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気まぐれから始まる話

想像もとい妄想から出来上がった恋愛もどきの話です。気まぐれでも読んでいただければ幸いです。

文芸部。本が好きな人たちが集まる場所。しかし、古谷(ふるや)よみ子が通ってる高校の文芸部は残念ながら部活参加必須の制度で仕方なく名前だけを置く場所になっていた。いわば幽霊部員の集まりである。古谷はこの事を好都合だと思った。

古谷は一人静に本を読む事が好きだった。だから彼女にとって誰もいない部室は最高の読書環境だった。朝の授業前、昼休み、放課後、あらやる学校の時間を授業ではない場合はいつも部室に来て本を読む。それが古谷よみ子の日常だった。


そして、ある日の放課後、古谷はまた文芸部の部室で本を読んでいた。意識は完全に本の世界に潜んでいた彼女だったが、扉が開いた音に無理やり現実に戻された。


「こんちはー」

「こ、こんにちは」

「うお。適当に挨拶しただけなのにホントに人がいた」

「あの、あなたは…?」

小野木(おのき)広都(ひろと)。2年。一応文芸部(ここ)の部員だ」

「せ、先輩ですか!?失礼しました!1年生の古谷よみ子です」


相手が上級者と聞いて古谷は慌てて席から立ち上がりお辞儀した。しかし小野木はそれを気にせず彼女が楽にできるように柔らかく流した。


「いいよ。最近いつも部室に来てる1年生がいると聞いたが本当だったんだな。俺も幽霊部員だからさ。だからそんな敬を払わなくてもいいって」

「はぁ…先輩はなぜ部室に…?」

「気まぐれかな…」

「そうですか…」

「しかし変だな…噂によればもっと…」

「先輩?」


ボソッと話す小野木に古谷は声をかけた。小野木はまたしても流した。


「あ、いや。こっちの話。それより読書の途中だったろ。邪魔して悪かったな。俺のことは気にしなくていいから続けてくれ」

「…はい。では…」


そうは言われたものの古谷は小野木から気をそらせなかった。密室、小野木が扉を開いたままにしていたからならないが、それでも異性と同じ部屋で二人きり、そして小野木は古谷にとって非日常なものであった。気にするに決まっていた。もとの姿勢に戻って本を開けても、目は勝手に小野木の姿をチラッと追う。

逆に小野木は古谷が本に集中していると思っていたのか、古谷の邪魔にならないよう音を気にしながら本棚を見ていた。


(読む本を探しているのでしょうか…)


古谷は小野木がどんな本を読むのか少し興味が喚いた。すると、小野木は本棚から一つの本を取り出した。それは、子供向けの冒険の物語であった。


「え…?」


そう、冒険物語の現代小説でもなく異世界冒険が有名なラノベでもなく、そしてかっこいい絵が載ってる漫画でもなかった。小野木が取ったのは夢溢れる子供向けの冒険物語の絵本であった。以外過ぎて、古谷は思わず声を出してしまった。


「ん?」

「あ、すみません。その…」

「ああ…こいつ絵本を読むなんてさすが幽霊部員だね、って思ってた?」

「ち、違います!そんなことは決して!絵本だって立派な文書ですし、奥深い所もあると思います!ですから、あの、ただ先輩が…」

「アッハハハ。冗談だよ」

「あうう……」


そう言って、小野木は古谷の反対側に座った。


「俺は好きなんだ。こういう単純で夢がある話が。読んでて楽しいんだ。こう言うと、やっぱ文芸部の部員としてはだめだよな」

「いいえ、そんなことはありません。どんな本でも誰かが読んで楽しんでいただければ書いた人もきっと喜びますから」

「書いた人ね…古谷はどう?話を書く方?」

「わ、私は…その…はい。で、でも…人に読んでもらっていい話では…ないと思います…」

「そっか。ま、作品というのは自分の心一部の結晶化みたいなもんだからな。人に見せるにゃ勇気がいるもんな」

「自分の心…」

「いつか古谷にも自分の作品を見せてもいい人と出逢えばいいな」

「あ、ありがとうございます」


そう言われて古谷は照れていた。小野木は一般的のつもりで言った。それは分かっていた。だが、自分が自己満足のために書いた話でもそこに自分の心があると言われてどうしても嬉しくなった。いつの間にか部室の中がうるさくなった。いや、これは自分の心臓の音だと古谷は気づいた。いたたまれなく古谷は自分の顔を本で隠した。小野木はそんな古谷の様子を気にせずまた席から立ち上がり声をかけた。


「俺ちょっとジュースを買ってくるわ。古谷は何がいい?俺おごるから」

「そんな…悪いです!」

「先輩の気まぐれはめったにないぞ。今のうちに甘えるのが世の中を生きる術の一つだぜ」

「…それじゃ…い、いちご牛乳でお願いします」

「オッケー。んじゃ行ってくらぁ」


小野木が部屋を出て今度扉を閉めた。足音が遠ざけるのを聞いて古谷はようやく息でかるかのように長い吐息した。それでも、頭は未だに小野木の事を考えていた。


(小野木先輩か…なんだか不思議な人…)


前触れもなく突然現れてこちらに気遣ってもらって、それでも自分には気をかけなくてもいいと彼は言った。その言葉には古谷は安心した。古谷は人に気遣うどころか、人とコミュニケーションを取るのが苦手だった。だから一人で本を読むのが好きだった。だから彼がこの空間にいきなり来た時に戸惑っていた。


(いいえ。元々ここは私個人の部屋ではなくて、部の部室だった。だから先輩や、他の部員が来てもおかしくないはず。今までは都合が良かっただけなんだ)


誰も来てくれないこの部室で自分勝手に使っていた。今までそれが古谷にとって当たり前だった。しかし実際に人が来た。気まぐれで来た。そんなのは予想もできなかったが、それでも文芸部の部室(ここ)が自分勝手に使える場所ではないのが古谷は実感した。


(いけない。もし今日()()()()()が来たら…)


古谷が考える最中に部室の扉が開いた。小野木が出てからまだそんなに時間が去ってない。だから小野木ではないと古谷は分かった。だから彼女は普段は歓迎する()()の到来に、今は浮かない顔になった。


「よみ子お姉ちゃん!」

「こら小百合(さゆり)。危ないだろ。ごめん古谷さん。この子どうしてもまた古谷さんに会いたいって」

「小百合ちゃん、よみ子ちゃんのこと大好きだからね〜」


男子生徒と女子生徒がそれぞれ1人、そしてまだ小学生の女の子が1人部室に入ってきた。生徒の2人は古谷のクラスメートであり友達だった。いつも独りでいる古谷を二人は気にかけてくれて、入学からまもなく3人は友達になった。1人で本を読むのが好きな古谷でも、寂しいと思うときもあった。そんな時に彼女に手を差し伸べたのこの2人であった。


(ひいらぎ)君…京子(きょうこ)さん…小百合ちゃんも…」

「あれ、古谷さんどうかした?なんだか元気がないんだけど…」

「なになに〜?どうしたのよみ子ちゃん?もしかして恵介(けいすけ)がまたなんかした?」

「なんで俺が悪い前提なんだよ…」

「いいえ。柊君は何も悪くないです。ただ…」


古谷はなんとか状況を説明しようとしたが、どう説明いいかわからず困っていた。それを小百合は不安にさせた。


「よみ子お姉ちゃんは、小百合が来て嬉しくないの…?小百合は迷惑…?」

「そんなことはありません!私はいつでも小百合ちゃんを歓迎しているよ!ただ、私以外の人は…」

「少し場を離れただけなのに随分騒がしくなったな」


部室の扉の方から男性の声が聞こえた。小野木が戻ってきた。柊と京子は知らない人の登場に困惑して、小百合は怖くなって古谷の後ろに隠れた。古谷は慌てて小野木に弁明した。


「すみません、先輩!この人たちは私の友達なんです」

「……」

「た、たまにはこうしてみんなが集まる場所としてこの部室を使っていました。私がいいと言ったんです。勝手なことしてごめんなさい!」

「いけないことをした自覚はあるんだね…」


小野木は低めな声で、古谷を叱るような雰囲気で言った。すると、柊と京子は古谷をかばうために身を出した。


「ちょ、ちょっと待ってください!事情はわからないけど、悪いのは古谷さんだけではないだろう!」

「そうよ!勝手に使ってたわたしたちも同罪でしょ!大体あんたは誰よ!?」

「お姉ちゃんをいじめるの、だめ…!」


いつもにか小百合までが、手が古谷の服を掴んで震えながらも小野木に立ち向かった。それでも小野木は動かずにいた。古谷は温かみを感じながら、友達を制した。


「柊君、京子さん、それに小百合ちゃん。ありがとう。でもそんなに突っかからないで。この人は部活の先輩ですから」

「古谷さん…それでも俺たちは友達だから、君にだけ責任を押し付けないよ」

「そうよ。大体先輩だって、この人もどうせ幽霊部員でしょ。全然部活に出ないのによみ子ちゃんを叱る資格なんてないからね〜」


それでもなお、古谷の友達は彼女の肩についていた。小百合もまた、自分の存在を主張するように、古谷の足に抱きついた。古谷は嬉しかったが同時に、小野木に申し訳なく思い彼にチラ見とした。すると小野木は呆れたように笑っていた。


「やれやれ。すっかり悪者になったんだな」

「いいえ、先輩。そんな…本当に申し訳ないです」

「なんてね。ま、大体はお友達さんのいう通りだけどね。だから、ほい」

「え…?」


小野木は古谷に袋を差し出した。中には何本かのジュースが入っていた。


「なんかこんな予感がしたんだよな。噂は文芸部の部室が賑やかになったと言うし。ま、これでみんなと楽しんどいて」

「そんな、先輩は…?」

「さすがにこんな空気で残れねぇからな」

「すみません…」


古谷は落ち込んだ。自分の勝手な行動にただ気まぐれに来た先輩が悪者にしてしまったのは本意ではなかった。そんな古谷を小野木は手を彼女の頭まで上げて、デコピンを入れた。


「痛い…」

「これでおあいこってことで。それに、別に勝手じゃなかったろ。部長にゃ話したんだからさ」

「あ…」

「やっぱりか。だったらなおさら俺がとやかく言うこったぁないぜ。こんな部だけど、活かしてくれるにゃ丁度いいよ。そんじゃなぁ」


そう言って小野木は自分の荷物と読もうとした絵本を持って出ていった。古谷は、もう落ち込んではいないが、心にモヤモヤが残っていた感じがしていた。


翌日に、古谷は小野木のことを文芸部の部長に話した。


「なるほど。確かにそんな頃合いだったね。ごめんね古谷さん。話すの忘れたわ」

「部長…頃合いというのは…?」

「小野木くんは確かに幽霊部員だけど、気まぐれなもので、特に決まらないタイミングで部室に顔を出しているの」

「決まらないタイミング……では次いつ来るか分かりません、ですか…」

「古谷さん…小野木くんに会いたいの?」


古谷は独り言のつもりが、部長に聞こえてしまい、慌てて顔が赤くなって誤魔化そうとした。何を誤魔化すかも自分でもわからないままに。


「いいえ!そういう意味ではなくて!ただ…やはり悪いことしたと思いまして…」

「…彼のクラスに、ってのはあなたには難儀ね。確か本を持って帰ったよね?でしたら、それを返すために今月中にはまた部室に顔を出すと思うよ」

「そうなんですか!あ、えっと、で、では私お詫の準備をしないと…」

「…あいつも罪な男だね…」


それから更に数日、古谷は毎日ソワソワしながらいつもの部室に本を読んでいた。しかし、いつもよりは内容が全く頭に入れなくてなかなか進んでいなかった。すると、部室の扉が開いた。古谷は期待した顔で扉の方に向けると、


「よみ子お姉ちゃん。また来たよ」

「小百合ちゃん…京子さんと柊君は…?」

「兄上たちはせいと、かい?のお仕事だから来れないの…」

「そうですか…」


登場したのが待っていた人物ではなかったことを知って、一瞬表情が暗くなった古谷だが、小百合に不安をさせないためにすぐに笑顔に戻った。しかし残念なことに子供は気持ちの変化に鋭いものであった。


「お姉ちゃん、どうしたの…?なんだか悲しそう…」

「…ありがとう小百合ちゃん。心配してくれて。でも大丈夫よ。ただ…待っている人が来ていないから少し不安になっただけよ」

「よみ子お姉ちゃん…」


小百合は落ち込んでいる古谷に元気をつけたくて必死に考えた。そして思い浮かべてのは古谷が好きな本、そして自分が話を読んでとても勇気をもらった本。


「ねえねえ、よみ子お姉ちゃん。絵本を読んでちょうだい」

「絵本?ええ。いいけど、どんな話なの?」

「えっとね、『ゆうかんな少年とまほう使いのぼうけん』!」

「え…」


タイトルを聞いて古谷は絶句した。なぜならそのタイトルは小野木が借りだした本であった。


「ごめん、小百合ちゃん…その本は…」

「ほい。ここにいるよ」


申し訳なさそうに事実を言おうとする古谷に、別の声が重なった。古谷は驚きそして声がする方に振り向いた。そこには小野木の姿が見えた。


「よ。本を返しに来た」

「先輩…!」

「ああ!この前よみ子お姉ちゃんをいじわるした人だー!」


小百合も小野木に気づいて古谷を守ろうとするようにすぐに彼と古谷の間に移動した。


「はっはっは。まだ警戒されてるな」

「ごめんなさい先輩!小百合ちゃん、もういいよ。この人は悪い人じゃないから」

「わるい人じゃあない…お姉ちゃんのこと、いじわるしない?」

「しませんよ。以前、悪い子だった私を叱ってくれただけなんです」


笑顔を浮かびながら古谷は小百合をなだめていた。そんな古谷の顔を見て小百合は本当のことだと分かって、今度は古谷の足にしがみついて自分の身を隠した。


「やれやれ。魔法使いリリーみたいなお嬢さんだな。普段は内気なのに友達の少年のためなら勇気を出せる。優しい少女だこと」

「あ!『ゆうかんな少年とまほう使いの冒険』に出た…!」

「おう。確か読みたかったな。ほら、古谷」

「は、はい…」


小野木は古谷に絵本を差し出したが、古谷はぎこちなく返事して本を取るのにためらっているようでいた。小野木は実は古谷と小百合の会話を聞いていて、古谷の考えをなんとなく察していた。


「と、その前にもう一度読むか。音読するから、よければお嬢さんと聞いてくれるか?古谷」

「え、ええ…」

「読んで、くれるの?」

「おう。今までの冒険とひと味違うぜ。心をしておけ」

「先輩…いいんですか…?」

「ま、今はそういう気まぐれだ」


また気まぐれと古谷は思った。人の気持ちはそんなに軽く揺られるものでしょうか。古谷は小野木の考えることはまるでわからないでいた。それでも小野木は気まぐれと言いながらいつも適当ではなくちゃんとしていた。そして今回も、小百合を自分の膝に乗せて抱きながら聞いた小野木の音読は、心を奪うものだった。

ナレーションの部分は落ち着いてやや低な声で詠んでいると思ったらセリフの部分はそのキャラの感情を表せるように演技が入った声で表現した。小野木の声を聞いていた古谷と小百合はまるで絵本のすべての出来事を目の当たりにしているように、物語の進歩につれて気持ちが左右されていた。そして、物語が終わった頃には、小百合はもう小野木への警戒心を忘れていた。


「すごいすごい!ゆうかんな少年からほんとうに勇気をもらった気がする!それに、そんな少年もじつは怖いとおもってるの今まで知らなかった…ねえねえ!他の話も読んで!」

「頼んじてもらえて光栄ですよ。お嬢さん」

「先輩…本当にすごいです…」

「これでも文芸部だからな。なんちゃって」


またしも軽く流す小野木。しかし、古谷は小野木の音読を聞いて少し分かった気がした。小野木の気まぐれさは、自分の気持ちに素直になった結果だと。そういう気持ちになったからそうする。その行動には周りを気にする圧が感じていないから軽く見える。しかし、その行動には確かに芯があった。じゃなかったら、他人が書いたその物語をこんな感情豊かに語れるはずがなかった。だから、自分ももう少し自分の気持ちに、そして相手の気持ちに向き合えばいいはずた。


「先輩。先日はごめんなさい。先輩を悪者にしてしまったのは不本意でした」

「ああ。ま、俺の態度もいけなかったと思うからな。気にするな」

「ありがとうございます。それと、次に読む本ですが、この本を読んでいただけないでしょうか?」


古谷が差し出した本は、絵本ではなくスケッチブックであった。小野木は何も言わず、それを受け取って中身を見た。そして理解した。理解して、古谷に質問した。


「なるほど。で、どうしてこれを?」

「なんでか、今それを先輩に読んでもらいたい気分になりました。つまり、気まぐれです」

「そうかい。ならその気が変わらんうちに読んでもらおっか。喜べお嬢。今回はまだ誰もが知らない、ようやくその気になった少女の物語なんですぜ。きっと良い話になるぜ」


こうして、気まぐれから始まった物語が始動した。

小野木「うん。話はいいな。話は。ただ絵は…」

小百合「お姉ちゃん…このネコ?こわいよ…」

古谷「あうう…なんだか今見せてるのが後悔してる…」

小野木「ま、こいう時もある。次頑張れ」

古谷「また先輩は軽く言うんですから…こうなったらとことん付き合ってもらいますからね…部室に来なかったら先輩のクラスにカチコミするんですから…」

小野木(なんか変なスイッチが入れてしまったな。ま、いっか)

小百合「小百合も次を読みたい…!」

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