第二十一話 ウラジオストク
―――1942年3月28日、ウラジオストク沖約三百五十キロ―――
第二機動部隊は対潜、対空警戒をしながらウラジオストクに向けて航行していた。
―――旗艦信濃―――
「角田さん、攻撃隊の準備はどうなってますか?」
山口多聞中将は海兵の先輩である第二機動部隊参謀長角田覚治中将に尋ねる。
「全機発進準備完了だ。いつでも行ける」
角田が山口に言う。
「……攻撃隊発進せよ」
山口はただ一言だけ発した。
信濃から発光信号が飛び交い、飛行甲板に整列していた艦載機のプロペラが次々と回りだした。
「行くで」
零戦の操縦席にいた将が呟き、ブレーキを離す。
零戦は飛行甲板を蹴って大空に舞う。
攻撃隊の陣容は零戦五四機、九九式艦爆六三機、九七式艦攻六三機である。
半数近くは信濃からの攻撃隊で、零戦十八機、九九式艦爆二七機、九七式艦攻二七機が発進している。
他の空母は一個中隊ずつの発進である。
「……………」
防空指揮所で艦魂である信濃はただ無言で水平線に消えゆく攻撃隊は敬礼で見送った。
―――ウラジオストク―――
「対空砲撃てッ!!」
ドンドンドンドンッ!!
ソ連軍の対空砲がウラジオストクに飛来した攻撃隊に向かって対空砲弾を放つ。
「……おいおい、陸さんが三回くらい叩いたて言わなかったか?」
零戦二二型の操縦席で将が呟く。
『恐らく飛行場を集中攻撃したんじゃないのか?』
セイバーが無線で言う。
『かもな〜』
華牙梨がため息をつく。
『隊長。2時の方向から敵機です。数は約三十余り』
由真が報告する。
「よし、田平と菅原の中隊は攻撃隊を支援。残りは俺に続けッ!!」
将が2時の方向に向かう。
―――高橋赫一少佐機―――
「全軍突撃せよッ!!」
高橋の言葉に後部座席にいる野津特務少尉がト連送を打つ。
『トトト……』
高橋は操縦桿を倒して急降下に入った。
高橋が狙ったのは軽巡カリーニンである。
ダダダダダダダダダッ!!
グワアァァァンッ!!
「七番機やられましたッ!!」
野津特務少尉が高橋に報告する。
しかし、高橋はカリーニンだけに一点集中している。
対空砲火で機体が揺れる。
「高度六百ッ!!」
「撃ェッ!!」
野津の報告を聞いた瞬間、高橋は投下索を引いた。
爆弾アームから二百五十キロ爆弾が外れ、重力に従いカリーニンに向かって落ちていく。
ヒュウゥゥーンッ!!
高橋は急上昇のGに耐えながら振り返ると、投下した二百五十キロ爆弾が一番砲搭と二番砲搭の間に命中して閃光が起きた。
ドガアァァァァンッ!!
カリーニンの一番砲搭は爆弾の衝撃で旋回不能に、二番砲搭は砲門を折られてこれも使用不能になった。
そこへ中隊の後続機が次々と爆弾を投下した。
三発は至近弾となったが、四発が命中してカリーニンは大破した。
高橋は高度三千まで上昇する。
湾内にいたソ連北太平洋艦隊の艦艇群は無傷の艦はなく、全艦が猛火に包まれていた。
「隊長、水平爆撃隊の爆撃が完了しました」
水平爆撃隊を見ていた野津が高橋に告げる。
水平爆撃隊はウラジオストクとナホトカの飛行場を叩いていた。
「よし、全機帰投せよ。後は金剛と榛名に任せる」
攻撃隊は帰還した。
翌日、ウラジオストク沖に展開した戦艦金剛、榛名による艦砲射撃が開始された。
ズドオォォォォォーンッ!!
ズドオォォォォォーンッ!!
金剛と榛名はウラジオストクとナホトカに砲身を向けて紅蓮の炎を発していた。
毎回発射される十六発の砲弾は、ウラジオストクとナホトカの防御陣地を薙ぎ払っていく。
金剛と榛名が砲撃をする中、八個師団を乗せた輸送船や揚陸艦が護衛の駆逐艦の元、ウラジオストクの港に接舷して次々と兵士や野砲、戦車を吐き出す。
ここで金剛と榛名の砲撃は中断してしまうが、それをカバーするように空母から飛び立った攻撃隊が艦砲射撃から生き残った防御陣地や砲台に爆弾を投下していく。
ヒュウゥゥゥ……。
ズガアァァァァァーンッ!!
爆弾の衝撃で、ソ連軍兵士の肉片を撒き散らす。
首、手足等が衝撃で次々と飛ばされる。
「今だッ!!全軍突撃ィィィーーーッ!!!」
『ウワアァァァァァァーーーッ!!!』
ある連隊長の突撃の命令に日本陸軍の兵士達は雄叫びを上げながら突撃する。
ウラジオストクやナホトカを守るソ連軍は日本陸軍の突撃に怯え、ついに各戦線で兵士達の逃走が始まった。
ソ連軍の高級士官が叱咤しようにも、完全に戦意を喪失した兵士達は聞く耳を持たなかった。
一日の交戦後、各要所は占領した。
至る所に日章旗が靡かせる。
『万歳ーーーッ!!万歳ーーーッ!!万歳ーーーッ!!』
また、それに合わせて兵士達の雄叫びが聞こえてくる。
3月31日、ウラジオストクとナホトカは完全に日本軍が占領した。
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