇宙旅行のひみつ」を返すならばそちらの方に向かうはずだった。

ガラス戸の向こう側の図書閲覧室は司書のお姉さんが図書の貸出や返却に応じるカウンターとそのまんなかに誰でも腰掛けて備え付けの雑誌や雑誌を読める一画があった。そこには冬になると暖房用の大きな石油ストーブが備え付けられるが、夏休みも近づいていた今は片付けられて大きな空きになっていて、その代わり、もう夏休みも近く、梅雨もかなり早く明けたために冷房が入るようになっていた。

そして、それをはさんで絵本や児童書だけ置いてあと小さな腰掛けや机が置いてある「子どもの場所」と一般書の書棚や学習用の大きな机や座って読むためのちょっとした椅子が置かれた「大人の場所」があった。この図書閲覧室の「大人の場所」に比べたら「子どもの場所」はずっと小さくて半分もなさそうだったけど、「子どもの場所」も教室のすみっこにある学級文庫はもちろん学校の図書室にくらべてもずっと読みきれないほどたくさんの本があった。「子どもの場所」と「大人の場所」との境界には直進できないように互い違いに白いロープが二本貼ってあって、そこを通り抜けないと入れないようになっていた。

「ここからさきにはいるには、おとなといっしょか、かうんたーのししょのおにいさん、おねえさんにいってね  あなみしりつとしょかん」

入口にはと書かれた紙が貼ってあるついたてが立っていた。つまり白いロープは子どもたちが勝手に入らないようにするためのものだった。

このロープから先の「大人の場所」の書棚は、小学生は高学年にならないと、自由に子どもだけでは入ることはできなかった。実際、そのロープで区切られた境界にはいつもすぐ近くのカウンターの司書のお兄さんやお姉さん の目が光っていた。

ぼくは一度「こどもの場所」でふざけて走り回っている一年生たちがロープの先に入ろうとしたのを見たことがあった。すると司書のお姉さんがたちまちカウンターから出てきて、一年生の腕をつかみ「ここから先は入っちゃダメ」と止められた。

それでも宿題の調査なんかで「大人の場所」にある本が必要な場合は親といっしょに行くか、カウンターにいる司書のお兄さんお姉さんにあらかじめ探す本を伝えると、いっしょに本を探してもらえることになっていた。ぼくも一人で市立図書館に寄ったときは、司書のお兄さんお姉さんに「大人の場所」にある本を探してもらうこともあった。

といっても、ぼくの読みたかったのは字がいっぱい詰まったような本当の大人向けの本でなくて、図鑑だった。親と来たときぼくはそこに昆虫や動物や星や人体や自動車など、学校にはない大人向けの豪華な図鑑があることを知っていた。

「宿題で大人の本のところにある図鑑を調べたいです」と言うと、「どんなのがいいですか」

とカウンターで言うと一年生の腕をつかんだのと同じ司書のお兄さん・お姉さんがぼくには親切に対応してくれた。おまけにぼく一人をその分野の本が置いてある書棚の前までわざわざ着いてきてくれた。田舎町で外食も遊園地も親がめったに連れてくれることのなかった小学生のぼくにとって見知らぬ誰かが何かをしてくれるというのはそれだけで珍しい体験だった。

そして司書のお兄さん・お姉さんに連れられて白いロープの向こう側に入ると、いつも本の糊の甘いにおいと、ロープのすぐ近くの学習用の机に座っているおじさんのポマードやタバコの混じった香りがした。それがこの市立図書館の「大人の場所」のにおいだった。対して「子どもの場所」の方は、これは中学生ぐらいになって気づいたことだけど、いつも乳臭いにおいがした。

そこから先はたくさんの書棚が並んでいた。図鑑のあるところに行くにはそれらの書棚の間を通っていかなければならなかった。どの書棚も小2のぼくどころか、たいていの大人よりも背が高くて、上の方の本を取るためのいすがあちこちに置かれていた。たぶんぼくがそのいすに上がっても上の本なんか取れそうもなかった。書棚のどれもがぎっしりと本が隙間なく並べられていて、まるで小さなぼくを取り囲み見下ろしているかのようだった。

しかも書棚と書棚の間に余裕がある「子どもの場所」にくらべたら、「大人の場所」の書棚と書棚の間は大人だったら一人が歩くのがやっとの感じだった。もともと狭い場所が苦手なぼくは、きっと司書の人についてきてもらわずにぼく一人で入ったら、書棚がぼくを目掛けて倒れてきて閉じ込められそうな気がして、そこを通るのが怖かった。

司書の人と図鑑がある書棚の間を歩いていると、ガラス窓を通して更に奥の別棟で、1メートルもなさそうな短い渡り廊下で本棟の図書閲覧室とつながっている書庫室が見えた。

書庫室は図書閲覧室よりずっと広くて、しかも学習用の机や椅子の類はなく、ただ書棚が並んでいるだけの部屋で、もちろん小学生は立ち入り禁止だった。ガラス窓を通して図書閲覧室さえこんなに読みきれないほどの本があるのに書庫にはまだこんなにたくさんの本があると思うとぼくは想像しただけで目まいがしてくるようだった。

目的の書棚につくと司書の人が「こういうのがいいの?」とぼくに図鑑を選んで手渡してくれた。手渡される図鑑はいつも大きくて子どもの手にはずっしりと重たかった。しかも、本を貸し出しの手続きをしないでロープの外に持ち出すのは禁止だったので「大人の場所」に置かれた大きな読書用のテーブルで大人たちに交じって読まなければならなかった。いすも本も大きくて漢字も難しくて読むのは大変だったけど、それを読むと、本当に間近で宇宙や星や珍しい昆虫や魚を見たような気がしてぼくは満足だった


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