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第三十二話 接触

久しぶりの投稿です。





―――1944年10月20日、カナダ首都オタワ―――


自由イギリス政府首班のウィンストン・チャーチルはテーブルに置かれたティーカップを見ていた。


中東はドイツ軍の猛攻にさらされていた。


しかし、オーストラリア、ニュージーランド、インドの歩兵部隊、そしてカナダの戦車師団が到着したことで辛うじて戦線を維持していた。


「……それも何時まで持つか……」


チャーチルは窓の外を見ると、空は曇りだった。


それはチャーチルの不安を空が表したのかもしれない。


「冷めてしまいますよ」


不意に声をかけられる。


部屋のソファーに一人の男が腰おろしてティーカップを持ち上げていた。


「貴重な物なんでしょうこれ?」


男は香りを嗅ぎ、カップを口につけた。


「……美味い。それに暖まる……」


チャーチルはそんな男に一瞥をして、自分もソファーに重々しく腰をおろす。


そして自分のカップに口をつける。


「………美味い……」


チャーチルはそう呟いて、傍らにあったバランタイン・スコッチの瓶を取った。


そして栓を開けると、カップの中に注ぎ込み、濁っていく。


「あぁ……」


男が溜め息を漏らす。


「勿体ないですよ。最後のセイロン茶になるかもしれないというのに……」


「なに、ちょうどいい」


チャーチルはフンと鼻を鳴らしながらカップを取り上げた。


「この酒は、セイロンに加えられた異分子だ。鉤十字ハーケンクロイツというな」


男肩を竦め、もう一度セイロン茶を啜った。


セイロン島は今や鉤十字の旗が靡く敵地となっていた。


「カニンガム提督にはいくら感謝してもしたらぬよ。第一機動艦隊をシンガポールへ退避させ、地上兵力の大半をペルシャ湾岸へ送り込む時間を与えてくれた……」


カニンガムの艦隊はドイツ艦隊に出血を強いる事に成功した。


決死の突撃を敢行した巡洋艦と駆逐艦による雷撃は軽巡ニュルンベルクを大破させ、駆逐艦四隻を仕留め、更には巡洋戦艦グナイゼナウを中破させる結果を生んだのだ。


「ですが、ロレンス提督の第一機動艦隊をシンガポールに退げて本当によかったのでしょうか?」


「噂話を広める事が仕事の君には分からんだろう」


チャーチルはセイロン茶とスコッチが五対五で淀んでいる液体に口をつけた。


「今や……口に出すのも忌ま忌ましい事だが我が自由イギリスに残された最後の海上兵力が第一機動艦隊だ。セイロン島は奪還する機会もあろうが、艦艇はそうはいかん。我々の今の造船能力では戦艦や空母は早々建造は出来んからな。よくて軽巡くらいまでだろう」


「艦隊保全主義……というやつですか?」


男の言葉にチャーチルは頷く。


「決戦を挑めば、第一機動艦隊の犠牲と引き換えにセイロン島は防衛出来たかもしれん。だがそうなればヒトラーは別の艦隊を……ハウやデューク・オブ・ヨークで艦隊を編成して送り込んでいただろう。その時にセイロンを防衛出来る戦力が第一機動艦隊に残っていたと思うかね?」


男はかぶりを振った。


「ですが、ますますフリッツ野郎を増長させてしまったようで……」


男はテーブルにあった新聞を取り上げた。


新聞の一面には次のような見出しがあった。


『アメリカ合衆国、ドイツ第三帝国との間に不可侵条約を締結』


『リスボン条約はアメリカを戦争から遠ざけた』


記事には両国が互いの領土に干渉しない旨と、どちらかが第三国と戦争状態に突入した場合でも一方は中立を維持する旨が詳しい解説付きで報じられていた。


それはアメリカは最早味方になりえないとの宣告にほかならなかった。


「君達の仕事である世論操作も無理だろうなヴォイジャー君」


男……ヴォイジャーのコードネームを持つスパイは顔をしかめた。


「アメリカの同業者の殆どはFBIに逮捕されるか国外追放されてますよ」


「だろうな」


チャーチルは苦笑した。


「しかし、自由フランスもあてには出来ませんし、自由イギリスはどうなるんですか?」


「……意地悪みたいだなヴォイジャー君。一つだけ当てはあるんだよ」


「ほぅ、何処ですか?」


チャーチルはスコッチが八割となっていたセイロン茶を飲み干し、唇を歪めたような笑みを見せた。


「……日本だよ……」








御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m

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