第四十四話
日独英の艦隊決戦の終結です。
―――戦艦ビスマルク―――
「こ……此処にきて自由イギリス艦隊だとォッ!!」
ビスマルクの艦橋でウェルナーは思わず叫んだ。
「ナガト型も片付いていないというのに……」
ウェルナーは壁に右拳を叩きつけた。
「敵自由イギリス艦隊が砲撃してきますッ!!」
ヒュルルル………ズガアァァァーーンッ!!ズシャアァァァーーンッ!!
プリンス・オブ・ウェールズ以下の戦艦から次々と砲撃が開始された。
自由イギリス艦隊の砲撃目標は、ドイツ艦隊旗艦ビスマルクだった。
ビスマルクは集中砲撃で一番砲搭が破壊されて砲撃不能になり、左舷の前部十五センチ副砲が吹き飛ばされた。
「ガハァッ!!……はぁ…はぁ…おのれぇ……自由イギリス軍めぇ……」
ビスマルクの防空指揮所でビスマルクは口から血を吐きながらも、戦意は衰えてはおらず、自由イギリス艦隊を睨む。
「ただでは死なんッ!!貴様らもろとも暗い海底に引きずり込んでやるッ!!」
ズドオォォォーーンッ!!
ビスマルクの叫びと共に三十八センチ砲が自由イギリス艦隊に火を噴いた。
―――自由イギリス軍旗艦プリンス・オブ・ウェールズ―――
「全艦撃って撃って撃って撃ちまくれェッ!!」
プリンス・オブ・ウェールズの艦橋でロレンス中将が吠えていた。
「我等の宿敵は目の前だッ!!ビスマルクを狙えッ!!」
ヒュルルル……ズガアァァァーーンッ!!
「ぬぅッ!!」
命中の衝撃で艦体が揺れる。
「被害を知らせろッ!!」
「右舷両用砲被弾ッ!!」
直ぐ様被弾報告が来た。
「レナウン、艦橋に命中弾ッ!!」
「何ッ!!」
ロレンスはレナウンを見た。
レナウンには砲弾一発がレナウンの艦橋に直撃していた。
勿論、艦長以下艦橋にいた全員は戦死である。
それでも後部艦橋にいた副長は無事だったため、副長が指揮を継いでレナウンを後退させた。
「……あれだけ日本軍が痛めつけたのにまだ粘る力があるのかドイツ艦隊は……」
ロレンスは悔しそうに呟いた。
しかも、レナウンの後退で自由イギリス艦隊の士気はある程度、低下した。
ドイツ艦隊はそれを察したのか、続けざまに自由イギリス艦隊へ砲撃を加えていく。
だが、ドイツ艦隊はある事を見逃していた。
「敵駆逐艦接近してきますッ!!」
それは日本の水雷戦隊だった。
ドイツ艦隊は自由イギリス艦隊が現れるまで水雷戦隊を砲撃しておきながら完全に失念していたのだ。
「砲撃目標を自由イギリス艦隊から日本の水雷戦隊に変更しろッ!!奴等が魚雷をぶちこむぞッ!!」
ウェルナーは叫ぶ。
戦艦の主砲が急いで木村少将の水雷戦隊に照準を変更するが全て遅かった。
「砲撃開始ッ!!」
ズガアァァァーーンッ!!ズシャアァァァーーンッ!!
ウェルナーが叫んだと同時に長門から放たれた四十六サンチ砲弾がビスマルクの艦橋に命中。
ウェルナー以下艦橋にいた全員が戦死したのは勿論であるが、水雷戦隊が放った六十一センチ酸素魚雷も命中していた。
ドイツ艦隊の各戦艦は二、三発の魚雷が命中した。
ドイツ艦隊の巡洋艦や駆逐艦は炎上した戦艦を助けようとするが、長門以下戦艦群からの砲撃に止められてビスマルク達を助ける事が出来なかった。
ドイツ艦隊水雷戦隊司令官エルリッヒ・シュミット少将はドイツ艦隊の不利を悟って戦場からの離脱を決意してドイツ残存艦隊は撤退を開始した。
宇垣中将は逃げるドイツ残存艦隊の追撃は中止して、炎上しているビスマルク以下戦艦群の消火活動と乗組員の救助を始めて降伏勧告をした。
指揮官を失ったドイツ戦艦群は降伏勧告を受諾した。
自由イギリス艦隊のロレンス中将は何故消火活動と乗組員の救助をしているのか長門に問い合わせると直ぐに返信が来た。
「四隻を曳航して我々が使うのだ」
この返信にロレンス中将は思わず納得してしまった。
ドイツ艦隊がぼろ負けをして、捕獲したドイツ戦艦がドイツ艦隊に火を噴く。
味方の士気は上がるし、向こうは下がる。
ロレンスはこのように思ったが、実際は新型艦を作るのに何年もかかるから拿捕してしまおうというのが宇垣中将の考えでもあり司令部の考えでもあった。
それから両艦隊は消火活動が終わった四隻の曳航準備を始めた。
なお、日本側の戦利艦はビスマルクのみ。
艦艇事情が危険な自由イギリス艦隊に残りの三隻を渡したのである。
「………惨めなものだ。数年前はイギリス艦隊の艦魂を降伏させたのに今度は自分がそれになるとはな………」
長門の第三会議室で包帯が巻かれたビスマルクの艦魂であるビスマルクが笑う。
「戦争は運だ。殺しあいである戦争にあるのは意味ではなく運だ。ビスマルク、貴官が生き残ったのも運なのだ」
ビスマルク同様に、身体中に包帯を巻いている金剛が言う。
「………そうか」
ビスマルクは長門に向き合い、身体が痛いのを無視して長門に敬礼をした。
「ドイツ艦隊旗艦ビスマルク。これより大日本帝国海軍の一員となり、命が尽きるその日まで戦い抜く事をここに誓う」
「………戦艦長門、了解した。共に日本のために戦おう」
ビスマルクの誓いに長門は敬礼で答えた。
「……まぁ、案外早く終わるかもしれないな」
「どういう事だ?」
金剛の呟きにビスマルクが金剛に質問をする。
「セイロン島奪還作戦は日英の合同だが、我が日本は独自の作戦を展開している」
金剛は世界地図を持ってきた。
「ソ連は既に無く、我が日本軍の勢力範囲はノヴォシビルスクだ。そこに我が軍の最新鋭重爆撃機富嶽が十八機いる。これの航続距離は約一万五千だ」
金剛はノヴォシビルスクから線を書いて、ある場所に止まった。
「そ、そこはッ!?」
場所を見たビスマルクは唖然とした。
「ノヴォシビルスクから出撃すると充分に帰ってこれるのだよ………ベルリンからな」
金剛はニヤリと笑った。
そこから導き出される答えはただ一つ。
「……ドイツ本土爆撃だ」
金剛はビスマルクにそう言った。
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