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嵐の前の静けさ?

ちゅんちゅんと、小鳥の囀る音がする。

窓から差し込む朝日がキラキラと眩しい。

なんて良い目覚め!ああ、よき日!

さすが王宮といったところか。一人で使うには有り余るくらいの大きなベッドに大の字でダイブをする。

こんな良い部屋まで用意してもらって、イシュネ様には頭が上がりませんわね。

それに良質なベッドで眠ったからか回復が早い。

ふんふんと上機嫌で鼻歌を歌っていたところに、コンコンと扉が叩かれた。



失礼しますと侍女が入ってくる。

イシュネ様から、仰せつかったのだとリリアンヌの身だしなみを整え始めた。

まあ至れり尽くせりですわね。

手際の良さも一級品で、あれよあれよと言う間にリリアンヌはドレスアップしていた。


「とてもお美しいですね、リリアンヌ様」


ありがとうと返すと、

にっこりと笑顔を浮かべて侍女が言う。


「本当に、おめでとうございます」


「え?ええ」


ん?と違和感を覚える。

すぐに、ああそうか、イシュネ様もこの婚約破棄を望んでいらっしゃったのだから、ここはおめでとうございますなのよね。と、納得するも


すぐに頭の中でその考えは消えた。

いえ、王子は私に振られて傷心するというシナリオですのよ?

なぜ、おめでとうございますなの?


なにか勘違いしているのかしら。

まあ、いち侍女の言葉、深く考える必要もありませんわね!

だってもう数時間後には自由の身ですもの!


そんなことを考えていたら、またコンコンと扉が叩かれた。


失礼しますと言う声に振り向くと、そこに正装に身を包んだ従者がいた。

視線が交わり、あまりの変わりように目を見開く。

従者は涼しい顔で目を細めて笑った。


「おはようございます、お嬢様。とてもお綺麗ですね」


「おはよう。カルマも随分と雰囲気が違うわね」


「似合ってます?」

「ええ、とても・・!」


カルマにここまでのポテンシャルがあったなんて。

というか、従者にまでこんな正装を用意していただいて、ちょっと気が引けてしまうのだけど。

だけどまあこれが最後なのだし、ありがたく思っておこう。


ふいにお嬢様、とカルマが呼んだ。

なによ改まって、と言おうとして、従者の言葉に遮られる。


「これで、ようやく終わるんですね」


その一言にリリアンヌは心の内の喜びを爆発させた。


「ええ・・!ようやくよ!ほんとうにほんとうに・・長かったわ」


何年間戦ってきた?やっと婚約破棄できる。こんなに嬉しいことはない。カルマには今回だけじゃなく、これまでも随分とお世話になったものね。ううっ・・感慨深いわ・・。いえ、泣くのはまだ早いわね。サージャン家に帰ったら祝杯をあげましょう!心の中でガッツポーズをする。


「おめでとうございます」

先に言っておきますね、と柔らかく従者が笑う。

カルマが言うとしっくりくる。


「ありがとう、カルマ。あ!そうそう、貴方の基本給を上げるようにお父様に言っておくわ」


「・・感謝します」


「なんてことないわ!」


本当に、長年の夢だった婚約破棄出来るのだから、なんてことはないのだ。

むしろもっともっと何かしてあげたいくらいなのに。


「良かったです。もう二度と台風のようなお嬢様に振り回されなくて済む」


前言撤回いい!

こんな時に毒づかなくてもよくってよ!

言い返そうと、口を開く。



「僕の婚約者だよ?もっとかわいい表現をしてくれないか」


すると、とても耳障りの良い声が背後から届いた。


「イシュネ様っ・・!」


あら、いつの間にこちらに?

正装を纏ったイシュネ様がそこにいた。

そして、そんなリリアンヌの心の問いをしってか知らずか王子が答える。


「いまさっき来たところだよ、ノックして入ったんだけど彼との会話に夢中で気づかなかったみたいだね」


あの、そんな風に光の無い瞳で笑わないでください。なんか生きた心地がしなくなるんですよね、じつは前から思ってたんですが。

なんて言えるはずもなく。


「それは大変失礼を!・・申し訳ございません、イシュネ様」


「いいんだよ」


今日は気分がいいから、と。確かになんだか王子の周りにお花がみえる気がする。

そうですわよね、だって今日は王子と私の記念すべき日になることに間違いない。

そんな日はお花のオーラだって咲いてしまうものだ。


「あの、こんなに素敵なドレスまで用意していただいて・・何から何まで本当にありがとうございます」


「ああ、当たり前だろう。今日は特別な日なんだ」


「それはそうですけれど」


だからと言って、婚約破棄してしまう相手のために用意する代物では無い気がするのだが。

きっと王子は形から入るタイプなのだろう、と強引に納得させる。


「とてもよく似合っている」


すっと長い足を前に出し、距離を縮めた王子の手がリリアンヌの髪をひと束すくった。

その手のひらからサラサラとこぼれ落ちた金色がまるで上質な糸のようだ。

躊躇いなく、王子がそこに唇を落とす。


その瞬間、リリアンヌは頬に熱が集まったのを感じた。

コバルトブルーの瞳がじっとこちらを見つめていて、居ても立っても居られなくなる。


「なっ・・!?」


な、な、な!なんですかこれは!

うまく息ができないんですけれどっ!


淑女たるもの焦ってはいけないと、あわてて唇を引き結び、そっと王子から距離をとろうとしたのに腕を掴まれた。

なぜ?


「あ!あのっ・・王子!」

「なんだい?リリー」

「ち、ちかすぎませんか?」


王子がくるりと後ろに向く。


「そうだろうか?」


やめてください!カルマに訊くのは!!


「いえ、適切な距離感かと」


はい!?何を言ってるのよ、ど阿呆従者は!!

もうクビよ!!クビ!!絶対クビ!!!!


言っておくが『適切』では絶対に無い!!

真っ赤な顔で、王子越しに従者を睨みつける。


「リリーは良い従者を持ったね、さあ朝食にしようか」



なぜか満足げな王子に手を引かれ、リリアンヌは戦い前の腹拵えに向かうこととなった。



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