第三十六話 旭日旗の攻撃
彩雲に発見されたドイツ艦隊は自由イギリス海軍の第一機動艦隊から三百キロ、日本海軍第二機動艦隊からは四百キロの地点にいた。
―――旗艦マンフリート・フォン・リヒトホーフェン―――
「長官、敵偵察機を取り逃がしたとの事です」
航空参謀が報告する。
「奴らの偵察機は我々が予想していたよりもかなり速かったらしいです」
「……やはり」
航空参謀の報告に参謀長のジョゼフ・トリンタス少将が口を開いた。
「日本製兵器に関しての情報の不足はかなりの痛手でしたな……」
「……それはやむを得ない事だ」
トリンタスの言葉にフリード長官はゆっくりと口を開く。
「長官、攻撃隊が帰還します」
第一機動艦隊攻撃に向かっていた攻撃隊が帰還してきた。
「損害は?」
「攻撃隊一七八機中、撃墜は四九機、被弾損傷は三八機になります。撃墜の半数は日本戦闘機からなります」
「……………」
航空参謀の報告にフリードは無言で頷いた。
「かなりの痛手ですな……」
「ですが、航空隊の士気は旺盛です。日本軍など撃ち破ってみせますッ!!」
航空参謀が興奮しながらフリードに言う。
「だが油断は禁物だ。なにせ、奴らは空母運用には我々より上だからな」
ドイツ東洋艦隊はイギリス海軍から接収した空母インプラカブル型四隻、小型空母二隻を中心とし、戦艦はビスマルク、ティルピッツ、シャルンホルスト、グナイゼナウの四隻。
巡洋艦七隻、駆逐艦二十隻、イタリア海軍から派遣された巡洋艦四隻がいた。
「日本機はこちらのフォッケウルフよりも行動半径が広い。悪く考えれば我々の艦隊も日本機の行動半径に入っている可能性があるな」
「では作戦Bでよろしいですな?」
トリンタスがフリードに確認する。
「うむ」
作戦Bはセイロン島にいる味方爆撃機の行動半径に敵艦隊を誘い込み、共同攻撃をする作戦であった。
しかし、幸運の女神はフリードに味方しなかった。
『レーダーに反応ッ!!敵攻撃隊と思われますッ!!』
レーダー室からの報告にフリードは目を見開いた。
この時、ドイツ東洋艦隊に襲い掛かろうとしていたのは遣印艦隊から放たれた攻撃隊一四四機であった。
制空隊の零戦と陣風は彗星と天山の上空を守り、彗星は胴体内爆弾倉に五百キロ徹甲爆弾を搭載し、天山は九一式航空魚雷を搭載していた。
そして彗星は徐々に高度を上げ始め、天山は徐々に高度を下げつつあった。
―――旗艦マンフリート・フォン・リヒトホーフェン―――
「……日本機は想定以上の行動半径のようだな……」
フリードはそう言いつつ、航空参謀を見る。
航空参謀は答えづらそうにしていたが、口を開いた。
「既に十二機の迎撃機を上げています。新たに発艦させられる迎撃機は六隻のカタパルトを使っても五十機ほどです」
「航空攻撃はこれ程損耗の戦いとはな……」
フリードは知らず知らず冷や汗を流していた。
フリードは焦っていた。
もし、日本の攻撃隊がこれだけではなく、既に第二次攻撃隊を発艦しているとしたら……。それに空中戦の被弾損傷機の大半は日本機との空中戦によるものだと改めて報告されている。
そこから導き出される一つの解答があった。
それは………。
「ヤツらは強いのだ………」
フリードはそう呟いて拳を握りしめた。
その感じる痛みは日本軍を甘くみすぎた自責の痛みであった。
―――橋口機―――
「後方より敵戦闘機ッ!!」
機銃手が叫んだ。
「全機固まれッ!!弾幕射撃だッ!!」
ダダダダダダダッ!!
天山隊が固まり、十二.七センチ旋回機銃が火を噴いた。
「当たるかッ!!」
ダダダダダダダッ!!
天山隊に近づいたフォッケウルフが最後尾にいた天山に機銃弾を叩き込んだ。
ボウゥッ!!
左翼から火を噴いた天山はスパイラル回転をしながら離脱していく。
「くそッ!!」
橋口が罵倒した時、フォッケウルフが火を噴いた。
「なッ!?」
それは千歳の零戦隊だった。
『此処は任せろッ!!』
千歳隊の零戦パイロットは橋口にそう言って迫り来るフォッケウルフに向かった。
「……スマン。ト連装を打てッ!!」
橋口は通信手に言った。
橋口の目の前には敵ドイツ艦隊がいた。
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