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ほんとうの顔

逃げられるはずがないんだ。

イシュネ・リバー・カーライルからなんて。


脳内お花畑のお嬢様は阿呆で馬鹿で考えが及ばないから、わからないのだ。


王子の底しれない恐ろしさも、本当の顔も、なにもかも。


リリアンヌは裏切り者の従者を、今にも涙が溢れそうな真っ赤な目で睨みつけた。


胸は痛む。

だが、謝ることはしない。

お嬢様の心はずったずたに傷ついているだろうけど、とにかくもう王子から手を引きたかった。

ここで、このお嬢様に絆されたところなんてみせたら・・どうなるかわからない。



『君は、アランが唯一娘のそばにいることを許した男だものね?妬けるなあ、僕でさえ簡単にサージャン家に入ることが出来ないのに』



あの日、脅されたのは俺のほうだ。

ごくんと唾を飲む。


鋭い眼差しはそのまま、目の前王子の手をとり、リリアンヌがゆっくりと立ち上がる。


「ええ、決着をつけましょう。イシュネ様」


王子の顔が綻んだ。



「良かった。君のために、最高の舞台を用意したんだよ」


「まあ、ありがたいですわ」


「明日、国王王妃両陛下への謁見をとりつけた」


「・・はい?」


「そこで、君から説明するといい。この従者と結婚するから僕との婚約は破棄してほしいと、高らかに宣言をしておくれ」


柔らかに笑うイシュネに、リリアンヌの思考は少しばかり停止した。


「大体の事情はもう既に伝えてある」


なぜ、国王王妃に!?

まだ当事者で話し合っている案件なのに、謁見をとりつけるなんて!

それに事情は伝えてあるって、どういう事情ですか!?


こっちはお父様とお母様にも極秘裏で進めていますのよ!?


「・・なぜ、ですか?」


「なぜ、とは?」


「まだ何も結論が出ていないのに、どうして国王と王妃までをも巻き込むのですか?」


なにもわかっていない、と。

イシュネは小さく笑った。


「君に振られて傷心した僕は、しばらくの間花嫁選びから遠ざかりたいと、国王陛下にお願いするためだよ」


リリアンヌの縁取られた瞳に、イシュネの綺麗な顔が映し出される。

そんなリリアンヌに構わずイシュネが続ける。


「面倒なんだ。君以外、妃にする気はないし。お転婆なリリアンヌなら、謁見をとりつけて陛下の前で僕に婚約破棄を言い渡すなんてまさか常人ではあり得ないってことをやってのけられるし、朝飯前だろう?それに、それくらいのことをしなければ傷心した僕というのを陛下に信じては貰えない。だから僕にも協力してくれないか?リリー」


これは、褒められているのかしら?

いえ、そんなことは今どうでもよくってよ。

ということは、つまり。


「そう、でしたか。では、殿下も心はわたくしと同じということですよね?」


「君の考えたお遊戯では、王命で下された婚約を破棄するなど到底できないよ?」


ああ。だから、劇とおっしゃられたのね。

聞いた瞬間は怒り心頭でしたけど、なるほど。

そういうことだったのですわね。


ぱあっと花が咲いたように笑顔をみせたリリアンヌは、殿下の手を両手でぎゅっと握りしめる。


「殿下、ありがとうございます!私その策にのりますわ!・・・あ、先程はとんだ失礼をいたしました、申し訳ありません」


先ほど、殿下を強い力で押し退けてしまったことを謝罪する。

イシュネはなんでもないというように穏やかに口角を上げた。


「明日の謁見は早いから、今夜は泊まれるように手配したんだ」


「そういうことだったのですね、先に言ってくだされば良かったのに」


「すこし、バタバタしていてね。このタイミングになってしまった」


「あ!いえ、お忙しいですものね!殿下には感謝しかございませんわ」


「リリアンヌの役に立てて良かった」


「こちらこそですわ」


すっかり機嫌が戻ったリリアンヌにイシュネが明日の婚約破棄の演技指導をはじめた。

その様子は、見るに耐えず。

公爵令嬢たるものが、国王陛下の前でやることでは絶対にない、とカルマは心の内に独りごちた。


そして、お嬢様の未来がどうなってしまうのかと考える。


王子は、お嬢様を・・



ふと、底しれない闇のような深さをみせるイシュネの瞳とぶつかった。


普通に立ってられなくなるほどの、異様な何かを感じ、慌ててリリアンヌから視線を逸らす。


『君がリリーのそばにいること、僕は決して許してはいないから』


そう言われたことを思い出す。

お嬢様からは、自分たちの意思ではない政略結婚だときいている。ただ、生まれた時から決まっていただけだと。

そんな相手にここまでの異様な執着心を抱くものなのか?


お嬢様は、確かに容姿は悪くない。

むしろ整っているほうだと思う。けれど、王子であれば容姿のいい女性なんて次から次へと現れるだろうに。


いや、やめよう。

考えても仕方ない。とにかくもう、自分はこの案件から手を引くのだ。



カルマはただ、明日が無事に終わることだけを祈っていた。


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