第四十話 被弾
遂に日本空母が被弾。
「敵機直上ォォォッ!!急降下ァァァーーーッ!!」
加賀の見張り員が叫んだ。
「取舵一杯ッ!!」
少将であるのに、加賀艦長をしている岡田次作少将は指示を出す。
ググゥッと加賀の艦体が右に傾斜をして曲がるが、幾分加賀は大正時代に竣工している老齢艦であるため舵の具合は悪かった。
加賀が保有している十二.七センチ高角砲や二十五ミリ三連装対空機関砲が必死に仰角を上げてスツーカに狙いを定めて撃ちはじめる。
しかし、慌てて撃っていては当たらない。
「総員衝撃に備えろォッ!!」
岡田はそう言うと、隣にいた艦魂の加賀を抱きしめた。
「次作さんッ!?」
加賀はいきなりの事に顔を赤くした。
その時、急降下をしていた先頭のスツーカは腹に抱えた二匹五十キロ爆弾を切り離して離脱した。
それに続いて列機の六機も二匹五十キロ爆弾を切り離して離脱をする。
ヒュウゥゥゥーーンッ!!
ヒュウゥゥゥーーンッ!!
爆弾は二発は外れたが、残りの五発は加賀の飛行甲板に叩きつけた。
ズガアァァァーーンッ!!
ズガアァァァーーンッ!!
「ガアァァァァァーーーッ!!」
加賀は岡田に抱きしめられていたのに、全身から血が噴き出して左腕が飛んだ。
「被害報告ッ!!」
岡田は服に血がついているのを無視して加賀の服を破って止血をする。
「報告ッ!!前部飛行甲板に爆弾二発が命中ッ!!中部エレベーターに爆弾一発が命中ッ!!中部エレベーターは破壊されて使用不能ッ!!左舷四番高角砲と後部飛行甲板に爆弾一発ずつ命中ッ!!左舷四番高角砲員は全員戦死ッ!!左舷三番高角砲は砲員損傷のために使用不能ッ!!」
伝令が報告をしてきた。
「消火急げッ!!駆逐艦からも放水をしてもらうんだッ!!」
「ハッ!!」
伝令は通信室に向かう。
「落ち着いて消火をしろッ!!そう簡単に加賀は沈まんッ!!」
岡田の言葉に慌てていた艦橋要員も冷静になりはじめた。
―――旗艦信濃―――
「加賀が被弾しましたッ!!」
「……油断していたか……」
山口多聞は悔しそうに拳を握りしめる。
「加賀の被害状況を報告せよ。敵機は攻撃を継続しているのか?」
「敵攻撃隊は既に引き上げています」
古村がそう報告する。
「……………」
山口は無言で頷いた。
―――戦艦長門―――
「宇垣司令官。旗艦信濃より電文です」
「うむ」
宇垣は頷いて通信紙を受け取る。
「信濃は何と?」
参謀長の松田千秋少将が宇垣に聞く。
「……空母部隊がドイツ機の攻撃を受けたみたいだ。空母加賀が被弾したらしい」
「加賀が………」
宇垣の傍らにいた艦魂の長門が呟く。
「大丈夫だ長門。加賀は急降下爆撃を受けただけらしく、沈む気配は無いぞ」
宇垣は安心させるように長門に言う。
「……ならばいいのだ。将も心配だが……」
長門は小さく呟く。
「長官。索敵機を出して敵艦隊の位置をもう一度特定しますか?もしかしたら逃げられる可能性もあります」
松田少将は宇垣に意見具申をする。
「ふむ………。瑞雲を出して索敵させよう」
「分かりました」
そして長門と山城から瑞雲偵察機が一機ずつ発艦をしてドイツ艦隊を探し始めた。
―――ドイツ艦隊旗艦ビスマルク―――
「ウェルナー司令官。フリード長官より入電です」
「うむ」
ウェルナーは通信紙を受け取り、中身を見るがグシャッと丸めた。
「……言われなくても分かっている」
通信紙には「貴官の任務を全うせよ」と書かれていた。
「所詮、沈んだフランクフルトはイギリスの技術だ。我々ドイツ軍の戦艦はそう簡単に沈みはしない」
ウェルナーはニヤリと笑ってビスマルクの前部主砲を見た。
ウェルナー少将の戦艦部隊は第二次攻撃隊がフリード長官の空母艦隊に到着するまでに分離をしていた。
「……いつまでも日本軍のターンではない」
ウェルナーはそう言った。
しかし、彼等が進む先には宇垣中将の戦艦部隊がいたのであった。
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